感染者が出ても毎日動かす「使命」がある コロナ禍の鉄道職員の今 | FRIDAYデジタル

感染者が出ても毎日動かす「使命」がある コロナ禍の鉄道職員の今

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緊急事態宣言が出された1月8日、都内にある駅の通勤時間帯の風景。新型コロナ感染拡大防止のため、「3密」を避けることが叫ばれる中、鉄道職員は現場で勤務を続けている(写真:西村尚己/アフロ)
緊急事態宣言が出された1月8日、都内にある駅の通勤時間帯の風景。新型コロナ感染拡大防止のため、「3密」を避けることが叫ばれる中、鉄道職員は現場で勤務を続けている(写真:西村尚己/アフロ)

昨年1月16日、日本国内で初めての新型コロナウイルス感染者が確認された。それから1年、ダイヤモンド・プリンセス号での集団感染や、志村けんさんの死去、東京オリンピックの延期、2度の緊急事態宣言の発出など慌ただしく時は流れた。2021年を迎えても、東京では毎日1000人を超える感染者が確認されるなど、新型コロナウイルスの感染が収束する気配は見えない。

それでも人々の日常は形を変えながらも続いていく。そして、それを支える鉄道も動き続けている。通信事情が発達してもテレワークができない現場で働く鉄道マンたちの日常はコロナ禍でどのように変わっているのか。現役鉄道マンに話を聞いた。

緊急事態宣言下でも夕方の混雑は2割増し

鉄道の現場も新型コロナと無縁ではない。昨年12月から今年1月にかけて、都営地下鉄大江戸線の清澄乗務区に所属する運転士など39人が新型コロナウイルスに感染。運転士の数が不足したため、年末年始の2週間にかけて列車本数を削減して運行せざるを得ない状況に陥るという「事件」があった。

東京都交通局によると、感染経路を調査した保健所は乗務区の洗面所の蛇口から感染が広がった可能性が高いと指摘したという。交通局では建物を消毒し、蛇口をひねる際はペーパータオルを被せるよう指導するとともに、センサー式の蛇口への交換を検討している。

ただ、鉄道会社の備えが不足していたと断じるのは早計だ。駅員や乗務員への集団感染は鉄道運行に重大な影響を及ぼすことから、こうした事態を防ぐため、鉄道会社は職場の感染予防にかなり力を入れてきた。

また、運転士は終電や初電を運転するため、泊まり勤務があるが、宿泊所の寝室のシーツは今まで数日に一度、グループ会社の清掃員が交換していたのを、コロナ禍以降は感染防止策として毎日、自分で交換するようになったそうだ。睡眠時間が減るとの文句もあるようだが、安全にはかえられない。

コロナ禍は運転士の給与にも影響を与えている。JRと大手私鉄は軒並み大赤字に転落し、ボーナスも大幅にカット。さらに鉄道の乗務員は基本給に加えて乗車距離に応じた乗務手当を支給されているが、コロナ禍で臨時列車が軒並み運休となり、乗務回数が減っているため、手取りも減ったという。

また駅員や乗務員は勤務終了後、残業扱いで研修を行うことがあるが「赤字の額が額なので、残業に対して会社が急に渋くなった」(A氏)との声も。もっとも定期便を含めて大幅減便している航空各社とは異なり、鉄道では通常ダイヤは維持しているため、同じ交通業界でも影響は少ない方と言えるだろう。

一方で有給休暇が取りやすくなったというのは同じく首都圏の鉄道会社で運転士をしているB氏。運転士や車掌は突発的な事態に備えて、勤務に就かない予備者が確保されている。ところが、臨時列車の本数が少ないため、乗務員が余ってしまい、予備の乗務員がかなりいる状況だという。

予備の出番がない理由は他にもある。新型コロナ対策で手洗い、消毒が徹底されているため、今年はインフルエンザの患者数が大幅に減少しているという報告がある。これは鉄道も同じようで、「毎年、冬の時期はインフルエンザで休む人が出るが、今年はいない」(A氏)そうだ。

昨年春の緊急事態宣言では鉄道利用者が最大7割減少するほどの「外出自粛」が行われたが、今回の緊急事態宣言では利用者に変化はあるのだろうか。B氏は「朝ラッシュは前回ほど乗客が減っている印象はない」と語る。政府はテレワークの7割実施を求めているが、国民が緊急事態宣言慣れしてしまった面もあるのだろう。

一方で混雑時間帯には大きな変化が出ている。飲食店の午後8時までの営業時間短縮が要請されたことで「午後8時以降の乗車率は半減したが、サラリーマンが定時で帰宅しているせいか、夕方の混雑はこの1か月でむしろ2割増になっている」(B氏)という。

利用者にも変化が見られる。感染防止策としての列車の窓開けはすっかり日常の風景になり、これまでは冬場に窓が開いていようものなら寒い!と苦情があがったものだが、今では窓が開いていないという苦情もあるとか。

現在、多くの鉄道会社では車庫から電車を出すときに1両につき2か所、対角線上の窓を開けているが、寒くなると閉められてしまうケースも。しかし、そんな時も「乗客のほうがよっぽど意識が高い」(B氏)ようで、ほとんどの人はクレームを入れるより先に積極的に窓を開けていくので、終点に到着するまでに全ての窓が開いていたということもあったそうだ。

戦時中も通勤電車は毎日動いていた。コロナ禍にあっても電車は走り続けている。どんな時代でも、私たちの日常を支えてくれる運転士たちに敬礼したい。

改札を消毒する大阪・貝塚市に拠点を置く水間鉄道の駅員(写真:共同通信)
改札を消毒する大阪・貝塚市に拠点を置く水間鉄道の駅員(写真:共同通信)
  • 取材・文枝久保達也

    (鉄道ジャーナリスト)埼玉県出身。1982年生まれ。東京地下鉄(東京メトロ)に11年勤務した後、2017年に独立。東京圏の都市交通を中心に各種媒体で執筆をしている。

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