「炎上テーマ」からも逃げない 長瀬智也『俺の家の話』の心意気 | FRIDAYデジタル

「炎上テーマ」からも逃げない 長瀬智也『俺の家の話』の心意気

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今年3月でジャニーズ事務所を退所予定の長瀬。ドラマでの好演がひかる(16年撮影)
今年3月でジャニーズ事務所を退所予定の長瀬。ドラマでの好演がひかる(16年撮影)

長瀬智也(42)とクドカンこと脚本家・宮藤官九郎(50)のドラマ『俺の家の話』(TBS系)が、想像以上に良い。『池袋ウエストゲートパーク』(2000年/TBS系)、『タイガー&ドラゴン』(2005年/TBS系)など多数の大ヒット作を生み出してきたコンビだけに、もともと前評判は高かった。が、今作は脚本と役者たちの演技が見事なまでに時代の空気にハマっていて、社会現象になりそうな予感までする。

物語は、能楽の日本国宝である父親(西田敏行)に反発してプロレスラーとなった長男・寿一(長瀬智也)が、その父の介護のために実家に戻ってくるというもの。一度でいいから父に褒めてもらいたいと思いながら育った寿一は、40歳にして、父の介護を通して様々な感情と向き合うことに……。

一見、介護というシリアスになりがちなテーマを、クドカン特有のコミカルなタッチで軽妙に描いており、誰もが素直な気持ちでドラマを受け止めることができているようだ。後妻業疑惑のあるヘルパー・さくら(戸田恵梨香)、遺産をあてにする寿一の妹(江口のりこ)と弟(永山絢斗)など、演技派ばかりをそろえたキャスティングも素晴らしく、ネット上はナチュラルな好評価コメントが多く見られる。

クドカンが古くならないワケ

昨今は大御所の脚本家たちの作品が多く提供されているが、一抹の古さをぬぐい去ることができず、苦戦を強いられている。そんな中、なぜクドカンは古くなるどころか、時代の空気を適確に捉え続けられるのだろうか。芸能記者たちに話を聞いてみた。

「クドカンはいつも題材のチョイスが絶妙ですよね。今回は、今の高齢化社会で注目されいてる“介護”ですが、これまでもゆとり教育に焦点をあてた『ゆとりですがなにか』(2016年/日本テレビ系)、アイドルブームを皮肉ったNHK朝ドラ『あまちゃん』(2013年)など、旬の題材をコミカルに描いて嫌味なく問題提起している。

しかも今作ではさりげなく、昨今注目度が高まっている学習障害も絡めているなど、炎上しやすいテーマからも逃げない。だから視聴者は、ファンタジーではなく自分たちの今の物語として惹き込まれるのではないでしょうか。そこが、いつまでもトレンディな恋愛を描き続ける大御所脚本家たちとの大きな違いと言えるかもしれません」

またある女性記者は次のように語る。

「昨今はコロナ禍もあって、ドラマぐらいは幸せなものが見たい、というニーズが高まっています。そのニーズに上手くこたえて大ヒットしたのが『私の家政夫・ナギサさん』(2020年/TBS系)でした。ところがこの大ヒットを受けて、やたらめったら“いい人しか登場しないドラマ”が作られるようになった。でもそうなるとあまりにリアルが欠けてしまい、逆に視聴者はそっぽを向いているのが現実です。

このように、“温かいけれどもリアリティがある”という作品作りは非常に難しい。クドカンは昔から、その匙加減の天才と言えると思います。素直に息子を褒められない父親。その父親が自分をさしおいて自分の息子を褒めたことで、いい歳して嫉妬を感じてしまう情けなさ。そして『私は寂しいお年寄りの寿命を延ばした、その対価を受け取って何が悪い』と堂々と言ってのけるヘルパーの女……。

きれいごとではない人の心理を描きながらも、お得意のコミカルなオチをつけて見る者に辛さを感じさせない。皆がコロナ禍に本当に見たかったのは、こういうドラマだったのではないでしょうか」

この先ドラマは、好きなものを諦められない葛藤、介護の現実、そして高齢化時代の死に方など、現代社会が抱える苦悩を遠慮なくドスドスと打ち込んでくる模様。果たしてクドカンはその残酷な現実をどのように私たちに届けるのか、楽しみに注目していきたい。

  • 取材・文奈々子

    愛媛県出身。放送局勤務を経てフリーライターに。タレントのインタビュー、流行事象の分析記事を専門としており、連ドラ、話題の邦画のチェックは欠かさない。雑誌業界では有名な美人ライター

  • 撮影山田宏次郎

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