名門・ホテルグランドパレスがコロナで営業休止の衝撃
’73 年には「金大中事件」が発生し、プロ野球ドラフト会議の舞台だった老舗
開業は1972年。ホテルグランドパレスは、建物こそ少々古めかしいが、格式高い名門だ。都心の真ん中にあり、東京メトロ・九段下駅(千代田区)から徒歩1~2分。結婚式場としても人気である。
そんな同ホテルに年末以降、宿泊した利用客はフロントで封書を渡される。常連客の50代男性は驚愕したという。
「中身は7月1日から営業を休止するというお知らせでした。文面には『事業継続に関する検証を行う必要がある』、『過去に類を見ない経営環境に陥っている』と書かれており、休止期間については『当面の間』とだけ。このまま閉館してしまうこともありえるのでしょうか……」
緊急事態宣言が解除されるまで休業するホテルや旅館は続出している。だが、5ヵ月先の7月から、しかも高級ホテルの営業休止は業界に衝撃を与えた。
「グランドパレスは建物が老朽化しており、リニューアルのタイミングを窺(うかが)っていたのだと思います。ところが、コロナ禍によって身動きがとれなくなったのでしょう」(別のホテル運営会社幹部)
本誌記者は1月中旬の平日夕方に、グランドパレスを訪れたが、ロビーや館内のカフェは閑散としていた。スタッフに「7月以降のカフェの営業はどうなるのか?」と尋ねても、「まだ白紙です。私どももわからないので、なんとも……」と寂しげに言うばかりだった。
同ホテル総務部の担当者はこう語る。
「’20年の売り上げが’19年と比べると7割減になってしまいました。営業再開に関しては検証中です。(閉業ということは?)今の段階では決まっていません」
グランドパレスの営業休止について、ホテル評論家・瀧澤信秋氏が解説する。
「同ホテルの特徴は、好立地なうえ費用面でも気軽に利用できる多彩なバンケット(宴会場)を備えていること。その需要がごっそりなくなってしまった。収益の柱を失って営業を続けても、コストがかかるだけです。またグループやチェーンホテルは、スタッフを別のホテルに割り振ることもできるため、営業休止を決断するケースも見られます」
’73年の「金大中事件」や’76年~’88年の「ドラフト会議」はじめ、下写真にある歴史的な出来事はグランドパレスが舞台である。とくに宴会場では、数多くの記者会見が開かれてきた。だが、コロナショックには勝てなかった。
「一度、クローズしてしまうと、どうしてもイメージは落ちます。時間はかかるでしょうが、インバウンド需要が戻ってくる時期を見計らって、今後の展開をどう考えていくのかを注視したい」(瀧澤氏)
ホテル・旅館専門不動産鑑定評価会社『株式会社日本ホテルアプレイザル』代表の北村剛史氏が言う。
「いまはコロナ禍が収束した後を見据えた対応を行う時期だとも言えます。グランドパレスは歴史と権威があるホテルで、固定のお客様も多い。ですが、建物が老朽化していると、どうしても今後のニーズに十分、応えられない。コロナ禍が落ち着いたら、東京へ旅行に行きたいという需要も膨らんでいます。だからこそ、観光中心のホテルに調整し直す良いタイミングだと思います」
ホテル業界は岐路に立たされている。元プリンスホテルグループ社長で、横浜グランドインターコンチネンタルホテルの堤猶二会長は本誌にこう語る。
「新型コロナウイルスの感染拡大が収まったとしても、接待やパーティなど企業によるホテルの利用は減少するでしょう。そのため、シティホテルの飲食部門にこれまで通りの需要が戻るとは思えない。コロナ禍によってホテル業界はビジネスの仕方を変える必要がある。環境の変化に対応できなければ生き残っていけない。今、そんな瀬戸際に立たされています」
ホテル業界にまだ光は見えていない。
1985年11月20日「涙のドラフト会議」
1973年8月8日「金大中事件」
1998年8月21日「WBC調印式 辰吉丈一郎vs.ポーリー・アヤラ」
1981年1月25日「千代の富士・初優勝祝賀パーティ」
「FRIDAY」2021年2月12日号より
- 撮影::蓮尾真司(1枚目) 朝日新聞社(千代の富士)