エイベックスがアーティストを育てられなくなった「複雑な背景」
大手レコード会社『エイベックス』が大きな転換期を迎えている。
コロナ禍の影響でライブ収益が減少したことなどにより、昨年9月の中間連結決算の最終赤字は32億円。40歳以上を対象に100人程度の希望退職者を募り、さらに’17年に移転したばかりの南青山(港区)の本社ビルの売却も決定した。
そんななか、エイベックスの屋台骨ともいえる「アーティスト育成」の分野においても、変化が起きようとしている。
「養成スクール『エイベックス・アーティストアカデミー』も事業規模を縮小することになりました。アカデミーには東京・名古屋・大阪・福岡と、4つの直営校がある。このうち、東京校は原宿のビルを1棟借りしていましたが、4月末をもって移転することになった。
改革はそれだけではありません。現在、4つの直営校に在籍している受講生は約3000人いますが、この子たちについては今年2月中に『選抜オーディション』を行う。東京校に所属している講師に向けて行われた説明会では、オーディションで40名程度に絞るという言い方をしていました」(アカデミー所属の現役講師)
浜崎あゆみや倖田來未といった歌姫を輩出し、エンタメ界で一時代を築いたエイベックスだが、近年はなかなかスターが出てきていない。その要因の一つが、アカデミーの運営にあったという。
「最初の直営校である東京校ができたのは’01年。それ以前は全国で広くオーディションを行い、才能を集めていました。選抜・育成は松浦さん(勝人・会長)が直接行っていた。見どころのある子を集めて合宿をし、徹底的に鍛え上げるということもやっていました。
しかし、その気風がアカデミー創設によって変わってしまった。東京校に続いて大阪、名古屋、福岡とできるうちに、スターを見つけるためではなく、『スクールビジネス』になっていってしまったのです」(エイベックス関係者)
人数が増えすぎれば当然、その中から才能を見出すのは難しくなる。前出のアカデミー現役講師が続ける。
「間口を広くすれば、さまざまな子が受講生として入ってくる。プロになりたい子とただ単に趣味でダンスを習いに来ている子。その子たちが一緒になってレッスンを受けているので、プロを目指している子のモチベーションは上がらないし、講師もどのくらい厳しく指導をするべきかわからなかった。結果、どっちつかずになってタレントが育たないという状況が続いていました」
コロナ禍によってアカデミーも休校が続き、経営が厳しいというのも現実だろう。しかしそんな状況だからこそ、エイベックスは原点回帰をしようとしているようだ。
「選抜オーディションをして才能を見極め、もう一度〝エイベックスブランド〟のスターを育成したい。それがアカデミー移転の大義名分です。とはいえ、いまのエイベックスにスターを見極める目と育てる力があるのか。内部では不安と期待が半々という感じです」(同前)
アカデミー移転を契機に、エイベックスが再びエンタメ界の雄となれる日は来るか。
2月5日(金)発売のフライデーでは、アカデミーの移転に関して本誌がエイベックスに取材を行った結果について詳報している。
PHOTO:田中俊勝