森喜朗会長の「女性蔑視発言」なぜ出たか…透ける暗闘の思惑 | FRIDAYデジタル

森喜朗会長の「女性蔑視発言」なぜ出たか…透ける暗闘の思惑

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森喜朗会長は4日の記者会見で「深く反省、発言を撤回、お詫びしたい」と述べたものの、表情からは反省はあまり感じられず……(写真:アフロ)
森喜朗会長は4日の記者会見で「深く反省、発言を撤回、お詫びしたい」と述べたものの、表情からは反省はあまり感じられず……(写真:アフロ)

東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長が3日の日本オリンピック委員会(JOC)評議員会で「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」と発言した問題は、「女性蔑視ではないか」と、国内にとどまらず、海外メディアにも取り上げられた。

森会長の進退までに発展するのでは、とみられたが、当初から辞任する気など森氏の頭の片隅にもない。大問題発言の背景を探ると、スポーツ界の勢力争いを巡る森氏の焦りと策謀がみえてくる。

ターゲットになった人物とは……

森会長といえば、2000年5月の「日本の国は、まさに天皇を中心としている神の国であるということを国民のみなさんはしっかり承知していただきたい」をはじめ、失言を重ねてきた。

コロナ禍によって1年延期された東京五輪が今年7月に開催できるかどうかを決める期限が迫っているときに飛び出した女性軽視発言に「いや、参った。内容も内容だけどタイミングが悪過ぎる」と競技団体関係者は突き放す。

前日の2日には自民党本部で開かれた会議で「新型コロナウイルスがどうであろうと、必ずやり抜く」と語り、聖火リレーの際の三密を避けるために「有名人は田んぼを走ったらいいんじゃないか」と意味不明のコメントまで口にした。

多くの人は何も考えず、唐突に言いたいことばかり、と思うかもしれない。しかし、それは表面的な見方である。森会長の真意を見抜かなければならない。そこにこそ本当の問題があるからだ。手練手管を使い総理大臣まで上り詰めた政治家だけに、どこで何を喋るかは、それなりに計算している。

JOC評議員会の場にて、なぜあんな発言をしたのか。長年、五輪の現場を取材してきたベテラン記者は「JOC理事に森会長のターゲットになる人物がいますからね。森さんにすれば、積もり積もった思いがあり、ここで一発食らわしておくという浅はかな考えがあったのでしょう」と指摘する。

では、標的にされたのは、一体、誰なのか。前出の記者が続ける。

「1988年ソウル五輪女子柔道銅メダリストの山口香理事です。彼女は昨年、いち早く東京五輪開催延期を唱え、今年1月には『中止を議論したほうがいい』『開催は難しいのでは』と新聞のインタビューに答えています。森会長のなかには『なりふり構わずみんなで突き進もうとしているのに、冷や水を浴びせるのか』という恨みがあったのではないでしょうか」

必要なときには鋭くモノ言う山口香・JOC理事。現役時代は「女三四郎」の異名をとった(写真:共同通信)
必要なときには鋭くモノ言う山口香・JOC理事。現役時代は「女三四郎」の異名をとった(写真:共同通信)

2011年にJOC理事となった山口理事といえば、2012年ロンドン五輪後に柔道女子選手が監督、コーチらから暴力を受けていたと訴え出た際、後輩たちのために奔走。スポーツ界のガラスの天井を突き破ろうと、女子選手の地位向上のために先頭に立ち続けている。

ここに現れたのが1984年のロサンゼルス五輪金メダリストの山下泰裕氏だった。実は山下氏と森氏の間には太いパイプが存在する。それはあらためて後述するが、山下氏が2019年6月、JOC会長に就任すると、最初に手をつけたのが理事会の「非公開化」だった。

それまで理事会の場では報道陣用の席が設けられ傍聴が許されていたが、「記者がいると言いたいことが言えない」などという理由で扉を固く閉じる案を提案。この際、反対したうちの一人が山口理事だった。たとえ相手が同じ競技の先輩で、国民栄誉賞受賞者だろうが、言うことは言う、ダメなものはダメと、自らの考えを貫いた(ちなみにこの時、山口理事に賛同して反対した人が4人いたが、全員が女性だった)。

結局、賛成多数で非公開が決まったものの、山下会長は出ばなをくじかれたうえに、何より身内の柔道界からの突き上げが面白くなかったはずだ。山下会長は、昨年3月、山口理事が五輪開催延期論を口にしたときは「内部で発言せず、外に発言するのは極めて残念」と強く批判した。

JOC山下会長と東京オリンピック、パラリンピック組織委員会の森喜朗会長は深いところでつながっていた(写真:アフロ)
JOC山下会長と東京オリンピック、パラリンピック組織委員会の森喜朗会長は深いところでつながっていた(写真:アフロ)

「女性蔑視発言」は単なる自爆ではない

前述した「森ー山下ライン」は鉄壁といわれる。女性蔑視発言が飛び出した評議員会でも、森会長は「オリンピックを失敗したら、菅(首相)さんに責任を取らせるし、森にも責任を持たせるし、山下さんも。ということを考えている方がスポーツ関係者の中にはかなりおられる」と牽制球を投げたあと「山下さんのリーダーシップ、あらためて、大いに評価をし、これからもオリンピックにむけてしっかり頑張っていただきたい」と語り、「女性がたくさん入っている理事会は…」という女性蔑視発言につながっていく。

「あの2人はロシアのプーチン大統領と関係が深いことで知られています。森会長は総理の時から政治家として今日に至るまで関係を築き、山下会長も、柔道家としても知られるプーチン大統領から『尊敬する日本人』として名前をあげられたことがある。東京大会が開催されてもロシアはドーピング違反で個人資格の参加となりますが、プーチン大統領に頼まれたら、IOC(国際オリンピック委員会)に救済策をねじ込むかもしれません。山下会長はJOC会長に就任直後、スポーツや社会活動で顕著な功績があったとして、プーチン大統領から『ロシア名誉勲章』をもらっているから、そのお返しをしないといけない気持ちもあるのでは」(前出のベテラン記者)

山口理事は4日、スポーツ報知の取材に対し、「東京大会は男女平等や障害者への配慮を前提にした大会だったはず。組織委の代表のそうした発言は残念」と語る。

こうした背景から出た、女性蔑視とも受け取られかねない発言。国内外からの批判は覚悟のうえで、決して思いつきのものではないだろう。だから批判をされても、森会長は平気な顔をしていられるのだ。しかし、非難の声は想定以上のものになるはずだ。

実は、森会長を追い詰めているのは、この発言への批判だけではない。

森会長が代表理事を務める一般財団法人「嘉納治五郎記念国際スポーツ研究・交流センター」が、昨年末をもってひっそりと活動を停止した。この財団については、ロイター通信が「東京招致委員会から約1億4500万円が支払われているのが銀行口座記録にある」と報じている。

この組織はスポーツの発展を図ることを目的に設立されたといわれているものの、その内情は明らかになっていない。活動停止も突然で関係者には知らされていなかった。なにかしらの不都合を感じて、活動を停止した可能性がある。

日本人はマスコミを含めて忘れっぽいが、海外は違う。フランスの検察当局は2019年1月に発覚した五輪招致における贈賄容疑の捜査を続け、現地メディアも取材を続けている。今回の森発言、本人は「時間が過ぎれば忘れられる」と高をくくっているかもしれないが、海外からも二の矢三の矢が放たれ、スポーツ界に激震が走る日は遠くないかもしれない。

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