AIで世界を変える ABEJA・岡田陽介社長の仕事場 | FRIDAYデジタル

AIで世界を変える ABEJA・岡田陽介社長の仕事場

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「社長の仕事場」を見たい!第3回 取材・文:夏目幸明(経済ジャーナリスト)

ABEJAでは社員の決まった席がなく、各々が空いた席に座る。左奥に見える衝立の前が岡田の席
ABEJAでは社員の決まった席がなく、各々が空いた席に座る。左奥に見える衝立の前が岡田の席

白金のタワービル内にあるABEJA(アベジャ)のオフィスを訪ねると、岡田陽介社長(29)が横縞のシャツ姿で迎えてくれた。”いつもの格好”だ。彼は他の大企業の幹部と話す時も、このラフなスタイルを崩さない。

「余計なことに頭を使いたくないんですよね(笑)。何を着ているかより、何を語るかのほうが重要じゃないですか。ならば、それだけに神経を研ぎ澄ませていたいんです」

話す内容は鋭いが、その口調や表情はあくまで穏やか。驕った雰囲気や、粋がった空気は微塵もない。その飾らない人柄を示すように、オフィスの一角にある岡田の「社長席」は、威圧的な装飾も豪華なソファもなく、パソコンが1台置かれているだけの簡素な席だった。

それだけを見れば、おそらく誰も信じないだろう。岡田がディープ・ラーニング(深層学習)を中心とするAI(人工知能)の技術を駆使し、デパートやコンビニなど小売・流通業界の経営の最適化や、製造業における生産性の向上において世界的な先駆者であることを。

そして彼が、それによって「世界を変えたい」という壮大な夢を持っているということを――。

岡田は小学生の頃にITと出会った世代だ。インターネットに触れるや、少年の頭脳はすぐにその意味を理解した。

「それまで自転車で行ける範囲が僕の世界だったけど、これを使いこなせば世界中と繋がれる! と思ったんです」

この興奮が少年の人生を変えた。愛工大名電在学中にはCGの研究で文部科学大臣賞を受賞。大学進学後は様々な国際会議で三次元CGの研究成果を発表し、ついには仲間たちと起業も果たす。

ただ、うまくはいかなかった。

「超越した者たち」との出会い

「大学時代、インスタグラムのような写真共有サービスを立ち上げたことがあったんです。ところが……保管する画像の枚数が多くなるとサーバーのコストも爆発的に増え、すぐにキャッシュが底をついてしまいました。今思えばサークル感覚だったのかも(苦笑)」

この苦い経験が、ビジネス感覚を持ちつつ生き、さらには社会的課題を解決したい、という人生の指針となった。その後、岡田は様々な企業からオファーを受けたが、「経営者になるための勉強をしたいならウチですればいい」と声をかけてくれたベンチャー企業へ入社する。そして’11年、シリコンバレーを視察する機会を得た際、人生最大の転機がやってきた。それは衝撃的な経験だった。

「米国の起業家やエンジニアが話す技術的な部分は普通だった。でも、自分とどこかが違う。単に知識が豊富、人脈が広いといった話ではなく、彼らはどこかが超越していたんです。『宇宙船をつくろうと思っている』といった会話がごく日常的でした。しかも夢想でなく具体的な根拠もある。そして、日本だと『バカなんじゃないか?』と一笑に付されてしまうような話でも、真剣に耳を傾ける投資家が大勢いるんですよ。

彼らには共通語があった。それは『Change the World!』。みんな本気でこの世界を変えようとしていて、やるのは自分だと信じている」

当時、シリコンバレーでは大きな潮流が生まれつつあった。AIの飛躍的な進化だ。これは全産業を変えるポテンシャルを持っていた。

例えばデパートにAIを導入すれば、購買された商品と来店者の画像データなどを併せ、どんな時間にどんな顧客が何を買うのか等を、高精度で可視化できるようになる。自動車などの工場に導入すれば、生産性を劇的に向上させることが可能だ。農業や医療分野でも、熟練の技をAIに教え込めば、肥料の量や病気を判別する作業を人間より正確に行ってくれる――。

人間とAIが作る新しい世界

岡田は帰国し、’12年9月にABEJAを創業した。ABEJAとはスペイン語で「ミツバチ」の意。花から花を飛び回って受粉を援(たす)けるミツバチの存在は、自然界にとってなくてはならないものだ。社会にとって、ABEJAもそうありたい。そんな意思を反映した社名だった。

最初は理解されなかった。岡田は日本の大企業を訪ね歩いたが、その発想はなかなか賛同を得られない。集めた起業資金100万円はすぐに10万円を切ってしまい、ギリギリの状況まで落ちた。

しかしこの時、岡田を救ったのは仲間たちだ。現在の取締役の一人が、救世主のエンジェル投資家として資金を投入。大学時代の友人も加わり、大胆な経営改革も行われた。すると次第に突破口が見え始め、’15年に同社はAIを活用した店舗分析サービスを小売・流通業向けにリリース。顧客企業は「商品の最適な配置で売り上げ増」などの成果を出し始めた。AIの開発運用基盤「ABEJA Platform」の顧客も徐々に増え、同社のサービスはコンビニ各社、世界に名だたる自動車部品の工場などへと拡大、伊藤忠商事、NTTなどの大企業が出資するベンチャーの雄へと成長した。

岡田の感覚では、日本の大企業は、いまだ「太平の眠り」の中にいるという。

「日本の経営者は技術革新をキャッチアップできていないことが多いのです。AIを新規事業に使いたいと言っても、AIを活用すべき課題が自社のどこにあるのかわかってないとか、『AIに投資します』と言っても資金が米国に比べ2桁少ないなど、例をあげればキリがありません」

少子高齢化の日本では人手不足が叫ばれている。そんな課題の解決に、AIは間違いなく大きな役割を果たすだろう。

「将来、人間の目、判断力で行っていた作業はAIがより正確に行うことになるはずです。そして人間は、単純な作業や労働から解き放たれ、接客やクリエイティブな活動など、人間でなければできない仕事をするようになっていく」

ミツバチのような横縞シャツの社長がこの世界を変えていく。(文中敬称略)

東京タワーを望む眺めの良い窓際の席は、打ち合わせや休憩もできるカフェ風のスペースになっている
東京タワーを望む眺めの良い窓際の席は、打ち合わせや休憩もできるカフェ風のスペースになっている
社長席に華美な装飾は一切なし。目の前で作業する社員がすぐに声をかけられる場所と距離に岡田は座る
社長席に華美な装飾は一切なし。目の前で作業する社員がすぐに声をかけられる場所と距離に岡田は座る
  • 取材・文夏目幸明(経済ジャーナリスト)撮影鬼怒川毅

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