いま明かされる「ボキャ天」キャブラーのキャッチフレーズ秘話 | FRIDAYデジタル

いま明かされる「ボキャ天」キャブラーのキャッチフレーズ秘話

放送作家・高橋洋二が明かす『ボキャ天』のウラ側!

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「不発の核弾頭・爆笑問題」。このように『ボキャ天』のキャブラーにはキャッチフレーズが付けられていた
「不発の核弾頭・爆笑問題」。このように『ボキャ天』のキャブラーにはキャッチフレーズが付けられていた

今年の1月、爆笑問題の田中裕二が脳梗塞に罹り、大事には至らなかったが念のためひと月の休養をとることになった。すべてのレギュラー番組ではその間、週替わりで田中の代役を招聘して対応した。私が構成を担当しているTBSラジオ「火曜JUNK爆笑問題カーボーイ」は1月26日の放送でアンジャッシュの児嶋一哉に代役を依頼した。リスナーから児嶋への質問メールが届く。

『青梅街道の蒼い星』と呼ばれていた『ボキャブラ天国』でのエピソードを教えてください」

「よく覚えてるねえ」と児嶋は、当時若手の自分達はいじられるような特徴がなく、このキャッチフレーズ所属事務所が青梅街道沿いにあるので適当に付けられた、と答えた。そして当時は収録スタジオの楽屋の大部屋は、元気のいい芸人たちに占拠されていて、アンジャッシュのようなおとなしい若手はもっぱら廊下にいた、とも。

太田もそうだったそうだったと受け、その頃の本番収録での大笑いしたエピソードを話す。アンジャッシュともう1組のコンビが出番でスタジオのセンターに立っている様子を見てタモリが思わず「お前らは『先着4名』か」とツッこんだのだ。

そのくらいこの4人は番組を盛り上げようという芸人としての覇気が無かったということなのだが、おそろしいことにこのもうひと組みのコンビは誰だったかというと海砂利水魚(今のくりぃむしちゅー)なのだ。

今の若い人からは想像できないかも知れないが、当時20代半ばの東京の芸人はネタでは派手に立ちまわるが、スタジオトークでは皆、斜に構えていて静かだった。

前にも書いたがヒロミはこの状況に、番組を越えて東京の若手芸人全体に危機感を抱き「お前たちはもっとかわいくなきゃダメだ」と檄をとばしたのだった。こういったヒロミの尽力もあり「キャブラー」たちはスタジオでの「やるべきこと」を体得してゆくのだった。

いちリスナーのメールひとつからでも「ボキャ天」の話は芸人の間でいまだに盛り上がる。構成者だった私もとても嬉しい。

「青梅街道の蒼い星」などのキャッチフレーズは我々スタッフが会議でああだこうだと捻り出すのだが、私はこの作業が好きだった。ちなみに芸人本人が考えて付けたのは「不発の核弾頭」の爆笑問題のみである。

爆笑問題と同世代、もう30代のBOOMERはそれゆえ「遅れてきたルーキー」、野球のユニフォームを着ていたことも影響しているだろう。毒舌の替え歌を弾き語る金谷ヒデユキは「地獄のスナフキン」、表情もどうも明るくなかったもので。

XーGUNがなぜ「アジアの超特急」なのかは付けた私もわからない。どこか大陸的なものと勢いのある感じでそうしたのか。アリtoキリギリスの「昆虫大戦争」は特撮映画好きのチーフディレクターと私が同時に思いついて即決した。

男同士の「男色の悪魔」は、もうなんというか、今の放送界ではあり得ないシロモノである。ひどすぎる。少数派の大阪吉本からやってきた幹てつやは「歌う阪急電車」、これは私が小学生時代に豊中市と宝塚市に住んでいたという郷愁から勝手に付けた。ご本人が阪急線沿線の人かどうかは知らない。

あと個人的に好きだったのは、本業は芸人でもなんでもない白人の男女コンビ、スティーブ&ジャニカの「全米チャンピオン」である。「ボキャ天」は世界各国で行われており、そのアメリカでのトップが凱旋してきているという世界観に基づいているものだ。

「ボキャ天」がエポックメイキングな番組足りえたのには、このキャッチフレーズの楽しさも少しは貢献しているかも知れないが、もうひとつ見逃してはいけないファインプレーがこのキャッチフレーズとともに芸人紹介の扉絵で必ず表記される、所属事務所の会社名であったと今思う。

「人力舎」「太田プロ」「マセキ芸能社」といった、今ではお笑い好きなら誰もが日常的に口にするワードだが、当時としては一般視聴者には馴染みのない業界用語である。この演出が「ああ、吉本以外にも東京にはこんなにたくさんの芸能事務所があるんだ」と多くの視聴者が気づいたことと思う。同時に出演している芸人の皆さんも自分が事務所の名前を背負っている責任感やら楽しさを感じながら頑張っていたと見る。

さらには「ボキャ天」を毎週夢中になって観ていた当時の子供たちの中には自分も将来お笑い芸人になってテレビに出たいと思い、じゃあどの事務所がいいかな、ネプチューンが好きだからワタナベエンタテイメントがいいなという夢が叶い、今芸人になってる人もいると考える。

現在のテレビラジオそしてYouTubeなどではどうかというくらいお笑い芸人の皆さんが活躍している。こうして「ボキャ天」当時のことを思い返してみても、今のお笑い界の隆盛と「ボキャ天」は地続きになっていることに改めて驚く。すべての出演者とスタッフが番組が笑いをとるために全力をかけて仕事をしていたのだ。

「ボキャ天」がもっとも盛り上がっている頃にスタジオトークでXーGUNの西尾がこういうことを言った。

「『ボキャ天』は面白い。でもつらい。だから『ボキャ天』は『おもツラい』。」

  • 高橋洋二

    放送作家 、ライター。1961年千葉県習志野市生まれ。『吉田照美のてるてるワイド』『マッチとデート』『タモリ倶楽部』『ボキャブラ天国(シリーズ)』『サンデージャポン』『火曜JUNK爆笑問題カーボーイ』などの構成を担当。主な著書に『10点さしあげる』(大栄出版)『オールバックの放送作家』(国書刊行会)。また「キネマ旬報社 映画本大賞2019」第一位の『映画監督 神代辰巳』(国書刊行会)にも小文を寄せている。

  • 写真時事通信社

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