ヒットメイカーが語るテレ東ドラマの秘密「ウチは地方の観光地」 | FRIDAYデジタル

ヒットメイカーが語るテレ東ドラマの秘密「ウチは地方の観光地」

ドラマ作りのプロがいないから、自由な作品が生まれる!

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テレビ東京制作局ドラマ室プロデューサー・濱谷晃一さん

他のテレビ局では成立の難しそうなキャスティング、そしてほぼ毎日といっていいほど放送されている、あり得ない数の深夜ドラマ。これがここ数年間における、テレビ東京(以下、テレ東略)の特徴で、ファンも多い。

ドラマの放送内容も「これ……表現的に限界では?」と見る側が心配してしまうほどの企画が多い。一体、どれだけのカロリーとエネルギーを消費して番組を制作しているのだろうか? おそらくそこには、私たちにとっても仕事の起爆剤になるようなヒントが隠れているはずだ。

その答えを見つけるために、現在放送中の『アノニマス~警視庁”指殺人”対策室~(以下、アノニマス略)』『バイプレイヤーズ~名脇役の森の100日間~』などを担当するプロデューサー、濱谷晃一さんにテレ東のドラマ作りについて、根掘り葉掘り話しを聞かせてもらうことにした。

「タイトルと3行のキャッチで納得させるのが企画書」

放送中のアノニマスは香取慎吾が5年ぶりに民放で主演、そしてここ数年間で問題視されているSNSでの炎上を題材にした作品だ。初回放送の世帯視聴率は7.3%、Twitterのトレンドランキングも1位をマーク。いずれもテレ東ドラマ同枠史上一位を記録している。本作を企画したのが濱谷さんだ。

2月15日オンエアの『アノニマス』第4話より(©「アノニマス」製作委員会)

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――サブタイトルにある“指殺人”は、スマホを使ってSNSで誹謗中傷を書き込み、槍玉にあげられた人が死に追い込まれることですよね。話題の題材ですが、香取さんのキャスティングと、どちらがひらめくのは先だったのでしょうか?

「“指殺人”が先です。ドラマの企画を考えるときの一番のヒントは、ニュースや時事問題にあります。ここ数年ずっと気になっていたのが、SNSでの炎上でした」

2月15日オンエアの『アノニマス』第4話より(©「アノニマス」製作委員会)

――他媒体でも多く取り上げられるテーマですよね。

「ドラマにするには発明が必要だなーと思っていたんです。そこでひらめいたのが『指殺人対策室』という架空の職場でした。探偵や弁護士といった、既存の職業が悩み相談を受けるのではなく、1テーマにした特化した刑事ドラマです。『もし専門部署が新設されたら……?』というフィクションを交えて描く。企画が通った後にキャスティングを話し合って『香取さんがいいんじゃないか』となりました。主演映画『凪待ち』の香取さんがそれまでのイメージと全く違う方向で、渋くてカッコ良かった。いい意味で裏切られました」

2月15日オンエアの『アノニマス』第4話より(©「アノニマス」製作委員会)

――具体的にいつ頃でしょうか?

「2020年の夏です。社内で1月クールの企画を募集していて、300を超える企画の提出がありました。提出方法もさまざまです。僕は基本的に一人で企画書を作るタイプですが、制作会社や脚本家、もしくは出版社と密に会議を重ねて企画を作るパターンもあります」

――300分の1の確率は……激戦ですよね……。その企画立案に関してお話しを聞かせてください。以前、別のインタビューで「企画はタイトルが全て」だと言っていましたよね。

「そんなにえらそうこと言いましったっけ……?(笑)。でも確かにそうですよ。企画を選ぶ側の人たちも膨大な数の企画書を見ているわけで、仮に15ページの書類だったとしても、最初の2ページくらいしかしっかり目を通せないはず。そうなるとタイトルと、キャッチコピー3行、要は表紙1枚で『おっ!』と思わせるのは大事です」

「オリジナル作品は100本企画を立てて、1本通るかどうか」

――タイトルが浮かぶと、次に内容が浮かんでくるということでしょうか。

「ホント、霧が晴れたように企画の骨子が見えてくるんです。僕がドラマに関わるようになったのはこの7〜8年間なんですけど、いつもオリジナル作品を作りたい願望はあります。局からは『強い原作を募集します』と言われるし、それも大切なんですけど、一方で、せっかく考えるチャンスをもらえるなら、ゼロからひらめいたことも、やってみたい」

――その“考えるチャンス”っていいですよね。私、会社員時代は「企画を出さなくちゃ」といつも追い込まれて考えていたので……メディア業界に限らず、会社から企画提出を求められて焦っている人は多いと思います。

「原作を探そうと書店に行くことは、時々あります。ただ、オリジナル企画を考えるときは、敢えて原作本とは関係のないコーナーに足を運んでみます。で、『〇〇が(ドラマ)原作になりました』と口に出してみるんです。なんでもいいんですよ。ただ周囲から見ると、ちょっとヤバい人かもしれませんが……。

例えば滝藤賢一さんが主演の『俺のダンディズム』(2014年)というドラマのコンセプトは“『mono magazin(ワールドフォトプレス)』が、ドラマになりました”でしたね。ありえなさそうのものを組み合わせてみたら意外と『おぉ……』となる。企画を量産するときの秘訣です。

オリジナル企画は本当に企画を通過するのが難しいです。極端ですけど、100本提出をして1本通過するくらいのペースです(苦笑)」

――テレ東さんは深夜ドラマの放送数が猛烈に多いですよね……?

「いろいろ理由はあるんですけど、今はテレビが広告収入だけに頼っているわけにはいかない時代になりました。配信など二次利用で収益を稼ぐことも求められていますし、ドラマというジャンルは配信に向いている。あと広く浅くの視聴率競争よりも、深夜ドラマは狭く深いターゲットを狙うので、個性が出しやすいかもしれませんね。配信業者が『買いたい』と思えるような、ヒキの強いコンテンツを開発しようという流れで、いつの間にか深夜ドラマが増えていました」

――でもほぼ毎日深夜ドラマの放送があると、当たり外れもありますよね?

「成功は一握りです。ただクセの強いドラマが多い(笑)。テレビ東京のドラマが今のような盛り上がりを見せる分岐点となったのは、映画化もされたドラマ24『モテキ』(2010年)かなと。元々人気のある原作、大根仁さんという外部の優秀なクリエイターを巻き込んで、他局ではなかなか見られないエッジの効いたドラマを作る機運が高まった。この“エッジ”を演者さんもそれを期待している雰囲気も高まっています。

テレ東って“地方の観光地”だと思うんですよ。せっかく観光地に来ているんだから、東京でも行けるチェーン店ではなくて、その土地でしか味わえないB級グルメを食べよう! みたいな感覚なんじゃないかでしょうか(笑)。だから、驚くような大物俳優がテレ東に出演してくださることが多いんです。あくまで休暇の旅行中の感覚で。最近、それがテレ東のドラマらしさの正体だとにらんでいます(笑)」

――どれも自由な作風で楽しいです。

「実は局内に“ドラマのプロフェッショナル”がいないんです。長くドラマ室のトップを務めた上司の口癖は『俺、ドラマのことはよくわかんないからさ〜』でしたからね。他局ならスタープロデューサーが大手芸能事務所と強力なコネクションを持っていたり、大物脚本家のスケジュールを先々まで押えていたりする。それを後輩たちに割り振りながら継承していくんでしょうけど、それがない。常に素人プロデューサーが、企画募集に対して心血を注いている感じです。だから、良くも悪くも自由な作品が生まれているんだと思います(笑)」

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誰もが企画を立てて発信できる、国民総メディア時代の今。濱谷さんの話の通り、原作に頼るだけでなく、どんな媒体やSNSでもゼロからヒットを生み出せるチャンスがある。

・企画のタイトルにこだわる
・発想を固定させないで、ジャンル外から組み合わせを考える
・企画を「考えられるチャンス」があると思う

この3本柱、忘れないでおきたい。そして謙虚であることも大事にしたい、と思う取材だった。インタビュー中、彼は「すみません、うまく言えていますか?」と何度もこちらに気遣いを見せてくれた。ドラマのヒット作を飛ばして、局内でも推されている立場なら、ガツガツと自分のペースで話してきてくれていいのに。“実るほど頭を垂れる稲穂かな”、ふとこんな言葉が脳裏に浮かんだ。

プロフィール
濱谷晃一(はまたに・こういち)
テレビ東京制作局ドラマ室プロデューサー、監督。1977年、神奈川県出身。高校時代、偏差値29から一浪して慶應義塾大学に入学、卒業後テレビ東京に入社。制作局バラエティ班に12年間所属したのち、現在のドラマ室に異動。
『俺のダンディズム』『下北沢ダイハード』『黒い十人の秋山』など、オリジナル企画を次々と実現させたほか2021年も『バイプレイヤーズ』『おじさまと猫』『アノニマス』といった注目作を手掛けている。

  • 取材・文小林久乃

    エッセイスト、ライター、編集者、クリエイティブディレクター、撮影コーディネーターなど。エンタメやカルチャー分野に強く、ウエブや雑誌媒体にて連載記事を多数持つ。企画、編集、執筆を手がけた単行本は100冊を超え、中には15万部を超えるベストセラーも。静岡県浜松市出身、正々堂々の独身。女性の意識改革をライトに提案したエッセイ『結婚してもしなくてもうるわしきかな人生』(KKベストセラーズ刊)が好評発売中。

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