内部文書で次々判明…国際社会が注視する「ウイグル弾圧手法」 | FRIDAYデジタル

内部文書で次々判明…国際社会が注視する「ウイグル弾圧手法」

〜軍事ジャーナリスト黒井文太郎レポート

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街中に張り巡らされた「監視」の網。監視カメラはもちろんのこと、通信、生活の全てが見張られていると言っても過言ではない 写真:ロイター/アフロ

「放送内容が真実かつ公平でなく、中国の国益に損害を与えた」という理由で、2月12日、中国は、英BBC国際放送の中国国内での放送を禁止した。

これはひとつには、2月4日にイギリスが、中国共産党による統制の構造などを理由に中国国営テレビ「中国環球電視台(CGTN)」のイギリス国内での放送免許を取り消したことへの対抗であろう。

だがそれと同時に、前述のようにBBCの報道内容を問題にしており、同局が「中国にとって都合が悪い内容」を放送をすることを避ける意味が大きい。

中国がとくに反発していること

中国側がとくに反発していたのが、2月3日に放送されたウイグル人迫害のニュースだった。それは、強制収容所内で「女性に対して組織的なレイプが行われている」という内容だった。

中国新疆ウイグル自治区カシュガル市にある収容施設。当局は「安定」をアピールしていたが 写真:共同通信

中国西部の新疆ウイグル自治区において、中国当局が、イスラム教徒主体の少数民族ウイグル人への弾圧を行っているー―このことは、かねてから国際社会で問題になってきた。すでに100万人以上もの住民を「再教育」と称して強制収容し、強制労働や、拷問までを行っているとみられる。

米政府でも1月19日にポンペオ米国務長官(当時)がそれら中国当局の行為を「人道に対する罪」と断定し、「ジェノサイド(集団殺害)」にあたると非難した。バイデン新政権のブリンケン国務長官もジェノサイド認定には同意している。

中国側は否定しているが、ウイグル人への迫害は具体的な情報がいくつも洩れ伝わってきており、もはや疑うべくもない。

そんなかでも、今回のBBCの組織的レイプ報道は衝撃的だった。同局では「毎晩女性たちが連れ出され、覆面をした男たちにレイプされていた」など複数の元収容者の証言で、そのおぞましい犯罪の実情を明らかにしたのだ。

BBCの報道を受けた各国の反応は

この放送を受け、同日中に米国務省の報道官は「深く憂慮している」「こうした残虐行為は良心を揺さぶるものであり、重大な責任が問われなくてはならない」と言及。イギリスでも同4日、アダムス外務閣外相(アジア担当)が「BBCの報道を目にした誰もが、明らかに邪悪な行為に動揺し、心を痛めたはず」と語っている。

オーストラリアのペイン外相もこの放送を受けて、中国に対して「国連監視団による新疆への有効で無制限のアクセスを直ちに認めるよう強く求める」と主張した。

他にも、非人道的な迫害が行われている。例としては、民族の人口を減らす目的で、収容所内で収監者に不妊手術を強制している疑惑が2020年6月に浮上。その後、複数の国際メディアで実体験の証言も報じられた。日本のメディアでもこの2月4日付「西日本新聞」が、中国国家統計局の資料を元に「ウイグル10万人不妊手術 中国強制? 5年で18倍」という記事を一面トップで報じている。

このように中国当局によるウイグル人迫害は、まさにジェノサイドといえるすさまじさだ。

では中国当局はそもそもどのようにウイグル人の住民たちを監視しているのか。最近、その詳細を記した中国警察当局の内部文書が流出したので、その概要を紹介したい。

東京都内でも、ウイグル人への迫害、香港での暴力的制圧など、中国共産登に対する抗議を訴えるデモがあった

監視アプリや密告アプリの情報が流出した

内部文書とは、米情報サイト「インターセプト」が1月29日に公表したレポートで詳細に紹介された「新疆ウイグル自治区とその中心都市であるウルムチ市の公安局(警察)」のデータベース内の文書である。

ちなみに、同サイトは米情報機関のサイバー監視の詳細を暴露した元NSA要員のエドワード・スノーデン氏(現在はロシアに亡命中)の逃亡・機密暴露に協力した元英紙「ガーディアン」記者らが創った情報サイトで、こうした一次情報のスクープに定評がある。

今回流出した内部データは、52ギガバイトもの大量のデータであり、約2億5000万行の膨大な文書を含んでいる。同データベースに使われているソフトは、民間セキュリティ企業「ランダソフト」が開発した「iTap」というデータ管理システムだ。

このデータベースは公安部のさまざまなアプリと連結していた。たとえば、「浄網衛士」(ジンワン・ウェイシ)は住民のスマホのファイルを監視するアプリ。「証拠収集管理」は、メッセンジャーアプリ「微信」やメールを監視するデータ収集アプリ。「人民安全」は住民による密告用のアプリ。「ZhiPu」は公安部が住民の何に関心を持っているかを画像で表示するアプリである。

また、このデータベースには、公安部の住民監視システム「統合共同作戦プラットフォーム」(IJOP)による情報が多く含まれていた。このIJOPこそが、ウイグル人の大量拘束に使われるハイテクな監視システムだ。

「怪しい」人物の見分け方

IJOPでは、まず公安部が収集しているウイグル人住民の個人情報がファイルされている。氏名、年齢、身長、血液型、職業、家族構成などはもとより、最近では健康調査プログラムと称して、各住民の顔認識データや声紋データ、DNAサンプルを含む生体認証データまでがファイルされている。

そこに、前述したようなスマホ監視システムやインターネット監視システムなどで、個人情報を徹底的に収集する。スマホ監視については、各地に設置された公安部の検問所で、ウイグル人の通行人のスマホを「データドア」あるいは「反テロの剣」などと呼ばれている装置に接続し、それによって微信での会話内容、メール、音声ファイル、写真や動画などのデータを吸い上げている。

また、そのスマホごとの識別データを抜き出して追跡を可能にするとともに、さらに追加の追跡シフトが密かにインストールされることもある。それによって、通話や通信、アプリ利用の回数、時刻、時間、そして通話先・アクセス先など、スマホでの活動のすべてが筒抜けなる。

この措置はガラケーに対しては使われない。そのため、ガラケーを使っているウイグル人、とくに新規でガラケーと購入したウイグル人は「怪しい」として監視対象となることもある。

また、スマホ所有者でも、一時的に電源を切ったり、仮想プライベートネットワーク(VPN)を使用したりすると、それが自動的に探知され、「怪しい」とされる。公安部では確認のために本人に電話するが、それに応答しないと「いよいよ怪しい」となる。

IJOPではこうした情報に加えて、監視カメラの顔認識データ、WiFi傍受、車両ナンバープレート監視、検問所での個人チェック、銀行取引記録、公安部による自宅訪問・尋問など、さまざまな個人データを、公安部が収集、自動分析して、誰をどのように監視し、拘束するかを導く。

今回流出した公安部のデータベース文書によると、公安部はとくに「逆流防止」と呼ぶ警戒活動に力を入れていることがわかる。ウイグル人の国外とのネットワークを徹底監視する活動である。

たとえば、海外に行って帰国した人物、あるいは海外にいる親族や友人とコンタクトした人物は危険人物とされ、監視、さらには拘束の対象となる。また、国外在住のウイグル人の微信の利用も監視し、国外在住ウイグル人のスマホへのハッキングも行っている。

そればかりではない。まったく反政府活動とは無縁のウイグル人すらも、ちょっとした行動だけで監視し、拘束している。

たとえば、国内旅行を計画した人物も「怪しい」とされる。また、大量の食料を購入した人物は「テロの準備をしているか可能性がある」とされる。自宅玄関よりも頻繁に裏口を使用すると「隠れて行動している」とされ、通常よりも多くの電気やガスを使用すれば「何か企んでいる」となる。公安部の報告書の中には「餃子店の包丁が規制どおりに鎖で繋がれていなかったので要警戒」というものまであった。

態度が悪いと「反政府分子」の恐怖のなかで

さらには、国旗掲揚式での態度が悪いと「反政府分子」とみなされる。「イスラム的態度」が深くなっても要警戒対象だ。モスクにも監視カメラは設置されており、祈りが熱心だと疑われる。髭を伸ばしはじめるのはもちろん、たとえば体調を崩して飲酒をやめても「イスラム過激主義に傾倒したのでは?」と見なされる。

そして、誰かがこうした網にかかると、その家族、親族、友人なども監視対象となる。このような「言いがかり」のような雑な指標に基づき、公安部はウイグル人住民を「36の疑わしさのタイプ」に分類し、監視・拘束の方針を決めているという。

新疆ウイグル自治区に住むウイグル人の住民は、こうしてまるで奴隷のような監視・虐待下に置かれているのだ。

国際社会による監視の目は届いていない。日本も含めた各国がこの事実を知り、ウイグル人の人権のために行動を起こさなければならないだろう。

黒井文太郎:1963年生まれ。軍事ジャーナリスト。モスクワ、ニューヨーク、カイロを拠点に紛争地を多数取材。ゴルバチョフ~エリツィン時代、モスクワに居住し長期取材した。軍事、インテリジェンス関連の著書多数。最新刊『超地政学で読み解く! 激動の世界情勢 タブーの地図帳』(宝島社)>

  • 取材・文黒井文太郎写真ロイター/アフロ

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