「払える現金がなくなった…」コロナ禍で一変した駅員さんの日常

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2月14日未明、地震の影響で水浸しとなったJR福島駅構内で、水をかき出す駅員。コロナ禍でも明日の利用者の為に、日をまたいで復旧作業を続けた(写真:共同通信)

昨年 1月16日、日本国内で初めての新型コロナウイルス感染者が確認されてから1年以上が経過した。年が明けて2021年、東京では連日1000人を超える感染者が確認され、二度目の緊急事態宣言が発出された。

2月に入って感染者数は落ち着きを見せつつあり、ワクチン接種の開始に向けた準備も進んでいるが、新型コロナウイルスが完全収束するまでには、なお長い時間を要するだろう。それでも人々の日常は形を変えながらも続いていく。そして、それを支える鉄道も動き続けている。通信事情が発達してもテレワークができない鉄道職員たちの日常はコロナ禍でどのように変わっているのか。

窓に対する意識が変わった

「駅で準備した現金が足りなくなって、定期券の払い戻しを中止した日がありました。1日に200件近くありました」

そう振り返るのは、都内で駅員として働くA氏だ。一体何が起きたのか。A氏が続ける。

「昨年春の最初の緊急事態宣言の時は、全国の小中学校が臨時休校となり、企業もテレワークの拡大などで通勤・通学利用者が激減しました。その結果、とんでもない数の定期券の払い戻しがあったのです」

鉄道各社が定期券を一カ月単位で払い戻す特例措置を行ったこともあり、電車に乗る必要がなくなった人々が一斉に払い戻しにやってきたというわけだ。今回の緊急事態宣言にあたっては、前回の反省を踏まえて払戻金などの準備を万全にしていたが、対応は少なかったそうだ。

内閣府が発表している首都圏主要駅の利用状況推移によると、昨年2月中旬を100とした時の利用者数は、昨年春には30程度まで落ち込み、その後、夏から秋にかけて70前後で推移した。今年に入ってからは60くらいで下げ止まっている。

データを裏付けるように、昨年の緊急事態宣言発出時は「年末年始レベルで乗客が激減した」が、今回は「発出前と何も変わらない」とA氏は語る。昨年春からテレワークを続けている人は既に定期券を購入していないという事情もあるだろう。

また関東大手私鉄で車両の点検を担当するB氏はこう明かす。

「新型コロナウイルス感染拡大以降、電車の窓に対する見方が変わりました」

電車の冷房化が進むまで、夏季は窓を開けて外気を取り入れるしかなく、窓は日常的に使われる設備だった。しかし、冷房の設置が当たり前になったことで、窓は閉まりっぱなしが基本になり、非常時に通電が停まり、空調や換気装置が停止した場合にやむを得ず使う設備へと位置づけが変わっていった。

ところが新型コロナウイルスの感染拡大で「三密」を回避するために、換気の重要性が注目されると、窓は一躍、重要設備に舞い戻った。現在はほぼすべての車両が1両あたり最低2か所、対角線上の窓が10センチほど開けた状態で運行している。窓が開いている状態が当たり前になり、窓が開いていないと苦情がくることもある。

窓の重要性が増したことで、車両部門も窓の点検に力を入れるようになった。B氏は「点検時、窓を開ける際に乗客が重く感じないか、動作時に異音がしないかを確認しています。そのような窓があった場合はバネ圧の調整、潤滑剤の塗布などを行います。経年劣化により動作が緩慢になった窓も見つかるようになりました」と語る。

また夏場は開けた窓から夕立などの雨が入り込むためか、濡れた座席の交換も増えたように感じるという。ちなみに電車の座席は背ずりと座面がそれぞれ独立して外れるようになっており、座席が濡れたり汚れたりした場合は、駅停車中や車両基地で予備品に取り換える対応をする。

朝のラッシュがなくなって変わったこと

続いて、都内の駅で助役として働くC氏は「昨年4月に異動になりましたが、歓迎会が行われなかったので、新しい同僚の性格を知るのに時間がかかりました」と振り返る。

新型コロナウイルスの感染拡大以降、職場の宴席は中止となった。長時間にわたって不特定多数の人を相手にするストレスからか、酒を好む鉄道マンは多い。また鉄道の運営には多数の人が関わることから、宴席の場は交流の機会としても重要な意味を持つ。

筆者は鉄道会社で勤務した経験から「電車はアルコールで動いている」と考えているが、そういう意味からみれば、現場は燃料切れの危機に瀕しているといえよう(もっとも、半ば強制的な職場の飲み会がなくなってせいせいしているという若手もいるであろうことは付記しておきたい)。

C氏は助役の立場として、感染予防策についても気を使う場面が多いと語る。

「改札口の無人化や定期券うりばの営業時間短縮、会議の縮小、実技の伴わない教育の自習化を行っています。駅の休憩室の食事テーブルには段ボールなどで自作したパーテーションを設置し、会話は禁止。事務所や休憩室ではマスク着用が基本です」

客室と区切られた乗務員室で、一人で勤務する運転士や車掌と異なり、不特定多数の乗客と日常的に接する駅員は、特に感染に対する警戒感も高い。C氏は「駅員の家族などに濃厚接触者またはその疑いがある人がいた場合の対処が大変です」と語る。

今回紹介した3人以外にも話を聞いたが、いずれもどこか現状の鉄道の姿に「物足りなさ」を感じているようにみえた。朝ラッシュの対応は激務であり、神経も使うが、その分やりがいもあったはずだ。

鉄道に利用者が戻って来る日はやってくるのか。コロナ禍が終息したら、鉄道職員たちのやりがいの中身が変わるかもしれない。

東京駅で自動改札を消毒する駅員。通勤できるのは、こうした現場で働く駅員の方々の奮闘に支えられている(写真:共同通信)
  • 取材・文枝久保達也

    (鉄道ジャーナリスト)埼玉県出身。1982年生まれ。東京地下鉄(東京メトロ)に11年勤務した後、2017年に独立。東京圏の都市交通を中心に各種媒体で執筆をしている。

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