原宿暴走テロ 21歳男子を無差別殺人に向かわせた深刻な被害妄想 | FRIDAYデジタル

原宿暴走テロ 21歳男子を無差別殺人に向かわせた深刻な被害妄想

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軽乗用車が進入し、ビルに衝突した原宿・竹下通りの現場(左)=2019年1月2日午前、東京都渋谷区 写真:共同通信

2019年の元日に、東京・原宿の竹下通りで車を暴走させ、8人をはねて重軽傷を負わせたとして殺人未遂などの罪に問われた日下部和博被告(23)の裁判員裁判初公判が2月18日に東京地裁(永渕健一裁判長)で開かれた。

起訴状などによれば日下部被告は、元日に明治神宮の参拝客を無差別に殺害しようと、ガスバーナーを取り付け火炎放射器のように改造した高圧洗浄機や、灯油を入れたポリタンクなどを車に積んだという殺人予備罪、その後、車を通行人に追突させて殺害しようと竹下通りで軽自動車を加速させながら走行し、8人に傷害を負わせたという殺人未遂罪、その直後に近づいてきた男性の顔面を殴ったという傷害罪に問われている。

白くふっくらとした頰にマスクをつけ、濃いグレーのスーツを着用した日下部被告は、罪状認否で殺人予備については「最初はそうするつもりでしたけど、寸前になってやめました」と否認、殺人未遂について「1人目をはねたときフロントガラスにへばりついてジグザグ運転になり、前が見えなかった」と否認。さらに動機についてこう述べた。

「無力化された死刑囚が殺されることが許せなくて、制度を支持している国民を狙いました。当時はそう思っていました」

弁護人は「日下部被告が当時罹患していた統合失調症の圧倒的影響のもと起こした事件であり、心神喪失に状態にあった」と主張した。また8人に重軽傷を負わせた殺人未遂罪については「途中からは前が見れず、人がいるかわからないまま事件を起こした」として、途中からはねた5人については殺意がなかったと主張している。

検察側冒頭陳述によると、死刑制度反対の思想を持っていた日下部被告は、死刑制度そのものや、それを支持する国民を狙い大量殺人を企てるなかで「大勢の人がいる明治神宮で無差別殺人を行おう」と考えるようになったという。

そんななか、2018年7月、地下鉄サリン事件などで死刑が確定していたオウム真理教の元代表や幹部らの死刑が執行される。これにより日下部被告は「ますます死刑制度を支持する国民が許せないと思う気持ちになった」という。

2018年末。当時居住していた大阪で借りたレンタカーに、無差別殺人のため、火炎放射器様に改造した高圧洗浄機などを積み込み東京に向かう。ところが大晦日の夕方、明治神宮付近に車を止め、この高圧洗浄機を試運転させてみたところ、予想ほど灯油を飛ばすことができなかったのだという。そのため火を使う計画はやめ、車で人を轢く計画に変更した。

年が明け2019年元日の0時12分。明治通りから、当時車両の通行が禁止されていた竹下通りに侵入し、スピードを上げながら走行。8人を次々とはねて重軽傷を負わせた。車が止まったところで、近づいてきた通行人を殴り逃走したが、0時34分、職務質問を受け「いまテロを起こしてます。車で人を轢いてきました」と自ら話して逮捕された。

対する弁護側冒頭陳述では日下部被告の生い立ちや、彼が高校の頃から被害妄想に苦しんでいたことが明らかになった。小学生から中学2年生までの被告は、スポーツ万能で学校の成績もよかったが、その頃仕事がうまくいかなくなった父親がアルコールに溺れたことで、家庭環境が悪化する。家の中で暴力もふるわれ、成績にも影響した。そして高校に入学後「毎日のように嫌がらせやいじめをうけるようになった」というが、これは被告の被害妄想だったのだという。

「学校で臭いと言われる。ネットで『日下部・枚方・臭い』と検索すると、いっぱい自分のことが書いてある」

こう被告に訴えられた母親は、ネットで検索してみたが、そうした記述は確認できない。

「そんなことないよ、あんま気にせんとき」

母親は励ましたが、被告は徐々に家に閉じこもるようになっていったという。高校卒業後に一浪して東京の専門学校に入学したものの「すれ違いざまに『なにその顔、うざい』『臭い』と言われる」などの妄想に悩まされ数ヵ月で退学。地元に戻り大学を受験し直した。2018年、大阪の大学に進学したが、その頃には「死刑は無力化されたひとりの人間の命を奪うもので許せない。支持している国民も許せない」という思いにとらわれていたという。そして事件を起こした。

「周りの誰もが被告人の病気に気がついていなかった。まさか病気だとも思いもしなかった。被告人自身も、もちろんわかっていませんでした」(弁護側冒頭陳述より)

現場の状況(イメージ) 写真:共同通信

被害者らの傷害は、それぞれ深刻度が異なる。打撲や捻挫など全治1週間の被害者もいる一方で、高次脳機能障害を負い、入院加療500日を超える被害者もいる。

うち複数名は、同じ飲食店で働く仕事仲間だった。忘年会後に原宿駅方面に向かっているところ、被告の車にはねられた。

「3人で並んで歩いて写真を撮りながら楽しく話していた。すると後ろから車が加速するような大きな音が聞こえてきた。気づいた時は左半身が地面につき、寝ている感じになっていて、車にはねられたという自覚がなく、なんでこんなところで寝ているんだと体を起こした。すると目の前に人が地面に倒れていて、近づくと仕事仲間のひとりだった。その様子を見て、自分たちがはねられたとわかった。

(仕事仲間に)『大丈夫ですか』と言うと『大丈夫、大丈夫』と答えたが、しかし頭からは見たことないぐらい大量に出血していて、体は脱力しており見るからにヤバそうだった。ヤバそうというのは、このまま放っておけば死んじゃうんじゃないかということです。『寒い、寒い』とも言っていたので、寄り添い、声をかけ続けました」(被害者の調書)

『死刑制度反対』の思いの末に起こした被告の犯行を、裁判所はどう判断するのか。3月17日の判決までに、被害者の証人尋問や、被告の精神鑑定を行なった医師の尋問なども予定されている。

  • 取材・文高橋ユキ

    傍聴人。フリーライター。『つけびの村 噂が5人を殺したのか?』(晶文社)、『暴走老人・犯罪劇場』(洋泉社新書)、『木嶋佳苗 危険な愛の奥義』(徳間書店)、『木嶋佳苗劇場』(宝島社)、古くは『霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記』(新潮社)など殺人事件の取材や公判傍聴などを元にした著作多数。

  • 写真共同通信

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