いま、新宿で「クローズ系ラーメン」が急増中の理由
このコロナ禍、従業員を守るホワイト企業としても話題の会社だった
君は“クローズ系ラーメン”を知っているか!?
それは、少年マンガの金字塔シリーズ『クローズ』を体現した店名を冠したラーメン。ヤンキーテイストどっぷりの店かと思いきや……実は現代ラーメンのメガトレンドの歴史を網羅したユニークなメニュー構成や、驚異の離職率の低さでホワイト企業としても話題の会社なのだ。
ラーメンの激戦区のひとつでもある新宿をテリトリーとする各店の一杯を紹介しつつ、グループ代表の青柳誠希氏(株式会社INGS)に店舗展開のねらい、ラーメン開発のヒミツを聞いた。
鶏、煮干し、鮮魚、背脂……、新宿を一周すれば90年代~テン年代のラーメン遍歴がわかる!?
1990年に月刊少年チャンピオンで連載がスタートし、外伝などのスピンオフ作品も続々登場し、ヤンキーマンガの一大サーガとして君臨する『クローズ』シリーズ。
その舞台になった男子高校『鈴蘭高校』、鈴蘭史上最強の男と目されたリンダマン(林田 恵)、ライバルの不良高校『鳳仙学園』など、シリーズのキャラ、高校名がモチーフになっているという「クローズ系」ラーメン。
まずはダイジェストでラーメンとお店を紹介していこう。
らぁ麺 はやし田:2010年代にラーメンシーンのセンターに躍り出たトレンドライン「鶏清湯系」
鳥取の銘柄鶏「大山どり」が主軸のスープは鶏の旨みがたっぷり! ビシッと引き締める醤油ダレの香りもよく、リッチな後口がたまらない。トッピングにはしっとり系の鶏チャーシュー、低温調理の豚チャーシューを配置。穂先メンマも食感が良く、全粒粉入りストレート麺との好相性だ。
煮干中華そば 鈴蘭:ゼロ年代に人気を呼び、ラーメンの一ジャンルとして定着した煮干し系の洗練モード
煮干しをフィーチャーしつつ、エグみや苦みは取り除き、旨みとコクを丁寧に抽出したスープ。豚骨スープとブレンドしているので力強さもあり、もちっとした中太縮れ麺と絶妙なバランス。ニボニボ系が好きな人はもちろん、煮干しラーメンビギナーにもおすすめの一杯。つけ麺を頼む人も多い。
らぁ麺 鳳仙花:ゼロ年代に人気の「鮮魚系」。高価な金目鯛をメインのダシにシックな面持ちの一杯
金目鯛のアラを贅沢に使ったスープに鶏白湯を合わせ、芳醇な鮮魚のダシ感、旨みをたたえたスープが圧巻。バラのようにレイアウトした低温調理豚チャーシューに金目鯛のほぐし身を合わせており、薬味のネギ、紫玉ねぎとも好バランス。ユニークな金目鯛スープをとことん飲み干したい。
らぁ麺 くろ渦:主軸は鶏醤油。数量限定の鮮魚系で蓄積したノウハウを生かした「のどぐろそば」が人気
キレのある醤油ラーメンは『はやし田』ゆずりだが、ここは数量限定の「のどぐろそば」を紹介。高級魚のどぐろ(アカムツ)のアラを用いたスープに、のどぐろの身からとった香味油を合わせ、独特の香りをまとわせた。タレは白醤油がベース。醤油のエッジは控えめで、山椒のアクセントも和を感じさせる。
ラーメン リンダ軒:90年代を席巻した背脂系ラーメンを今風にチューニング
ラーメン・つけ麺をそれぞれ「こってり/あっさり」でラインナップ。上質な背脂を合わせて脂の甘み、醤油の旨みを巧みにマッチングした「こってり」に、すっきりライトな醤油ベースの「あっさり」を気分によって食べ分けられる。比較的リーズナブルな価格でラーメン・つけ麺をメニュー化し、飽きないバリエーションを加えている。
都心は直営、郊外のパートナー企業と。全国に拡大する “クローズ系”ネットワーク
マンガさながら、個性豊かな面々が暴れまわっているようでいて、ラーメンのトレンドを丁寧になぞった味づくりが特徴のクローズ系ラーメン。食べ手の評価も上々で、食べログの「新宿ラーメンBEST20」には『はやし田』『鈴蘭』『鳳仙花』がランクイン。新宿のラーメングループでは無類の強さを誇っている。
そもそも、クローズ系ラーメンが登場したのは2010年のこと。『クローズ』の主人公・坊屋春道からとった『俺の麺 春道』(2020年に閉店)が西新宿に開業したのが始まりだ。グループを率いる株式会社INGS代表・青柳誠希氏に、一連の店名につけた思いを聞いた。
「2006年からラーメン店を運営してきましたが、完全にオリジナルの味で勝負したのは『春道』が最初です。
麺が太く、スープがドロっと濃厚な豚骨魚介つけ麺だったので、何かインパクトを残せる店名はないか……と考え、好きだったマンガの主人公をモチーフに、男っぽい店名として『俺の麺 春道』とつけたんです。
それから『鈴蘭』『鳳仙花』と続いて、『くろ渦』が答え合わせみたいになりましたが(笑)、好きなマンガをモチーフにしながら、ブランドを固めていきました」(青柳氏 以下同)
店舗ごとに屋号、コンセプトをきめ細かく変えたのは、「ラーメン店は個店が強みを発揮する業界だから」と青柳氏。
新宿エリアのほかに、『しま田』(恵比寿)、『ます田』(練馬)、『竹むら』(目黒)、『たかばん』(学芸大学)など、『はやし田』の鶏清湯モデルの汎用性を高め、多店舗でも展開中だが…。
「それらの店は僕たちの直営ではなく、プロデュースというかたちになります。キッチリしたフランチャイズチェーンではなく、個人店のイメージを打ち出しています。
僕たちは新宿など繁華街での展開は強いんですが、郊外やロードサイドは未開拓です。そこで、パートナー企業と組むことで僕たちの味を広げ、全国のお客様に食べていただければと考えています」
コロナ禍でも堅調! ラーメン界のホワイト企業としても有名
新宿では直営店で地盤を固め、ステルス的なFC展開で着々と全国へと勢力を拡大。クローズ系、もといINGSグループはコロナ禍でもしぶとくサバイバルしていく。そこで強みになるのが、クローズ系ファミリーを増やす中で培ってきた「商品開発」だ。
「『春道』や『鈴蘭』では創意を発揮した『当日限定ラーメン』を月に何度も企画し、新たな味を模索してきました。
金目鯛やのどぐろなど珍しい食材に積極的にトライした結果、そのメニューから『はやし田』『鳳仙花』『くろ渦』の味が生まれています」
グループの商品開発力が鍛えられる一方、自由に創意を発揮できる機会がスタッフのモチベーション向上にもつながった。
「コロナ禍で飲食店は厳しい状況ですが、大切なのは人材、働いてくれているスタッフです。
週休2日を守り、昇給も確保する。ブラックではない条件でイキイキと働いてもらえる環境づくりに力を入れてきた。それが離職率の低い現在につながっていると思います。上場を視野に入れ、今後も風通しの良い会社を目指していければ」
ダブリのない味で各店がヘッドを張り、存在感を発揮。厨房ではメンバーがアイデアを出しながら縦横無尽に活躍する。新宿ラーメンシーンの中央には、まさに『クローズ』の世界観があった。
※価格はすべて税込みです。
※記事中の情報、データは2021年3月1日現在のものです。新型コロナウイルスの感染拡大により、営業時間・定休日が変更になる場合があります。
- 取材・文・写真:佐々木正孝
キッズファクトリー代表。『石神秀幸ラーメンSELECTION』(双葉社)、『業界最高権威 TRY認定 ラーメン大賞』(講談社)、『ラーメン最強うんちく 石神秀幸』(晋遊舎)、『ソラノイロ 宮﨑千尋のラーメン理論』(柴田書店)などのラーメン本を編集。ラーメンを愛し、「ラーメンの探求マインドは変態であれ、振る舞いは紳士であれ」がモットー。