歯科医ではなぜ「クラスター」が起こらないのか…ひとつの答え | FRIDAYデジタル

歯科医ではなぜ「クラスター」が起こらないのか…ひとつの答え

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IK医科歯科クリニック」の入江雄一郎院長
IK医科歯科クリニック」の入江雄一郎院長

緊急事態宣言から約2ヶ月。医療崩壊の危機が叫ばれるなか、医療機関のクラスターが今も全国各地の病院で発生している。間近の2月でも「鹿児島医療センター」で発生。計29人の感染が確認されたという。

ところが同じ医療でも、歯科に限っていえばクラスターの発生をほとんど耳にしない。大阪府の吉村洋文知事も1月19日、<大阪には5500もの歯科医院があるが、クラスター発生はゼロ。感染対策の賜物と思うが、何かある。何か?>と自身のツイッターで発信した。その理由はいったいなぜか?

歯科医院の中に内科と皮膚科を併設し、歯の問題は体全体の問題と捉えてトータルでケアを行う「IK医科歯科クリニック」(大阪・心斎橋)の入江雄一郎院長に聞くと、こう前置きする。

「まず前提として、医療の中でも歯医者には元気な人が来院します。熱がある、咳き込んでいるなど、体調不良を治したい人は病院に行きます。当たり前すぎますが、それが理由のひとつです」

とはいえ、当然ながら無症状患者もいるかもしれない。その可能性も見越して、歯科医院は対策を講じているという。

「歯科医は口の中を水や洗浄液を用いて消毒に近いような形で洗浄しながら治療をします。しかも、バキュームで即座に痰も唾も吸い取ってしまう訳ですから、飛沫も飛ばない。治療中も複数回、うがいもしてもらいますからね」

歯科医では、昔から感染症対策が行き届いているとの側面も。検温やマスク着用などはコロナ以降の慣習となったが、コロナだからといって急場をしのいだのではないそうだ。

「コロナが出る前から相応の対策をしています。感染症でいうと、代表的なものが肝炎。B型肝炎の患者さんが来る可能性があります。自分が肝炎にならないようにどうすればいいのか。その対策の歴史が歯科医にはあるんですよ」

とはいえ、コロナには不透明な部分がまだまだある。クラスターとなればなおさらだ。

「クラスターは、確実に、何をしたら発生するという根拠が100%解明されていない。一般的に危ないと言われる行動が大声で喋ったり、歌ったり、大人数が同じ空間でいること。こうした事例が歯科医院は基本的にはないのです。だからといって安心なわけではなく、事実を正確に分析しなければならないでしょうね」

コロナ禍でテレワークや自宅待機が増えた結果、この期間を利用して歯科に通う人も増えているそうだ。整った歯並びは芸能人の証…ともいわれるように、日本の芸能界もようやく欧米なみに「審美歯科」が浸透。その多くがセラミック治療で、抜歯が必要な場合はインプラントを選択する芸能人は多いという。

インプラントは安くない治療費に加え、どの歯科医院に通うべきか不安を抱く人も多いのではないか。

「様々な理由で失った歯をどうすべきか。その選択肢が患者さんにある。インプラント以外の選択肢を提示せずに“インプラントがいい”と押し切るような歯医者はダメ。実は歯科医によってはレパートリーが少ない場合がある。インプラント以外は“入れ歯しかないです”と押し切る歯医者は、正直疑問が残ります」

自分たちの利益だけを考えてインプラントに導こうとする歯科医は危ないそうだ。

インプラント以外にも、一般的に知られているのが歯を削って被せるブリッジ。さらに今は削らないヒューマンブリッジというアタッチメントタイプのブリッジもあるという。

「何ヶ月に1回は、他所で施術に失敗した患者さんがうちに来ます。大学病院でも“元のところでやってもらってくれ”と匙を投げられてしまった方です。よくあるご相談が、上顎に上顎洞があるんですけど、骨再生をするため、その上顎洞の空洞にカルシウム剤のようなものを中に充填する技法がある。インプラントをする場合に避けて通れない技術の一つで『サイナスリフト』と呼ばれるものです。その施術をする歯科が少ないため、あえてそれをウリにしている歯科医も実はいるんです。

ところが、医院の中には雑な施術を行うところが少なくない。

カルシウム剤が色んなところに散らばって、上顎洞の空洞の中がぐちゃぐちゃになっているケースとか、人工的に作った骨なのでそんなに強くないのに、インプラントを4本入れて2本しか使っていないとか。歯がぷかぷか浮いているのにかかわらず、歯科医が“大丈夫です”と、一方的に治ってないのに治療費を全額払わされて追い出されたとか…。

ある時、患者さんから相談受けて、その歯科医に僕が電話して事情を伺うと“もうすぐ骨がくっつく頃だ”と説明を始め出して唖然としたことがありました」

インプラントを入れたからといって、それは一生ものではない。インプラント周囲炎といって、いわゆるインプラント版の歯周病の相談も少なくないという。厄介なのは症状がほとんど現れないこと。芸能人でも実は周囲炎に気づかず、のちのち手術した人もいる。

「インプラント周囲炎は症状が悪化しても普通にご飯が食べられるんです。痛みもないので、歯科医が細かな検査をしてみないと判断がつきづらい。自覚症状は出血とインプラントを押さえるとむず痒い、イヤな感じがするという程度。最初に気づくのが、歯磨きをして出血をしたとき。インプラントの周囲炎も歯周病と同じで判断基準があるので、疑いがあればインプラントを入れた歯医者に行くべきでしょう」

年齢とともに骨が弱くなるように、歯を支える土台の骨も弱っていく。骨の減り方が早いとインプラントも同じように劣化する。日本人の統計でいえば、80歳を超えると歯が悪くなって入れ歯が急激に増えていく。逆にインプラントだけが残って、自分の歯がすべて抜けてしまったという事例も多々ある。

だが、そんな場合は年齢的に新たにインプラントを入れるのは難しい。外科処置に耐えられない可能性もあるからだ。

「インプラント本体の構造というのが今は2種類しかない。日本で一般的なものはチタン。もう一つが、日本では認可も取れていない最先端のもので、ジルコニアと呼ばれるもの。本体がすべてジルコニアで出来ていて、汚れがつきにくい。現在までにうちの医院で10本ぐらい患者さんに入れたんですが、驚いたのはインプラントの周りに骨が新たに出来たこと。しかも、インプラント周囲炎にならないほど汚れに強いんです」

これがジルコニアのレントゲン写真
これがジルコニアのレントゲン写真

レントゲンを見ると一本だけ真っ白に映る歯がある。それがジルコニアのインプラントだ。レントゲンで月日の経過を追っていくと、確かにインプラントの周りに骨が増えていく様子が見て取れる。

「ジルコニアを入れると、周りの歯茎まですごく綺麗になるので、治療した人は満足しています。ただし、弱点もある。チタンに比べて接着力が弱いので、人によっては馴染まない。グラついてしまう。この課題点をクリアできたうえで、今後は厚労省が認可するかどうか。今は医師の裁量に任されているので、患者さんの同意のもと、個人輸入に頼って治療しています」

歯の大切さは失って初めて気づく。日々のケアを心掛けたい。

  • 取材・文加藤慶

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