草彅剛『青天を衝け』ワンシーンで見せた「獣が眠る大天才」の片鱗 | FRIDAYデジタル

草彅剛『青天を衝け』ワンシーンで見せた「獣が眠る大天才」の片鱗

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NHK大河ドラマ『青天を衝け』でワンシーンながら、視聴者の心を鷲づかみにした徳川慶喜役の草彅剛(‘18年)
NHK大河ドラマ『青天を衝け』でワンシーンながら、視聴者の心を鷲づかみにした徳川慶喜役の草彅剛(‘18年)

NHK大河ドラマ『麒麟がくる』の余韻に浸る暇もなく、2月14日からスタートした今年の大河ドラマ『青天を衝け』。異例ともいえるスタートの上、人気が無いと言われる近代モノにも関わらず初回の世帯平均視聴率20.0%と好発進を見せた。そんな中、”日本資本主義の父”と称される主人公・渋沢栄一(吉沢亮)ともう1人の主役とも言える草彅剛が演じる一橋慶喜の対面シーンは見応えがあった。

「2人の初対面のシーンの演出を手掛けた黒崎博は、『人を異常に惹きつける魅力を持つ神のような存在である慶喜は、草彅さんにしか演じきれない』と話しています。もう1人の主役として、カリスマ性を醸し出す草彅・慶喜の演技力には、やはり目を奪われます」(制作会社プロデューサー)

ジャニーズ事務所の先輩でもある本木雅弘は‘98年の大河ドラマ『徳川慶喜』(NHK)に主演。俳優として大きな一歩を踏み出した。ところが草彅剛は、わずかワンシーンで大河ドラマファンの心を鷲掴みしてみせたのである。

草彅剛は、”静かな佇まい中に秘やかに獣が眠る””大天才”。そう評した劇作家&演出家でもあった故・つかこうへい氏の予言は20年たった今、的中したのかもしれない。

しかしそう思わせるは、大河ドラマ『青天を衝け』のあのワンシーンを観たからではない。去年、愛するフレンチブルドックのクルミに3匹の仔犬が生まれたという草彅は、その内の2匹に好きなフランス映画『レオン』から”レオン””マチルダ”と名前をつけた。

そんな『レオン』を思わせる主演映画『ミッドナイトスワン』を見た時のショックが今も忘れられないからである。それほどあの映画で草彅剛が魅せる演技は、哀しく切なく、そして美しい。

先行上映を観た香取慎吾は、今までと違う草彅剛の演技を見て驚愕。

「僕は芝居をやめようと思います」

とまで呟いている。草彅の演技から、香取は一体何を感じ取ったのか…。

「草彅演じる凪沙は、新宿のニューハーフショークラブ『スイートピー』で、ステージ衣装に身を包み働くトランスジェンダー。そんな心身の葛藤を抱えて生きて来た凪沙の元に、故郷・広島から親戚の娘であり親から虐待を受けて育った一果(服部樹咲)が預けられます。

やがて、一果のバレリーナとしての才能を知った凪沙は、一果のために生きようと決心。孤独な2人はいつしか寄り添い、凪沙の中に『母になりたい』という思いが芽生えていく。この映画は、現代の”愛の形”を描いた『レオン』なのかもしれません」(ワイドショー関係者)

3月19日に行われる「第44回日本アカデミー賞」の授賞式に先立ち、15部門の優秀賞が1月27日に発表され、『ミッドナイトスワン』は優秀作品賞、優秀監督賞、優秀脚本賞に輝き、草彅剛も優秀主演男優賞に選ばれている。

「草彅は‘03年に公開され、異例のロングランとなった映画『黄泉がえり』や‘06年の映画『日本沈没』など数々の作品に主演。演技派としてジャニーズの枠を超え高く評価されて来ましたが、今まで賞とは無縁の存在でした。しかし、今回の『ミッドナイトスワン』で、俳優として更なる高みに到達しつつあります」(前出・ワイドショー関係者)

今まで”憑依型”の俳優と言われて来た草彅剛。ところが実際は、「みずから演じる役を噛み砕いてからじゃないとやれないタイプ」だったと過去を振り返り、告白している。今回トランスジェンダーを演じるにあたっても、草彅は取材を積み重ね資料を読み込み、撮影に臨んだ。そうすることで”憑依”することを可能にして来たのである。

だが草彅は今回、そうした経験に裏打ちされたこれまでのスタイルを捨てようと決めた。

《考えて演じるのやめようと思ったんです。何も考えず、セリフ忘れちゃったらそれでいいや、ぐらいの気持ちでやってました。相手の目を見て、それでセリフが出てきたら言おう》

46歳を迎える俳優・草彅剛に一体、どんな心境の変化が訪れたのか。

「そう思わせたのは、一果を演じるオーディションで選ばれた13歳の少女・服部樹咲。新宿で始まった撮影初日。初めて一果と出会い、アパートに連れて帰るシーンの撮影中。凄いとしか言いようのない輝きを放つ彼女を見て、草彅はこれまで培ったスタイルをすべて捨てようと決心しています」(前出・制作会社プロデューサー)

そうした草彅の変化は、

「同じ憑依型でも3割4割ぐらいは計算が入ってくる人が多いけど、僕から見る限り、草彅さんは限りなく100%に近い憑依。だから、たとえセリフがちょっと違っても、こちらからはいえないというか。言いたくない」

とまで監督・脚本を手掛けた内田英治に言わしめている。これに対して

「考えすぎると、凪沙がどんどん離れていってしまう。自分は女性なのに肉体は男性。それって、自分では変えられない運命の下で抱える悲しみだったり、苦しみに置き換えれば、誰にでも起こりうること。そこをうまく自分の中で変換できれば」。

そう”100%憑依する極意”を草彅は明かしている。

この映画の撮影で、今までにない”限りなく100%に近い憑依”を手に入れた草彅剛。その演技は今年の大河ドラマでも存分に見せてくれることだろう。

師でもあったつかこうへい氏なら、今の草彅剛をどう評するのか。その答えを聞けないことが、何よりも残念でならない――。

 

  • 島右近(放送作家・映像プロデューサー)

    バラエティ、報道、スポーツ番組など幅広いジャンルで番組制作に携わる。女子アナ、アイドル、テレビ業界系の書籍も企画出版、多数。ドキュメンタリー番組に携わるうちに歴史に興味を抱き、近年『家康は関ケ原で死んでいた』(竹書房新書)を上梓

  • PHOTO高塚一郎

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