カピバラにスナネコ…知ってほしい「買える」と「飼える」の違い

『カピバラさん』『けものフレンズ』の人気キャラクターで知られるカピバラの一日に密着

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生後100日目にもなると逞しいマフ王子。
朝日を浴びて神々しく輝くカピバラ。和名は鬼天竺鼠、ワイルドな響きがある名前(撮影:菊地弘一)

なにも考えず、ぼんやり眺めていられる光景。

ニューヨーク・タイムズが大統領選の投票日となった昨年11月3日付紙面で「大統領選への不安を払う方法の一つ」として、栃木県那須どうぶつ王国のカピバラがゆず湯で温まる動画を紹介。カピバラ温泉は国境を越えて注目の的になった。

カピバラはエキゾチックペット専門店で販売されており、一般の方でも購入できる。

しかし一昨年には個人宅で飼育していたカピバラが脱走をし、半年ほど放浪したのち捕獲された。飼い主の元に戻されたが、現在は動物園が引き取り飼育をしている。この脱走劇は野生動物をペットとして飼育する難しさを物語る。さらに野生動物へ向けられるペット意識には代償を生むようだ。

水辺の巨人 カピバラの素顔

カピバラの漢名は水豚と呼ばれるがネズミの仲間で、体長約1メートル・体重約50キログラムの世界最大のげっ歯類である。温暖な気候の南米アマゾン川流域やパントナールの湿地・河川流域に群れで生活している。

縄張り意識が強く脅威を与えない限り攻撃性は無いが、優劣関係があり群れを巡って雄同士の闘いが行われる。毛はタワシのように固く肌は保湿が必要なため水辺で過ごし、排泄や生殖行動も水中でする。お腹の中には発酵槽があり、それらを活用するために草食性の材料を食用する。野生のカピバラは複雑な自然環境を巧みに利用して生きている。

では動物園のカピバラは、どのような生活を送っているのだろうか。神戸どうぶつ王国の飼育員、粟野ゆづき氏はこう話す。

「朝の開園に合わせて展示場に出勤し、スパの水を飲んで朝風呂に入ります。昼間は砂場や温泉で寛ぎ、お客様から笹の葉を食べさせて貰います。夕方から活動的になり、他のエリアへ散策に行こうとします。閉園後は二頭ずつに割り振られた獣舎へ退勤し、大好きな野菜やフルーツを食べて寝てをして過ごしています。

この園のカピバラは自然哺育と人工哺育が混ざった群れです。上下関係が存在し、仲間外れになった仔は群れから離れた場所で寛ぎ、群れが食餌を終えてからその仔も食餌をします。仲間外れになるとなかなか群れに混ざれませんので、均等に食餌をしているか観察をし体重管理も大事です。売り餌の千島笹はカピバラが好きな葉で、お腹の調子を整えてくれる作用がありますので、触れ合いの中でお客様に与えて頂いています」

カピバラを一般の家庭で飼育する難しさについて、粟野氏は続ける。

「触れ合いカフェや一般の家庭でも法的には飼育が可能ですが、家を長時間留守にする単身の方は飼育に向いていません。カピバラは脱出の名人です。リードを付けても散歩には向きません。昼間に運動する場所と夜間に休む場所を分け、水場や植木・砂場などメリハリがある環境と空調、バラエティに富んだ食餌が必要です。

歯は一生伸び続けます。木の枝を噛んで自ら調節しますが、時には部屋をかじって穴を開けます。歯の噛み合わせが悪くなると、それが原因で病気にもなります。野生動物の専門知識を持った獣医師は限られていますので、いざ病気怪我をしたときに対応できる動物病院を見つけておくことも重要です」

お水を飲んで朝温泉に入ります。

日本はペット動物の輸入大国

野生動物がペット目的で流通する方法は、すでに国内に入っている個体からの繁殖と、もう一つは海外からの正規輸入である。野生動物には、人に重篤な危機を及ぼす感染症や微生物を数多く保有している。そのため検疫上の規制が厳しく、海外から正規輸入できる個体であっても密輸が存在する。

那須どうぶつ王国と神戸どうぶつ王国の園長、佐藤哲也氏はこう明かす。

「① 持ち込めるのに手続きが大変でなかなか許可が下りないからする密輸と、② 持ち込んじゃいけないものを持ち込むための密輸。この二通りがあります。

①の場合は 法律に基づいた登録手続きや検疫・輸出国の衛生許可書が無いと輸入できない。これは動物由来感染症からの防疫が最大の理由ですので、規制が厳しく手続きは簡単ではありません。

次に ②については 野生を密猟した個体ですが、当然ながら輸出国は許可を出しませんから、密輸しか方法がない、というものです」

神戸どうぶつ王国名物「カピバラ温泉」

「買える」と「飼える」の違い

先人は長い歴史の中で共棲できる動物を、家畜やペットとして選別し、これらに適さない動物とは一線を置き共存してきた。ところが今は、ペットに適さない野生動物を捕え繁殖させ、人間との共棲を強いている。多くの人は動物が好きで、大切にしたいと思っている。それはペット需要が「人間が動物たちと共存していきたい」という思いから生まれているからだ。違法性はないのだからペットとして楽しむことに、問題はないと考える人もいるだろう。

しかしコツメカワウソのようにペット需要が密猟に繋がり、個体減少に拍車をかけ絶滅の淵に追いつめた事実がある。最近人気のスナネコも、コツメカワウソの二の舞が懸念されている。

海外から正規輸入で入ってくる野生動物について、佐藤園長はさらに話を進める。

「カピバラやスナネコは、販売することに関しては、国内法の規制はありません。買おうと思えば買えないことはないですが、『買える』と『飼える』は別問題です。法的規制がないからといって、その生態にあった生息環境の再現や、動物福祉を無視してはいけません。

よくある『こんなはずじゃなかった』としても、終生飼育を全うして下さい。手に負えなくなって『引き取ってください』と相談されても、うちの群れに入れることはできません。闘争になるのが目に見えていますから、引き取りはできません。『山に放す』といって飼育放棄をしても、その仔はもう野生へは帰れません。帰るところが無いんです。

犬猫などの愛玩動物は、古くから人間に飼われてきた歴史があり、動物側もそれなりに適応してます。犬猫それに準ずるものに求めることを、野生動物に求めるべきではありません」

動物についてどう考えるかが、未来への鍵になる

「命が大切と言って、動物を見せ物にしているじゃないか」―。

動物園・水族館に対してこんな声も上がっている。確かにかつての動物園は、見せ物小屋のような存在だったかもしれない。しかし人間の社会活動により環境汚染が進み、絶滅に瀕する種が出てきた。そこで世界各国が連携して、この問題に取り組むことになった。すなわち動物園・水族館の使命になった。動物園での取り組みの一つに生息域外保全がある。

環境省は19日、国の天然記念物で絶滅危惧種の二ホンライチョウを長野県の中央アルプス(以降中ア)で増やすため、中アで生息するライチョウを那須どうぶつ王国と茶臼山動物園へ移送し、動物園で増えた個体の一部を中アに返して野生復帰をさせる目的を発表した。

「動物園・水族館は『野生への扉』なので、動物の魅力を伝えることは生物多様性の保全に資する目的があります。そのためには動物の紹介は大事です。お客様が安全でなければならないのは勿論ですが、動物本来の能力を有効に使っているところを見て感じて欲しいと思っています。

僕は30年以上前にオーストラリアでカンガルーの放し飼いを観ました。お客さんがカンガルーに青草を食べさせながら、その様子を静かに観察しているのを目の当たりにして感銘を受けました。日本に帰ってきてカンガルーの放し飼いを試みましたが、オーストラリアと日本での意識の差に愕然としました。子供がカンガルーを追いかけていると、親が『こらー!』と言うから叱るのかと思いきや『そんなことで捕まるかい!頑張れ!!』と、けしかけました。

追いかけ回されたカンガルーは、フェンスに激突して怪我をしました。(日本での環境教育はまだ早かったんだな)と思い、すぐに放し飼いを止めました。

あれから30年以上が経ち、いまは子供が何かしたら飼育員が注意をする前に、親がすぐに叱ってくれます。日本の意識がようやく追いついてきたと思っています。これからは生物多様性の保全への意識がもっと発展していくだろうと期待を持っています」(佐藤園長)

『野生への扉』が生物多様性の保全とどのような繋がりがあるのだろうか。生命の中には、ヒト・家畜・野生動物・植物・バクテリアまで、地球の多種多様な生物は自然によって形成されてきた。これらの生物はどれを取っても、ただ一種では生きていくことはできない。生きる上で欠かせない空気や食料・資源は、森や海の健全な環境から生み出されている。

地球上のあらゆる生命は、多様な生物と繋がることでしか生きていけない。『野生への扉』はそのこと知るために存在しているのだ。

神戸どうぶつ王国では、空を舞台に鳥本来の能力を発揮した屋外バードパフォーマンスショーが3月12日から開催予定。

神戸どうぶつ王国
那須どうぶつ王国

入浴中に千島笹を食べさせてもらい「キュルル」と鳴きます。この鳴き声は、甘えていたり仲良くしたい時に発します。
砂場に群れで寛ぎ、群れから外れた仔は離れた場所で寛ぐ
食事はこまめに取ります
子供はお父さんのサポートでカピバラと触れ合う
お客様の優しいマッサージに「キュルル」と鳴いてウットリします
お隣さんのコツメカワウソに会いに行く。カピ「こんにちは!」コツメ「こんにちは!調子はどう?」
生後45日目のスナネコ弟 マフ王子。救世主の意味を持つアラビア語が由来
生後100日目にもなると逞しいマフ王子。
母親のバリーは、仲間との付き合い方をマフ王子に教えている。スナネコは気性が荒く、一般の方の飼育には向きません
動植物を見ることで、その生態や生息する自然環境への理解を深めてもらえると幸いです
  • 取材・文椙浦菖子撮影菊地弘一

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