豆柴犬が主役の「東日本大震災・被災漫画」が共感を集めるワケ | FRIDAYデジタル

豆柴犬が主役の「東日本大震災・被災漫画」が共感を集めるワケ

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《国内最大級 震度6強の地震と巨大津波が襲ったあの年——ボクは柴ばあと出会った》

まもなく発生から10年を迎える東日本大震災。時が流れ、人が、社会が移り変わっていく中で、忘れないで……とメッセージを投げかけるコミックが、静かな感動の輪を広げている。

『柴ばあと豆柴太』(ヤマモトヨウコ著 講談社刊)

ウェブサイト「現代ビジネス」上で連載中の『柴ばあと豆柴太』は、東北の太平洋沿岸の小さな町で弁当店を営む「柴ばあ」と、震災の瓦礫の中から拾われた豆柴犬「豆柴太」を中心に、被災地の日常を描いたハートフル・ストーリー。

愛する家族を亡くし、癒しきれない後悔や無念を抱えながらも、人と人が支え合い、立ち直ろうとする姿を描いたヒューマンな物語が「今こそ読むべき作品」として高い評価と共感を呼んでいる。

笑いとともに温かな涙が湧く珠玉の作品は、どのようにして生まれたのか。そして、震災から10年の今、私たちがあらためて胸に刻むべきこととは。作者である漫画家・ヤマモトヨウコさんに尋ねた。

犬とおばあちゃん、一人と一匹が支え合って

太平洋を臨む小さな港町・福音浜(ふくねはま)。そこに、頑固だけど根は優しい女性・柴ばあが切り盛りする弁当店がある。店先で愛想を振りまくのは、彼女の相棒である看板犬・豆柴太(まめしばた)——と紹介すると、「犬じゃありませんっ! ボクは人間でつ!」と吠えかかられる……だろうか。

舌足らずな犬語(本犬的には人語?)も愛くるしい豆柴太。ヤマモトさん自身、幼い頃に柴犬と暮らした経験があり、「今は転勤族のため、ペットが飼えなくて残念」とのこと

一人と一匹の暮らしが始まったのは、2011年。東日本大震災で娘と孫を津波にさらわれ、二人の姿を探していた柴ばあが瓦礫の下から探り当てたのが、親とはぐれた仔犬だった。自分を人間であり柴ばあの孫と信じているこの豆柴犬が、『柴ばあと豆柴太』の語り手。震災発生から9年後の福音浜を舞台に、おもに犬の視線から眺めた人々の日常が温かく、ユーモラスに綴られている。

「犬を語り手に、というのは、物語を考えた当初から決めていました。主人公を人間にすると、すべての人の悲しみに寄り添うことが難しくなるかな?と……。犬を主人公に据えることで、より多くの方、小さなお子さんにも読んでいただきやすくなるんじゃないかと思って」

そう語るヤマモトさん。そう、登場する人物は、普段は明るく振る舞っていても、誰もがあの震災にまつわる悲しい記憶を抱えている。

娘のさなえと孫の虎太郎をなくした柴ばあ。虎太郎の親友だった少年・修司。虎太郎と幼い恋を育んでいた少女・美波。被災地の出身ではないものの、震災で亡くした夫の地元で義母に寄り添い続ける教師の博子先生。多くの町の人を救えなかったことを悔やむ消防士の阿子島さん。ひとりひとりの心の声に耳を傾けるように、読み手はページをめくっていく。

「連載を始める前は、私なんかが描いてはいけないんじゃないか、と思っていました」とヤマモトさん。実は、ヤマモトさんは被災地の出身でなく、震災の体験者でもないのだ。

被災地以外の人間にも、描けることがある

「夫の転勤で、京都から5年前に東北にやってきたんですが、来る前は、もう復興は完了しているんじゃないかと思っていたんです。でも……生活していく中で、こちらで知り合った人との飲み会や通っている美容室で、『震災当時は、こんなふうだったんだよ』という話を聞いて、まだぜんぜん過去のことじゃないんだって」

その後、熊本や北海道など、全国各地で大きな地震が起こり、震災は決して他人ごとではないと感じたヤマモトさん。さらに、観光で訪れた石巻での体験が、作品を生み出す契機になった。

「石巻の津波の伝承館(東日本大震災メモリアル 南浜つなぐ館)に行き、亡くなった子どもたちの遺品を見たり、映像や写真を見たり、被災した方々が当時の気持ちを綴った文章を読んだりして、少しずつ震災のことを知っていって……。

とくに、震災の体験を語り継ぐ語り部の方々、ですね。ご自身がすごく辛い体験をなさっているのに、それでも一所懸命、当時の記憶を伝えようとされている。その姿を見て、当事者でなくても、私なりに漫画という形で伝えたいなと思うようになりました」

ヤマモトさんが大事にしたのは、それぞれに一様でない思いがある、ということ。同じ震災を体験しても、悲しみの感じ方も、気持ちの表現方法も、癒すためのプロセスも十人十色。ひとりとして同じ人はいないのである。

「東北といっても、地域によって震災への意識は違いますし、たとえば宮城県の中でも、内陸部の方からは『被害が大きかった沿岸部の方と震災について話すことはためらわれる』という声も聞きました。

それぞれのキャラクターに直接的なモデルがいるわけではありませんが、取材をしていると、何か忘れ物をして、それを取りに帰って津波に遭ってしまったとか、自分の家やお店が心配になって、あるいはペットが気になって戻ってしまって……という方の話をたくさん伺ったんです。

その方々の周囲には、きっと引き止められなかった後悔を抱えた人がいるんだろうなと思ったので、そうしたこともエピソードに盛り込みました」

震災を「自分ごと」として生きていく

描かれる体験はシビアだが、決して辛いエピソードばかりではない。意地っ張りだが人情に篤い柴ばあのキャラクターは、ヤマモトさん自身の祖母をモデルに造形されたパワフルな存在感で、物語を力強く牽引する。

「うちの祖母もすごく強い人だったんですが、東北の沿岸部の女性にもそういう女性がたくさんいらっしゃるみたいで、読者の方から『うちのおばあちゃんみたい』と言っていただくことがありますね(笑)」

ほぼ毎話に登場する東北のおいしいものに食欲を刺激されてしまうのも、読みどころのひとつ。ソウルフードの「じゃじゃ麺」、柴ばあレシピのポイントは、山椒の辛味を効かせること

小麦粉に重曹、黒糖などを加えて蒸した郷土菓子の雁月(がんづき)や、名物のじゃじゃ麺(各家庭にレシピがあるのだとか)など、東北の暮らしを細やかに描いた描写も、日々を生きていこうとする人々の物語に確かな体温を与えている。

「食べることは、好きですね。それに、旅も。旅に出ると、1時間ごとにいろんなものを食べている感じ」とヤマモトさん。新人賞を獲得しデビュー後、読み切り漫画をおもに手がけてきた彼女にとって、『柴ばあと豆柴太』は初の連載作品だが、「実際に起こったことをモチーフにして描いているので、描いているときもこれまでとは違った手応えがあります」と言う。

「描いているときは、『この表現で誰かを傷つけないかな?』ということに気を配ったりもします。でも、届ける人が具体的に見えている、というんでしょうか……。東北の方にはもちろん届けたいし、熊本や新潟、北海道など、地震を体験して心を痛めている方は、全国にいらっしゃるわけなので」

町が復興しても、人の姿が消えたあとの空洞はそう簡単には埋まらない。それを象徴するかのように、『柴ばあ〜』の登場人物たちの抱える問題は、決して一話の中でスカッと解決することはない。が、それが事実であり、ヤマモトさんが描こうとしているのは、そうした血の通ったリアルな物語なのだ。

「9年、10年経ってもPTSD(心的外傷後ストレス障害)を抱える方はいらっしゃるし、10年経ったからといって突然、すべてがクリアになったというのは、やっぱりちょっと違うかなと思って……。連載を始めてから、そして単行本になってから、読者の方がより多く、震災についてより積極的に語ってくださるようになったのは、やっぱりうれしいことです」

すでに発表されている物語では、柴ばあに認知症の症状が現れ始めたり、登場人物たちが秘めていた思いが次々と打ち明けられたり……と、人々の物語は現在進行形。さらに今後、柴ばあにとって因縁の相手ともいえる重要人物が登場するなど、見逃せない展開が待ち受けているという。

《きっと この町も いつか 笑えるようになりまつよね? 柴ばあ》

10年ひと区切り、ではなく、生きている限り続く人生の物語に希望を込め、ヤマモトさんは今日も東北で物語を紡ぎ続けている。

ヤマモトヨウコ 京都府出身。現在は宮城県仙台市在住。新人賞への応募を経て漫画家デビュー。現代ビジネスに初連載中の『柴ばあと豆柴太』は、コミックス1巻2巻に続き、第3巻が3月9日に発売される。バスケットボール歴16年、旅と食べ歩きも大好き。ヤマモトヨウコさんのTwitter:@YY0905

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『柴ばあと豆柴太』 第1巻1話

  • 取材・文大谷道子

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