いま明かされたZARDのデビュー曲と大滝詠一の「不思議な秘話」 | FRIDAYデジタル

いま明かされたZARDのデビュー曲と大滝詠一の「不思議な秘話」

スージー鈴木の「ちょうど30年前のヒット曲」、今回はZARDのデビュー曲に秘められた驚愕のエピソード!

早逝した坂井泉水を悼んで「しのぶ会」には多くのファンが足を運んだ。いまも彼女の歌は歌い継がれている(2007年6月27日・青山葬儀所)
早逝した坂井泉水を悼んで「しのぶ会」には多くのファンが足を運んだ。いまも彼女の歌は歌い継がれている(2007年6月27日・青山葬儀所)

ちょうど30年前のヒット曲を紹介しています。今回は1991年2月10日発売のZARD『Good-bye My Loneliness』。

ご存知の通り、ZARDのボーカル=坂井泉水は、2007年5月27日、入院していた病院のスロープから転落して後頭部を強打、脳挫傷で帰らぬ人となりました。写真は、その1ヵ月後、同年6月27日に行われた「偲ぶ会」で撮影されたものです。

さて、『Good-bye My Loneliness』はZARDのデビュー曲で、また、90年代前半の「ビーイング系黄金時代」への号砲となった曲でもあります。

売上枚数は20.9万枚で、「中ヒット」という感じでしたが、翌年の『眠れない夜を抱いて』の45.8万枚、『IN MY ARMS TONIGHT』の32.2万枚を経て、93年の『負けないで』は何と164.5万枚を売り上げ、「黄金時代」が極まることとなります。

この曲のヒットに、あの大滝詠一が絡んでいたというエピソードを最近知りました。「ビーイング系」と「ナイアガラ系」、ほとんど接点のなさそうな、むしろ日本ポップス界の極北と極南のような2系列が、ZARDのデビューヒットに絡んでいたという、非常に興味深い裏話。

そのエピソードを知ったのは、フジパシフィックミュージックが運営するYouTubeチャンネル=『朝妻一郎 たかなる心の歌』の「第16回:大滝詠一『恋するカレン』から。

朝妻一郎という人は、フジパシフィックミュージックの代表取締役会長にして、ざっくり言えば「日本ポップス界の顔役」みたいな人です。そのYouTube映像の中で、あの大滝詠一のことを「大滝くん」と言っているのですから、その存在感の凄みが分かろうというものです。

1990年のある日、朝妻一郎と、フジテレビのドラマプロデューサーの亀山千広は、大滝詠一の下を訪ねます。そこで2人が大滝に『結婚の理想と現実』(91年)というドラマの主題歌を依頼します。

すると大滝詠一は、「朝妻さん、今は俺よりも長戸大幸さんの方がすごく当たっているから、今は長戸大幸さんで行くべきだ」と進言したというのです。

ご存じの方も多いでしょうが、長戸大幸とは「ビーイング系」の創業者にして総帥。しかし、大滝詠一が、一見、まったく接点のなさそうな長戸大幸をなぜ指名したのか。

その答えとして朝妻一郎は、「洋楽のいいフレーズを、どう使ったらヒットするかのノウハウ」を長戸大幸が持っていることを、大滝詠一が見抜いていたからと語ります。まさに「名人は名人を知る」といったところでしょうか。

話を受けて、朝妻一郎と亀山千広は、長戸大幸を訪ねます。すると長戸は、まずデビュー前のZARDを推薦し、かつ楽曲として、日本でヒットしそうな曲調の洋楽ヒットを録音したカセットテープがたくさん入ったかばんの中から、スターシップ87年のヒット=『愛が止まらない』(Nothing’s Gonna Stop Us Now)のテープを選び、このような曲はどうかと、提案するのです。

言われてみれば、『Good-bye My Loneliness』と『愛が止まらない』は似ています。メロディは異なりますが(だから盗作云々という話ではない)、曲の設計図とも言えるコード進行が共通します。具体的には、(キーをCとして)「C→Am→F→G」という、ポップスの王道のようなコード進行。

私は、この『Good-bye My Loneliness』と『愛が止まらない』の大本に、ポリス83年の特大ヒット=『見つめていたい』(Every Breath You Take)があると見ます。もちろん『見つめていたい』も「C→Am→F→G」。また、3曲ともアレンジが似ています。

イギリスのポリス『見つめていたい』から、アメリカのスターシップ『愛が止まらない』を経由して、日本へ。ZARD『Good-bye My Loneliness』のヒットの背景には、大西洋・太平洋をまたいだ「C→Am→F→G、世界一周の旅」があったのです。

長戸大幸のヒット作りのノウハウは、作曲面だけに留まらず、作詞面でも発揮されます。『Good-bye My Loneliness』の作詞は坂井泉水自身なのですが、ZARD『永遠 君と僕の間に』(幻冬舎)という本には、坂井泉水に長戸が教えた作詞メソッド5ヵ条が記されています。

1 口語体で書く
2 Aメロで情景描写をする
3 Bメロで状況説明をする
4 サビで願望を言う
5 サビに曲タイトルを入れる

あらためて『Good-bye My Loneliness』の歌詞を見てみると、2・3あたりは、やや曖昧な感じはしますが、1・4・5はまさに、このメソッド通りに作られていることが分かります。

また「ユーミンと中島みゆきの歌詞は全曲暗記しろ」と、長戸大幸が坂井泉水に命じたという話も書かれています。当時、匿名性を強く感じた「ビーイング系」のヒットでしたが、その裏側には、このような、とても人間臭い工夫と苦労があったのです。

今年の2月6日、ZARDのデビュー30周年と坂井泉水の誕生日を記念した有料配信イベントが開催されました。東京中日スポーツによれば、そこで「ビーイング系」の同志だったシンガー=大黒摩季はこう語ったといいます。

「今はもう、私が早めに向こうに行くしか会えないから、年に一度でもいいから、幽霊になってでもいいから、早く帰ってきて(笑)。あのころできなかったことを全部しよう!」

『Good-bye My Loneliness』から30年となる今年は、ファンにとって、坂井泉水との別れという「Loneliness」に、そう簡単には「Good-bye」出来ないことを確かめる1年なのかもしれません。

  • スージー鈴木
  • 写真共同通信社

スージー鈴木

音楽評論家。1966年大阪府東大阪市生まれ。bayfm『9の音粋』月曜日に出演中。主な著書に『80年代音楽解体新書』(彩流社)、『チェッカーズの音楽とその時代』(ブックマン社)、『イントロの法則80's』(文藝春秋)、『サザンオールスターズ1978-1985』(新潮新書)、『恋するラジオ』(ブックマン社)など。東洋経済オンライン、東京スポーツ、週刊ベースボールなどで連載中。新著に『EPICソニーとその時代』(集英社新書)、『桑田佳祐論』(新潮新書)

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