上野千鶴子が語る「令和の時代にようやく起こった大きな変化」 | FRIDAYデジタル

上野千鶴子が語る「令和の時代にようやく起こった大きな変化」

「悪いのは森発言だけじゃない」ジェンダー研究のパイオニアが語る「社会の変化」

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「今回のことで、変化は確実にありました。

発言自体は、驚くようなことではなかった。これまでも何度も何度も繰り返されてきたことです。『このおっさん、まだこんなことを言ってる』という反応もあった。謝罪して幕引きにしよう、辞めなくていい、引き止めようという動きもありましたね。

でもね、じっさいに『変化』が起こりました。辞任に追いこんだんですから。総理大臣まで務めたことのある『権力者』でも、人々が声を上げることで退かせることができた。差別的な言動を見過ごさないという実績ができた。これは、とっても大きな変化です」

「社会の変化に革命はない。けれど変化は足元から、確実に起こる」と上野千鶴子さんはいう。2019年の東京大学入学式での「祝辞」もまた、変化のきっかけになった。歴史に残る名スピーチだ 写真:山田勉/アフロ

東京大学名誉教授で社会学者の上野千鶴子さんはこう言う。

「後任人事が同じような忖度(そんたく)政治のくりかえしになるとわかって、それも押し戻すことができました。女性だけでなく、男性も声を上げた。そして状況が動いたんです」

「森発言」「女性蔑視」という言葉が世界中に広がり、批判が殺到した。

東京五輪・パラリンピック組織委員会の会長だった森喜朗氏の「女性蔑視発言」。会議の挨拶で『女性が入っている会議は時間がかかる』とか委員会の女性理事たちは『わきまえている』などと発言したのは2月3日だった。これが報道されるとSNSを中心に声が上がった。「#わきまえない女」そして男性も、この発言に疑問を呈した。

翌4日に行った「謝罪」のための会見で記者の質問に「逆ギレ」、この動画がリアルタイムで流れたことで問題は一気に海外にも知られることになる。

沈黙することは同意と同じ

「最初、IOCは『日本のことは日本で解決しなさい』という姿勢でした。けれども海外からの反応は早く、反発は大きかった。そしてなにより日本で、これまでにない多くの人が声を上げました。

それは、『森さん個人が悪い』というだけのものではありませんでした」

SNSには自身の経験を振り返って反省する男性からの発言も多かった。一方、「なかったこと」にするような反応もあった。

「問題の発言があったとき、会議の席では『笑い声があがった』でしょう。その場で発言を窘(たしな)める人はなく、笑いで同調したんです。そして、問題が大きくなっても、日本の現役アスリートたちの多くは沈黙しました。

差別の現場で、それを咎めないこと、沈黙することは、差別を認めて加担していることになります」

「もし自分がその場にいたら、一緒に笑ってしまったかもしれない」という声も上がった。そんな「反省」もふまえ、盛り上がった世論は止まらなかった。結果、森会長は12日に辞任を表明。ここまで10日間の、様々な立場の人からの発信には多くの発見があったと言う。

「#MeTooも含めて今回のことで、わたしが変化を感じたのは、『わたしたちがガマンしてきたせいで、ごめんなさい』という、年長の女性からのメッセージがあったことです。わきまえる女たちが差別の構造を再生産してきた、自分にも「わきまえ癖」がついていた、と反省する女性たちが登場しました。こういうことは痛みを伴わなければ言えません」

蔑視にあっても沈黙して我慢してきた女性たちが、若い世代に向けて反省という形で思いを伝えたことも、ひとつ「変化」だし、前進だったといえる。

後任に「女性」橋本聖子が就任したが…

会長の辞任、次の会長候補は不評から就任を辞退するという経緯を経て18日、橋本聖子氏が会長に就いた。

「この時期、誰がやっても難しい役を女性に振るというのは、まるで人身御供のように感じました。橋本聖子さんは政界における森・元会長の『父の娘』だそう。辞任できない、断れないところに追い込まれたのでしょうね。父の不始末の後始末を娘がやらされる、ということでしょうか」

「後任は女性に」という期待もあるなかでの決定だったが、オリンピック自体の開催も危ぶまれる今、残念ながら手放しで喜ぶような状況ではない。

世界では女性のリーダーが活躍しているが、男女格差を表すジェンダーギャップ指数、日本は153か国中121位だ。

歴史に残る「名スピーチ」に泣いた

「『おっさん』は再生産されるんです。2019年に東京大学の入学式で祝辞を述べました。そのなかで、女子学生の置かれている性差別の現実や、女性学という学問について話しました。そのとき、リアルタイムで『こんなの祝辞じゃない』とツイートした男子学生たちがいました。まだ若い彼らにもおっさん的価値観がすでに身についているのかと思いましたね」

このときの上野さんの「祝辞」は大きな話題になった。

「あなたたちのがんばりを、どうぞ自分が勝ち抜くためだけに使わないでください。(中略)強がらず、自分の弱さを認め、支え合って生きてください。(中略)フェミニズムはけっして女も男のようにふるまいたいとか、弱者が強者になりたいという思想ではありません。フェミニズムは弱者が弱者のままで尊重されることを求める思想です」(「祝辞」より)

全文が公開された上野さんの言葉に、大きな感動が広がった。今も東京大学のHPで公開されているそれは、歴史に残る名スピーチだ。

「反発もあったのは事実ですが、あの日、壇上から話しているとき、新入生の多くは身を乗り出して聞き入っていたという印象があります」

会場の日本武道館には、上野さんの言葉に心を打たれ涙ぐんでいる人もいた。そして報道を見てこの「祝辞」を知った多くの人々もまた心を打たれ、感動は、さざなみのように広がったのだ。

入学式「祝辞」の上野さんが東大のプロモーショングッズに。ご本人は「笑える」というが、このスピーチが社会に与えた影響は計り知れない(写真:Twitterより)

革命は起きない。けれど、変化は「けっして後戻りしない」

「社会の変革は、徐々に進みます。革命のようなことは起きません。今このコロナ禍に、弱さを認めて支え合うことが、これまで以上に必要になっています。

社会変革って、タテマエの変化です。お腹のなかのホンネは変えられないかもしれません。でも公的な場でこういう発言をするのはアウト、こういう行為は間違っていると、社会の『常識』が変わっていけばそれでいい。タテマエが変わることで、社会は変わっていきますから。

そのためには、差別的な言動があったら『そのときその場でイエローカード』です。沈黙は同意、笑いは共犯ですから。

今回のことで、確実に変化がありました。おっさんたちは、性差別的な言動をすると地雷を踏むことになると学習したのではないでしょうか。オンラインアクティビズムは声をあげることのハードルを下げました。これはひとつの成功体験になりました。この変化は、けっして、後に戻ることはありません」

上野さんたちの手で、女性学が生まれて40年。ジェンダー研究と呼ばれるようになったこの分野の研究が進み、環境が変わっていくなかで、日本でも「ジェンダー平等ネイティブ」世代が生まれ始めているかもしれない。3月8日は、国際女性デー。変化が後戻りすることのないように、ひとりひとりが「足元に注意」していたい。

<上野千鶴子:社会学者、東京大学名誉教授、認定NPO法人ウィメンズ・アクション・ネットワーク(略称WAN)理事長。日本における女性学、ジェンダー研究のパイオニアとして活躍、介護研究も対象とする。著書多数。近著『在宅ひとり死のススメ』(文春新書)、立命館アジア太平洋大学学長の出口治明氏との共著『あなたの会社、その働き方は幸せですか?』(祥伝社)がともに大きな話題になっている。新刊に十代の女性に向けた『女の子はどう生きるか 教えて!上野先生』(岩波ジュニア新書)がある>

  • 写真山田勉/アフロ

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