28歳の遺品整理人がミニチュアの「孤独死現場」を作り続ける理由
待っているのは溶けた皮膚、剥がれ落ちた頭皮……それでも彼女は「孤独死の現場」へ向かう
血に濡れたロープ、尿の入ったペットボトル、食べかけで腐ったカップラーメン……これらはすべて、実際の「孤独死現場」をもとにして作られたミニチュア作品である。
「死は突然やってくるんです。部屋でくつろいでいる時、お風呂に入っている時、トイレに座っている時――いつやって来るかわからない。〝孤独死〟は生きている限り誰にでも起こりうるということを伝えたいんです」
それが、遺品整理クリーンサービスの小島美羽さん(28)が「孤独死現場」のミニチュアを作り続ける理由なのだという。

これまでに制作した作品は9つ。「自殺」「ペットが残されたゴミ屋敷」「トイレや風呂場での死」など、特殊清掃と遺品整理の仕事をしている彼女が現場で見た光景が、モチーフになっている。
「ミニチュアを作り始めたのは、遺品整理人として働いて2年が経った頃でした。葬祭業界が開催している『エンディング産業展』に出店したのがきっかけです。
それまで遺品整理の仕事を紹介するときは、作業風景の写真を見せながら現場の様子を説明していたのですが、自分には関係ない、
ミニチュアであれば生々しくならず、伝えたいテーマごとに制作することもできる。話を聞いてもらうきっかけも作りやすくなり、孤独死は自分にも起こりうると、より多くの人に気づいてもらえるのではないか――。
以来、「孤独死現場のミニチュア」が、小島さんが現状を伝えるための手段になった。



「人が死んでいった現場を再現するのがつらい、という気持ちはありません。体が溶けて、頭皮が剥がれ落ちてーーどんな形になったとしても、その人はその人なので」
そもそも彼女はなぜ、遺品整理の仕事を志したのか。
「私が高校生の頃、父が孤独死寸前の状態でみつかったんです。幸い死に至る前に発見され、病院で息を引き取ることが出来ましたが……。お酒が大好きで仕事をしなかった父に母が限界を感じ、別居を始めた直後でした。
高校を卒業した後は郵便局に就職しましたが、父の死以来、ずっと孤独死の現場にかかわる仕事のことが気になっていて。その頃、インターネットの掲示板で、〝遺品整理の悪徳業者に騙された〟という書き込みを見つけたんです。
残された遺族の心の傷をさらにえぐるようなやり方に憤りを感じました。遺族という立場を経験した自分なら、もっと違う対応ができるんじゃないか、家族を失った人の悲しみを少しでも晴らしてあげられるかもしれないと考えました」
小島さんは、すぐに郵便局を退職すると、かたっぱしから自分の興味があった仕事に就いた。バラエティ番組のADをやったり、化粧品メーカーの工場に務めたり、カステラ店で働いたり。
そうして、「遺品整理を一生の仕事にできるか」という気持ちを確かめた彼女は、2年間の「覚悟を試す期間」を終え、22歳の時に遺品整理人となった。
「〝悪徳業者をぶっ潰す!〟という心意気で働き始めたのはいいのですが、故人の遺品を勝手に持ち出そうとする近所の人や、遺族に高額な退去費用を払わせようとする不動産業者の姿を見て、何もできない自分が情けなくて大泣きしたこともあります。
この仕事のつらいところは、死臭や蛆虫ではなく、人間の心の醜い所を見てしまうことなんです。
それでも、心を閉ざしていた遺族の方と一緒に遺品整理をするうちに、思い出の品が出てきて、それについて語り合ったり、本棚に並ぶ本を見て、故人の人となりを感じたりする瞬間に、『この仕事を選んでよかった』と思えますね」
彼女の作品制作は、どこまで続くのか。
「孤独死は誰にでも起こりうることだと皆さんに認識してもらえるまで、伝えたいことがある限りは続けようと思っています。
今制作しているのは〝二世帯住宅で起きた孤独死〟のミニチュアです。
〝餓死〟の現状も伝えたい。日本にいながら飢えて死んでいくなんて信じられないと思う人も多いかもしれませんが、私が担当した過去の現場にも、飢餓が原因で亡くなった人がいたんです。
自分の身にはありえない、と思っていることが、ある日、なにかをきっかけに起きるかもしれない。孤独死もその一つです。ミニチュアを通して、そのことをたくさんの人に感じてほしいと思っています」





撮影:小財美香子