『トラック野郎』秘蔵写真も! デコトラ聖地のド派手アイテム
劉備玄徳、関羽雲長……。車体に描かれているのは、三国志の英雄たちだ。エンジンを入れると「ブロロロロ」という腹に響く低音とともに、赤や紫のライトが点滅。周囲を歩く人たちが、ド派手な2トントラックへ物珍しそうに視線を送るーー。
神奈川県三浦郡で建設会社を経営する高木豊氏が所有するデコレーショントラック、通称デコトラだ。高木氏が胸を張る。
「装飾には800万円ほどかけました。三国志の武将たちの絵は、有名な画家に描いてもらったんです。『写真を撮らせてくれ』と、外国人観光客に話しかけられることもよくありますよ。ライトマーカーなどのアイテムは、40年近いつき合いのある中村さんの店から購入しています」
「中村さん」とは、トラック用品専門店「なかむら」(神奈川県横浜市)社長の中村秀夫氏(76)のこと。「なかむら」は、装飾アイテムを求め全国からドライバーが集まるデコトラの聖地だ。店内には約3000種類、1万点以上の商品が並ぶ。中村氏が語る。
「もともと父親が、米軍の払い下げ品を売っていたんです。73年頃かな。お客さんの一人が『ヤンキーホーン』と呼ばれるトラック用の警笛が人気らしいよと、教えてくれたんです。それがキッカケで、トラックのアクセサリーを売り始めました」
75年に中村氏の名前を、全国のトラック運転手に知らしめる転機が訪れる。菅原文太主演で大ヒットした、映画『トラック野郎』の装飾を担当することになったのだ。中村氏が続ける。
早朝から深夜まで連絡がひっきりなし
![高木氏のトラックの車体には三国志の英雄たちが描かれる](https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/c_scale,dpr_2,f_auto,t_article_image,w_664/wpmedia/2021/03/5c0e09b3d281fae491e57002330fdba4.jpg)
「当時トラックを題材にしたテレビ番組に協力していたんですが、たまたま文太さんと共演した愛川欽也さんが見ていたんです。制作した東映は、トラックのことは何もわからない。だったら『中村商店』(当時の店名)に協力してもらおうとね。
いざ引き受けてみると、大変でした……。何かトラブルがあると、スグに店のある横浜から東映撮影所(東京都練馬区)まで行かなければなりません。早朝から深夜まで、連絡はひっきりなしです。撮影が行われた北海道まで飛んで行ったこともあります。本業が疎かにになってしまうので、残念でしたがシリーズ3作目で辞退させてもらいました」
『トラック野郎』上映前後が、デコトラ人気のピークだった。大型トラックなら、デコレーションに500万円から600万円かけるのは当たり前。中には、1000万円以上つぎ込むドライバーもいるという。だが70年代後半になると、きらびやかな外見のトラックは徐々に減っていく。
「以前はトラックに味があった。車体に浮世絵が描かれたり、金や銀のカラフルなライトマーカーをつけるなど、一台一台個性的でしたからね。最近ではデコトラは車検に通らなかったり、取引先の会社から『ちょっと……』と拒否され、派手に装飾するのが難しい。トラックの個性が失われつつあるんです」(中村氏)
外装を派手にするハードルが高いので、内装にこだわるドライバーも多い。「なかむら」ではシフトノブ(4000円前後)やハンドルカバー(5000円前後)が売れ筋だという。
「長距離ドライバーのために、腰へのダメージを少なくするイスのカバーや仮眠用のシートなど、実用品もあります。大きな車体を洗うために3.3mまで伸びるブラシも用意していますが、買うのはドライバーだけではありません、京都の有名なお寺さんや、ゴルフ場も清掃のために購入しているんです。
デコトラの数が減っているから、時代に逆行している店かもしれませんね。でもドライバーは自分好みの内装にすることで、リラックスして楽しく仕事をしている。彼らが求められるものを提供していくのが、このお店の役割なんだと思っています」(中村氏)
時代は変わった。だが、いまだに派手な装飾にこだわるドライバーもいるのだ。中村氏は、冒頭で紹介した「三国志トラック」の所有者・高木氏と「オレたちは昭和だから」と笑う。
![「なかむら」の店内には映画『トラック野郎』のポスターが](https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/c_scale,dpr_2,f_auto,t_article_image,w_664/wpmedia/2021/03/e49f94c0e5555487dad5a7481e9cfd18.jpg)
![菅原文太と愛川欽也をモチーフにしたデコトラ画像](https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/c_scale,dpr_2,f_auto,t_article_image,w_664/wpmedia/2021/03/18cb751f7926a9f5ad32bac242596693.jpg)
![70年代、流行全盛期のデコトラ。装飾もド派手だ(画像:中村氏提供)](https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/c_scale,dpr_2,f_auto,t_article_image,w_664/wpmedia/2021/03/5751446cf79e97da83c224f14ed9f511.jpg)
![『トラック野郎』の大ヒットを記念し東映撮影所で開かれたパーティ。中村氏も出席した(画像:中村氏提供)](https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/c_scale,dpr_2,f_auto,t_article_image,w_664/wpmedia/2021/03/c6b12c27e08d7f6abfad5b8fea09ff6a.jpg)
![カラフルなシフトノブ。4000円前後の人気商品だ](https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/c_scale,dpr_2,f_auto,t_article_image,w_664/wpmedia/2021/03/47295aec56d33372a71f84b4f2c45dc3.jpg)
![約2000円のライトマーカー。こちらも売れ筋アイテム](https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/c_scale,dpr_2,f_auto,t_article_image,w_664/wpmedia/2021/03/9f3e711921638d131ad87bdfc7490fce.jpg)
![革製のハンドルカバー(上段)。下段のビニール製より頑丈だと人気](https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/c_scale,dpr_2,f_auto,t_article_image,w_664/wpmedia/2021/03/6517836d8ae8ced45a1bfc97b04f8e7a.jpg)
![店内のいたるところに『トラック野郎』の撮影当時の写真が](https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/c_scale,dpr_2,f_auto,t_article_image,w_664/wpmedia/2021/03/4eb7146ae446508246ee8dc63ee135ab.jpg)
![デコトラの歴史や『トラック野郎』の思い出について語る中村氏](https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/c_scale,dpr_2,f_auto,t_article_image,w_664/wpmedia/2021/03/ab714440d80ef399e75916153654e2d2.jpg)
- 撮影:西崎進也