傷害罪容疑の元警視庁SPに「無罪判決」の衝撃
驚きの判決、と言えるだろう。
2月26日、東京地裁。吉崎佳弥裁判長は、痴漢を疑われ追いかけてきた男性に大ケガ負わせたとして、傷害罪に問われていた被告に無罪を言い渡したのだ。
「男性がつまずいたり、階段を踏み外したりした可能性を排除できない」
吉崎裁判長は、無罪の理由を法廷でこう語った。傷害罪に問われていたのは、元警視庁SPの50代男性A被告。自民党の大物議員の警護も担当していた人物であるーー。
事件が起きたのは、昨年2月17日の朝だ。満員の都営新宿線内で乗客から女子高生への痴漢を指摘されたA氏は、神保町駅(東京都千代田区)で逃走。駅員を突き飛ばし、追いかけてきた20代の男性とともに階段から落下し大ケガを負わせた疑いが持たれていた。A氏は警察の取り調べに対し、痴漢も「同意のうえだった」と供述。事件直後、男性の妻は『FRIDAY』の取材にこう語っていた。
〈(男性が搬送された)病院に駆け付けると、夫が全身に管を通され横たわっていました。頭蓋骨骨折と脳内の大量出血により、死も覚悟しなければいけないほどの危篤状態でした。人を守るSPという仕事をしていた人間が、その体力を悪用して他人を傷付けたことを、私は絶対に許しません〉
法廷で変わった証言
男性は一時重体に陥ったが、幸いにも回復。法廷では、代理人を通じて後遺症についてコメントを発表している。
〈今もリハビリ中で右耳は聞こえづらい。今後も一生(後遺症が)続く可能性がある〉
〈できるだけ長く刑務所に行ってほしい〉
検察は階段踊り場で男性が腕を回してA氏をつかまえた際に、被告が上半身をひねって男性を転落させたと主張し。懲役2年を求刑していた。A氏は捜査段階で「体を捕まえた」と供述していたが、公判では当時の記憶がないと証言を変えている。だが……。
「階段踊り場を映した防犯カメラの映像がなかったんです。吉崎裁判長は『体をひねる暴行と、(男性と一緒に転落した際の)被告の客観的な体勢が合致しない』と指摘しています。男性がつまずいたり階段を踏み外したりして、A氏の暴行以外にも転落する原因は考えられるという判断だったのでしょう。
ただ裁判長は『無罪なので本来であれば説諭することはできませんが』と話し、こうも諭しています。『今後の社会生活において人に疑われるような行為はしないでください』と。A氏は『はい』と答えるだけでした」(全国紙司法担当記者)
司法が下した結論を、世論はどう受け止めたのだろうか。
撮影:結束武郎