18歳成年施行後「教室がマルチ商法の舞台になる」最悪のシナリオ | FRIDAYデジタル

18歳成年施行後「教室がマルチ商法の舞台になる」最悪のシナリオ

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写真はイメージです:アフロディーテ/田中庸介(A)/アフロ
写真はイメージです:アフロディーテ/田中庸介(A)/アフロ

2022年4月から成年年齢が18歳に引き下げられる。1876年(明治9年)に20歳と定められてから、長年にわたって変わらなかった成年の定義が見直されることで、社会は様々な混乱に直面しそうだ。

18歳と20歳では判断力や社会的知識に大きな差があるが、親の同意がなくても一人で契約ができるようになることで、金銭トラブルに巻き込まれる若者が増えると懸念されている。現在もマルチ商法などの被害に遭う若者は少なくないが、来年度からはどのようなトラブルが考えられるのだろうか。公益社団法人日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会(NACS)の山口知香さんに話を聞いた。

若者の「お金を儲けたい」心理に付け込む金銭被害とは?

目立つのは「お金を儲けたい」という心理に付け込んだ、「マルチ商法」「副業サイト」「情報商材」ですね。「マルチ商法」はみなさんご存じのとおり、商品を売って組織に加入させるとマージンが入る、昔からあるものです。ねずみ講と違って違法ではありませんが、「1ヵ月で〇〇万円稼げる」という成功話を信じる若者がいまでも後を絶ちません。本当に儲かるのは組織の上部にいる一部の人間だけなのに、安易に組織に加入してしまうんです。

多額の入会金を支払わされたのち、販売する商品の大量購入を持ち掛けられ、「儲かるならば…」と消費者金融で高額なお金を借りて組織に支払ったのに、まったく儲からないという相談が消費者センターに寄せられています。

「副業サイト」や「情報商材」に関するトラブルも、コロナ禍でアルバイトが減った若者の間に広がっています。両方ともSNS広告が若者との接点になっています。

「副業サイト」では「自宅に居ながら簡単にできる仕事」「1日3万円儲けた人も…」いうような電子広告の内容を信じ、そのサイトにアクセスして登録すると、悩み事相談にメールで回答するような仕事が紹介されます。指示通り返信をすると「報酬を受け取るには手数料が要る」などといわれ、クレジット決済するか、コンビニで電子マネーカードを購入して手数料を支払うよう指示を受けます。

ところが「手続きがスムーズに行かず、時間切れになった」「文字化けして対応できない」などと業者から連絡があり、そのたびに手数料を支払ううちに、「おかしい」「騙されているかも」と気が付いた時には、高額な代金を業者に渡してしまっています。

「情報商材」は「毎月30万円、簡単に儲かる方法を教えます」といった広告が目に留まり、内容を見ていくと、儲け方を説明した動画が安価で閲覧できるようになっています。代金を払うと動画URLが送られてくるのですが、同時に「この動画を使いこなし、さらに儲ける方法がある」「それは電話で聞くことができる」と知らされます。この電話で聞く内容(情報商材)に、100万円近い値段が設定されているのです。100万円払っても、その内容は一般的に公開されている簡単なものが多く、その通りにやっても儲かることはありません。

こうした事例では、クレジットカード決済の場合、クレジットカード会社に返金に対する協力を仰ぐことにより、返金されるケースが多いです。電子マネーの場合、電子マネー購入時の領収書が手元に残っていれば、電子マネー発行業者の協力を仰ぎながら、業者と交渉すると返金されることがあります。しかし現金で銀行口座に振り込んだ場合、返金される可能性はかなり低いのが現状です。

2022年4月からは、高校の教室がマルチ商法の舞台に?

2022年4月から成年年齢が18歳に引き下げられることにより、いろいろな問題が起こることが考えられます。例えば、学校の教室でマルチ商法が広がることもあるかもしれません。先に18歳になってマルチ商法に加入した生徒が、18歳になりたてのクラスメイトを勧誘するということは十分考えられます。

誕生日を迎えて18歳になれば成年となり、親の同意なく自分の意思で契約を結べる上、未成年者だけに適用される「取り消し」ができなくなります。18歳になったばかりの高校生が、マルチ商法の恐ろしさを知らないまま、軽い気持ちで加入・勧誘してしまうと、解約交渉が必要な大きなトラブルになる可能性があるのです。

また18歳は、大学進学を期に1人暮らしを始める時期でもありますが、賃貸住宅に関する契約トラブルも増えそうです。特に退去の際、修理費用で揉めるケースが出てくると思います。同様に、未成年者取り消しができなくなることで、新聞やインターネット回線契約などでトラブルに発展するケースも増えそうです。

若者の金銭トラブルには、SNSなどのオンラインが深く関係しています。前述の「副業サイト」や「情報商材」の相談を受けるたび、「リアルで会ったことがない人の説明を信じて高額な支払いをするなんて…」と思っていました。しかしコロナ禍の影響で、オンライン授業やテレワークが増え、社会全体にオンラインに対する抵抗感がなくなっています。オンラインを利用したトラブルは、新しい成人の間でさらに増えると懸念しています。

オンライン契約時のスクリーンショットは必須!

社会経験が少ない若者を金銭被害から守る武器は、ずばり「消費者教育」ですね。「契約の成立時期」「クーリング・オフなどの契約解除」に関する知識が身を守ります。特に「ネット上のトラブルを防ぐ知識」は、18歳になるまでに定着させる必要があると思います。

また投資詐欺に遭わないために、投資に関する知識も必要です。言い換えると、社会情勢を踏まえ、情報の正確さを見抜く力を養うことが重要ですね。投資は消費者にとって優良な企業を育てるためにあり、自身も消費社会を構築する一員であるという教育が求められていると感じています。

オンラインでの契約では、断定的表現や表記不足を理由に解約交渉をしたくても、難しいケースが多いんです。紙媒体と異なり、オンラインでは業者がいつでも掲載内容を変更することができ、契約時の広告を確認できなくなってしまうのです。どこに、どのように表示された広告を見て契約に至ったかを後で確認できるよう、画面のスクリーンショットをまめに取っておくことが役立ちます。

不安を感じたら、地元の消費生活センターの無料相談へ

契約に不安があるときは、地元の消費生活センターへの相談をお勧めします。消費生活センターは行政機関が市民サービスとして運営している組織なので、相談に関する費用は掛かりません。無料なのは若い方にとっても安心だと思います。

消費生活センターで解決が難しいときや消費者問題でない場合、ふさわしい相談場所を案内してくれることもあります。弁護士や司法書士など法律の専門家に有料で相談する前に、解決方法の目安を知ることができます。

土日祝日など、公共機関がお休みの場合は、私が所属するNACSの「週末電話相談」もご利用いただけます。土曜は大阪相談室、日曜は東京相談室が電話相談を受けています(緊急事態宣言が発令されている期間は休止していることもありますので、詳しいことは協会のwebサイトでご確認ください)。もし契約などで不安を感じたときは、NACSを思い出していただければと思います。

18歳の誕生日を迎え、成人になったからといって大人なのかといえばそうではない。いまの大人たちがかつてそうであったように、社会人としての成長には学びや失敗は欠かせない。1人の大人として扱われる契約の世界では、正しい知識と社会を見通す目が自分を守る。若者にはそうした武器を身に着けてほしいと願うと同時に、まわりにいる大人たちは彼らが被害に遭わない「生きた知恵」を惜しまずに継承していくことも大切なのではないだろうか。

山口知香 公益社団法人日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会会員。2018年からは西日本支部の運営委委員、2020年4月からは大阪相談室長として活動中。消費者相談はもちろんのこと、年間20件以上の消費者啓発講座や消費生活アドバイザー資格試験対策講座の講師も務める。適格消費者団体消費者支援機構関西の事例検討グループ員、奈良県の「なら消費者ねっと」理事でもある。

日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会

  • 取材・文浜千鳥

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