Jリーグ村井満チェアマンが語る「理想のリーダーの選び方」

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1月4日、ルヴァン杯決勝が行われたの新国立競技場にて。スタンドで指示を出す村井満チェアマン(提供:Jリーグ)

東京五輪・パラリンピック組織委員会の新会長に橋本聖子・前五輪相(56)が決まった。ただ、橋本新会長が決まるまでのプロセスでの「透明性」のなさ、「密室性」に多くの批判が集中した。それをスポーツ団体のトップはどう見たのか。野球と並ぶプロスポーツの一つサッカー・Jリーグのトップとして4期8年目をむかえた、村井満チェアマン(61)が持論を明かした。

「川淵さんだって100年続けてリーダーではいられない」

女性蔑視発言がきっかけで7年半トップだった森喜朗前会長(83)が辞任。今回は非常時でのトップ人事だった。「時間的制約がある中でしたので、僕が考える『リーダーの選び方』が当てはまるわけではないのと思うのですが‥」と前置きをした上でこう続けた。

「報道ベースですが、後任は女性の方がいいんじゃないか、もしくは、オリンピアンがいいのでは、という話が出ていましたよね。でもその前に土台になる議論が必要じゃないのかと思いました」

村井チェアマンはJリーグでは5代目になる。2014年に就任し、8年目に突入した。世間で「チェアマン」といえば初代・川淵三郎氏のイメージがことのほか強いだろう。

「組織の中に優れたリーダーがいれば問題はなかなか起きないもの。サッカー界でいえば、川淵さんはまさにそうだったと思います。でも川淵さんだって100年も続けてリーダーではいられない。実際、その再来を待ってもいられません。そこで、リーダーの人選には多角的な意見が必要になると思うんです」

村井チェアマンが誕生した際には、サッカー関係者の間でさえ「村井って誰?」という驚きで迎えられた。本人も「選手経験もなく、当時は海外赴任していたのでJリーグの詳しい情報も知らない。クラブの社長の経験もなかった。私のような凡人がチェアマンになったんです」と明かすほどだ。

そこで、どうしたか。村井チェアマンは80年代の日本代表FWでJ1浦和などの監督経験もある、原博実氏(62)を副チェアマンに、事務方のトップ専務理事には東大法学部からゴールドマン・サックス社を経てJ2岡山の社長になった木村正明氏(53)、そして今期は、25年近くJリーグに在籍し、リーグの組織・事業構造を知りつくす窪田慎二氏(51)、日本人および女性として初めてスペイン・リーガーエスパニョーラにおける監督のキャリアを持つ、佐伯夕利子氏(48)にも「どうしても来ていただきたかった」と常勤理事として招聘したのだ。

「全知全能のリーダーがいないなら、それを人材で、チームとして補うしかない。それこそが多様性だと思う。ガバナンスコードで女性が必要だと定められているからではなく、この組織は誰がリーダーで、足らないのは何か、というところを分析し、そこに必要な人材を投入するべきだと思います。(人事というのは)誰を選ぶか、という議論になるとどうしてもモヤモヤしてくる」

写真提供:Jリーグ

Jリーグのチェアマンは通算で任期8年を超えることができず、村井チェアマンは2022年3月で退任する。だが、「ポスト村井」を選ぶ仕組みは約2年前からすでに始まっていた。2019年3月、後任のチェアマンを選ぶ役員候補者選考委員会(委員長・野宮拓弁護士)を発足。それまでJリーグ次期チェアマンを決める際に、現職が後任者を〝推薦〟。実質的に、現職の声がそのまま通り、後継者が決まるケースが多かったが、それを変えた。

「大事なことは、今のチェアマンの仕事ぶりを徹底して総括したうえで、Jリーグの理念は何なのか、その理念に向かうプロセスでJリーグは将来どうなりたいのか?ということを優先して考えることだと思います。ですから、私はもちろん、私の部下も一切誰一人として(役員候補者選考委員会に)入れていません」

企業ガバナンスのアドバイザーもこの委員会にメンバーに入り「透明性」もしっかり確保している。村井チェアマンはさらに続けた。

「その上で、役員の候補者の中にどういうことを実現できる人がいるのか? そしてどんなことが苦手なのかを把握しながら、適任と思われる人をあげる。ただその人が必ずしも全知全能とは限らないので、トップをサポートする業務執行理事もチェアマンと一緒に選ぶんです。そういう土台の認識がないままに、人を選ぼうとすると、モヤモヤすることが出てくる。いい人が出てくるか、ということ以上に、いい人を探し続けるシステムを作ることがとても大切だと感じています。スポーツ界でも、民間企業と比較してもここまでやっているところはなかなかないんじゃないですか」

村井チェアマン自身は3期目の2020年3月で退任するつもりだった。しかし最終的には選考委員会が「他の候補者とかなりの差があった」(野宮委員長)という理由でチェアマン続投となった。「まさか、私が選ばれるとは‥家族とのハワイ旅行もキャンセルする羽目になりました(笑)」

国内ではなかなか見当たらない組織づくりの土台はどうやって作られたのか。

「チェアマン就任前の30年は人と組織のことをずっと見続けてきました。銀行員の方がお金の流れで組織を見るように、私は人の流れで組織を見てきました」

早大法学部卒業後、1983年に日本リクルートセンター(現リクルート)入社、同期は150人もいた。学生向けに配布する「リクルートブック」の広告取りの営業に奔走。会社の急成長するにつれて禍も降りかかってきた。入社5年が過ぎた1988年、政界、官界、マスコミをも巻き込んだ一大贈収賄事件「リクルート事件」が世間を騒がせた。

この時期に村井氏は本社の人事部門への異動を命じられた。鮨屋でリクルートの社員とわかって塩を撒かれたこともあったというが、それでも会社は辞めなかった。同事件以降は、社内の人材流出が止まらず、それを止める役も担った。採用活動にしても、バブル崩壊後はどんなに頑張っても新卒が3人しかとれなかった年もあった。

2018年、ロシアW杯に出場した日本代表の決勝トーナメント1回戦・ベルギー戦の試合前。村井満チェアマンは長谷部誠(前列左)、香川真司(前列右端)、長友佑都(同右から2人目)、吉田麻也(後列右から3人目)と討論した

夜9時からZOOMで話す相手とは……

自ら「ビビリ」と公言するが、そのビビる自分を乗り越えながら前に進み続け、
チェアマンに就任する直前の3年間は「中学レベルの英語しかできない」のに、外国人オーナーの会社を4社買収し、アジア26都市にオフィスを作った。そうした経験や試練を通してできあがった信条がある。

「自分の人事は自分で決めない」
「自分を超える人材を選ぶ」
「言うことを聞く後輩ばかりを選び始めたら、その組織は動かなくなる」
そして、「トップが割れた組織は絶対に機能しない」、ということだ。

東京・文京区のJリーグ事務局の入り口は閉め切られておらず、役員室も、職員個人の専用机もない、自由席でオフィスワークを行う。そのオフィスに“風通し”のよさが表れている。新型コロナウイルスの感染拡大により、事務局で仕事をすることはめっきり減ったが、その時間を逆に有効活用するプロセスに、村井チェアマンが培ってきた哲学が垣間見えた。

「こちらの夜9時ころ、ヨーロッパは昼間ですよね。ZOOMなどで1時間くらい話ができる時代になりましたので、副チェアマンの原さんにも時間を作っていただいて、海外でプレーする様々な選手と会話しているんです。長谷部さん、長友さん、香川さん、岡崎さん、本田さん、川島さん、そして(吉田)麻也さん…。スナックH&Mと呼んでいます(笑)」

今あげた選手だけでもドイツ、フランス、ギリシャ、スペイン、イタリアと5か国のリアルタイムの状況がわかる。同じくコロナ禍にあるヨーロッパはどんな様子か。どんな対応をとっているのか。そして、どんな選手が成功できるのか、といった話題にも及んだ。

「サッカーで成功しているのは、必ずしも心技体が強い選手ではない、ということがわかりました。人の話をとことん聴く『傾聴力』と、自分が思っていることをきちんと話す『主張力』が極めて高い選手が活躍するんです。

サッカーはプロ同士で試合しても0-0で終わることがよくあるように、見方を変えると“失敗が連続するスポーツ”です。お話を伺った選手はみんな、一度は心が折れた経験をお持ちです。でも長くトップで活躍できる選手は、それをきちんとリペア(修理)する技術が高い。挫折した時、監督、コーチ、ドクター、家族など様々な人たちから知見をもらい、それをしっかり聴いて、自分を主張する。考え抜いた上で主張するから、また新しい知見をもらえるんです」

何より村井チェアマンがこれまでの自らのビジネス経験にあぐらをかくことなく、30歳近く離れた若い人に「傾聴」しているからこそ、オフィスにも、組織にもフレッシュな風が流れているのかもしれない。

「リーダーはその時々の課題に合わせて選ぶべきです。たとえば、Jリーグのチェアマンという職が元Jリーガーであることが不可欠ならそうすべきだし、経営者感覚が必要ならそうあるべきかと。繰り返しになりますが、今回(東京五輪組織委の会長人選)は特に時間的制約があった。私が言っているような悠長なことは言ってはいられなかったと思います。でも、私なりのリーダーの選び方はと問われれば、まさにこう言う思いです」

ちなみに次のJリーグチェアマンは100人を超えるリストの中から、1年半の歳月をかけてこの秋にも決まる見通しだ。

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