毎週5分で即完する「チーズケーキ」驚きの販売戦略 | FRIDAYデジタル

毎週5分で即完する「チーズケーキ」驚きの販売戦略

コロナ禍でも快進撃が止まらないそのワケは‥‥

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毎週日曜と月曜に販売される『 Mr. CHEESECAKE with Box 』4,320円(税込)

ECサイトで「なかなか買えない」と人気が止まらないチーズケーキがある。幅約17cm、480g、3456円(with Cooler Bag)と4320円(with Box)の冷凍タイプで、そのままアイスのように食べられたり、半解凍で、全解凍で……と自分の好みに合わせて食感を楽しまれているのが『Mr. CHEESECAKE(ミスターチーズケーキ。以下、ミスチ)』だ。

2018年に登場をして、コロナ禍にも全く影響を受けることなく業績を伸ばし続けている。これは偶然なのか? それとも戦略的に行われているものなのか? 代表の田村浩二さんに話を聞くことにした。

「“おいしいもの作り”のスタンスは通販でも変わりません」

田村さんは元々、フレンチレストランのシェフとして働いていた。パティシエに憧れる気持ちはあったけれど、フレンチの方が料理もスイーツも勉強することができる。そんなきっかけで渡仏をして修業を重ねた経験も。

と、ここまでの経歴を聞くと今までどこかの媒体で聞いたことがあるようなよくある話。でも彼が違っていたのは、レストランという器を超えて見据えていた未来への視線だ。

「Mr. CHEESECAKE」代表の田村浩二さん(撮影:松本時代)

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――レストランのシェフ、と聞くと三つ星ミシュランや各賞を受賞して、店を繁盛させていくというイメージがあります。田村さんはいくつも賞を取られていて、トップの立場にいらしたわけですよね?

僕もシェフをしていた頃は「賞を受賞したらもっとたくさんのお客様が来てくれて“おいしい!”という気持ちを共有できる」。そう理想を持っていたんですけど、実際にレストランにいらっしゃるのは同業の方たちや、フーディーばかりで……なんかね、わかっちゃうんですよ。肉の焼き加減を見ていたり、ソースを敢えて舐めていたり。ダイニングの雰囲気が違うなって感じてしまうし、偵察なんだなって。そこから料理を何か別の形で展開できないかと考え始めました。

――そこでチーズケーキへ作り手としての方向性を変えたということですか?

よりおいしく作れるものはなんだろうと考えたら、好きだったチーズケーキが浮かんできました。もともとお菓子作りは好きだっだし、僕が10数年シェフとして重ねてきた技術をケーキに投下したらどうなるのかと。それで2018年4月5日に初めて、個人アカウントのインスタのストーリーにチーズケーキをアップしたんです。まだ細かな計画はなかったんですけど、ハッシュタグに『#Mr. CHEESECAKE』と付けて。

――最初から通販だったのでしょうか?

いえ、最初はレストランのお客さんに手渡ししていました。今でいうインフルエンサーの方がブログにアップをしてくれて、だんだん人気が高まってきて。それから一ヵ月後には「買えない」という状態に。通販で送っていたんですけど、シェフも継続していましたし、なかなか時間がなくて16本くらいしか作れない。

――でも話題性だけはどんどん高まって、インフルエンサーたちが続々とアップして、需要と供給のバランスが取れない状況ですよね。

そうです。もちろん供給量を増やしていこうと努力はしていて、いま数十人のスタッフがチーズケーキを作っています。でもなかなか追いつかず、3年前から「買えない」状況は続いていますね。

この状況は狙っていたものではないです。むしろこのユーザーをあおるような品薄状態を続けていると、一過性のブームになってしまう。ここからどう卒業しようか、日々考えているところです。「美味しいから買いたい」「好きだから買いたい」というチーズケーキに成長せねば、と。それから、今までSNSで発信してくれた人たちのためにも、という気持ちもあります。だって写真を撮って、文章を書くってすごい熱量が必要じゃないですか。とても僕はできないなあと思いますから。

「うまくいったその先を読む」ポジティブな未来予想図

――毎週、日曜と月曜の朝10時に販売をして、5分間で完売。それだけ人を熱狂させるスイーツなのですから、何か他のチーズケーキとは一線を画すポイントがありますよね?

はい、食感と香りです。僕がどんなに頑張っても鍛錬されたパティシエの技術に勝てないし、追いつこうとしても時間がかかってしまう。何か違いはないかと模索していたところに思いついたのが、彼ら(パティシエ)は持ち帰りを想定して、美しさを計算している。でも僕がレストランのデザートとして出しているのは、すぐに食べるわけですから形状は1分間保てればいい。おいしさをひたすら追求していました。ならそれを通販、冷凍という形で生かせないかと研究をして、今のミスチの食感が出来上がりました。

――香りというと、一般的にはバニラと柑橘系の香りを想像します。

そうなんです、そこにオリジナルで『トンカ豆』を加えました。それが実は桜餅の塩漬けした葉っぱと同じ香りなんです。だからどこか懐かしさを感じることができる。その香りのおかげでケーキに使用する砂糖量を減らしても、甘さの感じ方は変わらないんですね。砂糖の量が増えるとどうしても食感がベタついてしまうから。

――普通のお菓子屋さんではない、と。

素材に対する料理人の目利き、みたいなものがあります。本来ならスイーツに使用する材料だけを考えるんでしょうけど、僕にとっては“作る”という意味だけを考えると、肉も魚も野菜も全部材料でスタートなんですよ。あとは僕が考えるのが好きというのもあって、香りに関しても調香師さんのテキストを取り寄せて考えたりしています。

――考えることがものすごくお好きなんだなっていうのは伝わります。

でもここまでの約3年間は考えていた部分よりも「ラッキー!」という状態がほとんどです。

――リスクヘッジは想定していらっしゃるんですか?

僕はずっと「うまくいったらこうしよう」という想像だけしてきました。うまくいかなかったらその時に考えればいいやって。うまくいった時のことを想像していないと、さらにそこから成長をしないんですよ。急に味を変えなくちゃいけないとか、慌ててしまうから。

――田村さんが考えていたのは、おいしさを担保することですよね。

ミスチ1本でやっていこうと決めて動き出した時には、僕がキッチンに立たない状況を想定して、他のスタッフが作っても変わらないようにチーズケーキのレシピを改良してあります。うちのチーズケーキ、計量をしなくてもいいように例えばグラニュー糖なら1キロの袋を開けるだけ、にしたり。メレンゲや生クリームの泡立てもなくていいように、初期設定済み。そうすることで味はブレないまま、事業は少しずつ大きくなっている。大事なのは想定した状況に到達したその先、なんです。

――シェフとしてキッチンから、通販サイトへ舞台は変わったけれどマインドは変わらないとお見受けします。

以前、購入してもらったお客様からハガキ一枚分、びっしりと感想とお礼が書かれたお手紙をもらったことがあって。お客様との距離はレストラン勤務時代よりもずっと縮まっている。でもレストランの良さもあるんです。例えば、料理をテーブルまで運んだらどこがポイントなのかを話すことができたり。

――その雰囲気を取り入れたのが、配信URLから聞いてもらう『stand.fm』の音声接客サービスですか?

僕がチーズケーキをどんな風に思っているから事前収録したものを、URLで聞いてもらうんです。食べる前に聞いてもらうとレストランのような非日常感を自宅で味わうことができるシステムなんです。

――これからも新しい企画を考えられていると思うのですが、現時点で何か考えられていることがあれば教えてください。

『Mr. CHEESECAKE』を世界に展開していきたい。それが当面の目標です。そのためにはチーズケーキに興味を持ってくれた人が買えるようなシステムを構築することからですね。

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今まで仕事や私生活で、飲食に関わる人にたくさん会ってきたけれど田村さんほど“考える職人”はいなかったかもしれない。ただどんなに話をしても、最終的にはおいしいものを作ることへ彼の考えは帰結する。

「今はチーズケーキを売っているけれど、年老いたら田舎でオーベルジュを経営して、料理を作りたい。今はその時に自分で資金を用意できる準備期間です」

何も前衛的なことばかりをしているわけではない。ブレない部分が確実にあるからこそ、私たちはあの素朴な甘さが恋しくなってしまうのである。

田村浩二(たむら・こうじ)
神奈川県三浦市生まれ。新宿調理師専門学校を卒業後、乃木坂「Restaurant FEU(レストラン フウ)」にてキャリアをスタートして、渡仏。World’s 50 Best Restaurants 2019 の1位を獲得したミシュラン三ツ星のフランス南部マントンなどで修業を重ね、2016年に日本へ帰国。2017年には、世界最短でミシュランの星を獲得した「TIRPSE (ティルプス)」のシェフに弱冠31歳で就任。「ゴーエミヨジャポン2018期待の若手シェフ賞」を受賞。 現在はMr. CHEESECAKEのほか、複数の事業を手掛ける事業家として活動。

こちらは『 Mr. CHEESECAKE with Cooler Bag 』3,456円(税込)
  • 取材・文小林久乃

    エッセイスト、ライター、編集者、クリエイティブディレクター、撮影コーディネーターなど。エンタメやカルチャー分野に強く、ウエブや雑誌媒体にて連載記事を多数持つ。企画、編集、執筆を手がけた単行本は100冊を超え、中には15万部を超えるベストセラーも。静岡県浜松市出身、正々堂々の独身。女性の意識改革をライトに提案したエッセイ『結婚してもしなくてもうるわしきかな人生』(KKベストセラーズ刊)が好評発売中。

  • 撮影松本時代(田村浩二氏)

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