正恩夫人は紫スーツ、妹はミニ…北朝鮮「ファッション激変の狙い」
落ち着いた紫のスーツに、胸にはシルバーの飾り。左腕には、黒い革のベルトの小さな時計をはめている。2月16日の金正日氏生誕記念日で、1年ぶりに公の場に姿を現した金正恩夫人・李雪主氏のファッションだ。
韓国の政府系シンクタンク「統一研究所」では、北朝鮮の高官女性のファッションや髪型を研究している。同研究所の報告書は、李氏は12年に登場して以来、北朝鮮の人々のファッション感に衝撃を与えたと紹介。それまでの常識では、考えられないモダンさだというのだ。『デイリーNKジャパン』編集長・高英起氏が解説する。
「革命的ですよ。北朝鮮の女性といえば、民族衣装であるチマチョゴリを着るのが一般でした。李氏は公の場に華やかなワンピースにイヤリングやブローチをつけ、ティファニーのネックレスをかけ現れたんです。今はロングヘアですが、ショートカットにしていたこともあります。北朝鮮では、長い髪が女性の美徳とされてきた。旧来の価値観からすれば、ありえないことです。
李氏はセンスも良い。スカートの丈は膝上と決して派手ではありませんが、節度を守っています。金正恩氏に同行し外交の場にも姿を出し、外国の評判も上々です。イギリスの故・ダイアナ妃のように、北朝鮮のファッションリーダーを自認しているように思います」
韓国で起きた一大フィーバー

もう一人、注目の女性高官がいる。ここ数年、表舞台に立つようになった正恩氏の妹・金与正氏だ。文在寅大統領との南北会談や、トランプ前米国大統領との交渉では、ミニスカート姿で現れたこともある。高氏が続ける。
「着ているスーツの色は黒やグレーなど地味ですね。兄を政治的にサポートする役割を、わきまえているのでしょう。
外交は、国と国が利害を主張する駆け引きの場でもあります。北朝鮮では制服を着た軍人が出てくればケンカ腰。融和を求める時には、女性を起用するなどケースによって対応を変えているんです。与正氏のファッションは、政治的意味合いが強いように感じます」
北朝鮮は、外国にたびたび女性を派遣してきた。18年2月に行われた平昌五輪へ美女応援団が訪韓し、韓国で一大フィーバーが起きたのは記憶に新しい。華やかのファッションの音楽ユニット「牡丹峰(モランボン)楽団」も、よく映像を通じて海外に紹介されている。北朝鮮のイメージ戦略の一環と言えるだろう。
「平壌市民の服装を見ても、この2〜3年で劇的に華やかになりました。当局にバレないように韓国のファッション誌を見て、中国から良質な生地を手に入れ、洗練されたファッションに身を包む人たちがいる。『金主(トンジュ)』と呼ばれる新興富裕層です。
美と健康、特に女性のファッションへのこだわり具合は、その国の経済発展の指針になっていると思います。北朝鮮の幹部や平壌の富裕層のセンスは、日本人が考えている以上に進んでいるんです。
しかし、それはあくまで都市に住むカネ持ちに限られます。北朝鮮に住む大半の人たちは、40年前と変わらない生活を強いられているのが実情です」(高氏)
北朝鮮の高官女性たちのファッションは、確かに洗練されつつある。裏には彼女たちなりの、深い意味合いがあるようだ。
写真:ロイター/アフロ KNS/KCNA/AFP/アフロ