『朝顔』『その女、ジルバ』ドラマは3.11とどう向き合ったか | FRIDAYデジタル

『朝顔』『その女、ジルバ』ドラマは3.11とどう向き合ったか

東日本大震災から10年、ドラマはこの災厄をどう描いたのか?

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『その女、ジルバ』に主演する池脇千鶴
『その女、ジルバ』に主演する池脇千鶴

3月11日(木)に東日本大震災の発生から10年が経過しようとしている。多数の媒体が、それぞれの形で取り上げている最中、現在放送中の連続ドラマでも放送内容に盛り込まれているものがある。それが『監察医 朝顔(以下、朝顔略)』(フジテレビ系)と『その女、ジルバ』(東海テレビ、フジテレビ系)だ。

連続ドラマで触れる“あの日のこと”。ひょっとしたら特別報道番組よりも、良い意味での親近感があって、伝わるものがあるかもしれない。そこで上記の2作品がどんな形で震災と向き合っているのか? を振り返ってみることにした。

突然母を亡くした喪失感と向き合おうとする娘

『朝顔』は最近の連続ドラマとしては、珍しく2クールをまたいで放送を続けている。放送回数が第17回を超えている……と言ったら、そのスケールを理解してもらえるだろうか。この作品が初回放送時から取り上げているのが、東日本大震災で失ってしまった、主人公の万木朝顔(上野樹里)の母・里子(石田ひかり)のこと。

ほんの一瞬、母と離れた隙に襲ってきた津波。最後の母の様子を忘れられず、受け止めきれずにいる娘。

里子の夫・平(時任三郎)は責任を感じて、東京から被災地で遺体を探していた。ただ10年間の時間の流れは大きく、病気に見舞われて捜索が不可能に。里子の父にあたる嶋田浩之(柄本明)は危篤状態を迎えている。意識をもうろうとさせている第16話の放送でも、里子のことを話していた。途中、里子のものと思われる歯が見つかったものの、検査の結果は他人のDNAが検出されてしまう。わずかな手がかりはあの日、里子が身につけていた手袋だけ。

時間が経過しても超えることのできない肉親との“別れ”。おそらく緻密な取材のもとにドラマは作られていると想定すると、これは架空の家族の話ではなくて、現実。まだ認めることのできない死に真っ向から向き合っているのが『朝顔』だ。

初回放送時以降、実は「震災のこと?」と疑問が湧くばかりで感じるものがなかった。それが2シーズン、2クールを超えていくと事の重みを感じないわけがない。ドラマのことを考えているのに『朝顔』の震災テーマに関してはどうしても真面目な文章になってしまうが、それほど家族の機微が描かれているのだと思って欲しい。

被災によって生まれた、姉弟の隔たり。そして再起

今、世の独身女性たちの人気をかっさらっているドラマといえば『その女、ジルバ』。仕事も私生活もパッとしなかった40歳の笛吹新(池脇千鶴)が、『OLD JACK&ROSE』と出会い、ホステスに。新しい自分を開拓していく物語だ。

そんな主役の出身地は福島県会津若松市。第一話の放送は、故郷に帰るシーンからスタート。何か震災とドラマの繋がりを感じさせていたことを記憶している。

震災の大きく受けた地域で、実弟の光(金井浩人)は津波で家を流されて被災してしまう。苦しむ弟の力になりたいと

「姉ちゃんに何かできることない? 姉ちゃんだって少しは蓄えあるんだよ」

と聞く新。ただ弟からは

「ほっといてくれ!(中略)東京さ住んでる姉ちゃんには俺たちの本当の辛さなんか、わかんねえべ!!」

そう怒鳴られてしまう。大切な故郷だからこそ心配して、力になろうとする気持ちはある。でも当事者ではないという距離の問題が、家族との溝を生む。被災地出身者には経験がある方もいるのではないだろうか。そして光は被災から立ち上がり、地元にカフェを開店させる。そんな様子にも影響を受けつつ、新も会社員を辞めてバーだけで働くことを決意した。なんの取り柄もなかった女性がひとつ、進んだのだ。そういう“踏み出すこと”もこのドラマが表現したかったことなのだろうと思う。

上記のシーンには個人的に共感するものがあった。10年前のあの日、東京も東北ほどではないものの被災地となった。私は震災発生から一週間後、予定していた取材のために名古屋へ向かった。その時、地元の人から

「(東日本大震災が)何か実感ないんですよね」

と言われたことにショックを受けた。東京都内は余震、原発、買い占め……とずっと不安な日々を過ごしているのに、少し離れた土地では全く受け止め方が違っていたとは思わなかったのだ。自分の故郷、静岡県でも同じような状況だったので、地元では震災のことを口にするのはやめてしまった。新とは状況が逆ではあるけれど、有事には地域差があると実感させられた。

震災時、キーワードとなった言葉に“絆”がある。先の見えない状況下だからこそ、人の繋がりが改めて見直されていた。2作品とも震災というフィルターを通して訴えてくるひとつの要素は、“絆”だ。色々な角度から見たあの日は、最終回までに何を教えてくれるのだろうか?

  • 小林久乃

    エッセイスト、ライター、編集者、クリエイティブディレクター、撮影コーディネーターなど。エンタメやカルチャー分野に強く、ウエブや雑誌媒体にて連載記事を多数持つ。企画、編集、執筆を手がけた単行本は100冊を超え、中には15万部を超えるベストセラーも。静岡県浜松市出身、正々堂々の独身。女性の意識改革をライトに提案したエッセイ『結婚してもしなくてもうるわしきかな人生』(KKベストセラーズ刊)が好評発売中。

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