『朝顔』『俺の家の話』老いがドラマのテーマになる時代に思うこと | FRIDAYデジタル

『朝顔』『俺の家の話』老いがドラマのテーマになる時代に思うこと

  • Facebook シェアボタン
  • X(旧Twitter) シェアボタン
  • LINE シェアボタン
  • はてなブックマーク シェアボタン
ドラマ『俺の家の話』では、脳梗塞で倒れ要介護認定を受けている観山寿三郎を演じる西田敏行
ドラマ『俺の家の話』では、脳梗塞で倒れ要介護認定を受けている観山寿三郎を演じる西田敏行

総務省の統計によると、65歳以上の高齢者人口は3,616万人を超えたらしい。日本の人口の約1億2,575万人のうち、約30%近くを占めている。これから老人はますます増加をして、私たちは“肉親の老い”に向き合う事になることは間違いない。

この事実、当たり前のようにテレビドラマでも扱われるようになっていたことにお気づきだろうか?

早すぎた“アルツハイマー型認知症”に戸惑う一家

現在放送中のドラマで、高齢者問題を扱っているのは2作ある。まずは『監察医 朝顔(以下、朝顔略)』(フジテレビ系)だ。主人公の万木朝顔(上野樹里)の父・平(時任三郎)は、長年の刑事生活を終えて東日本大震災で失った妻の手がかりを探すために東北へ移住する。ところが物忘れの異変に気づく、平。最初はその事実を認めることができなかったけれど、朝顔に促されて病院へ検査に向かい『アルツハイマー型認知症』と診断される。

年齢設定は公表されていないけれど、おそらく60代の平。早すぎる認知症に一番ショックを受けているのは、本人だ。鍵、カレーのレシピ、人の名前。些細なことが思い出せなくなっていて、その度に平は惨めな思いをしているように映ってしまって、見ているのは辛い。

『朝顔』が取り上げているのは、早すぎた老いだ。本来であれば、先述した人口の統計から考えると、60代はまだまだ“若い”と呼ばれる年代に当たる。妻の亡骸も探したかっただろうし、孫の世話も存分にしたかったはず。何より、家族に迷惑をかけたくなかったプライドもあっただろうに。

と、ここで終わってしまうと異常に暗いドラマになってしまうのだけど、平は一歩進んだ。少しずつ自分の老いを受け入れて、以前の職場である警察から依頼された過去の捜査にも協力をしている。他人に自分の病気を明かさなくてはならないのだから、断る選択肢もあったけれど、病気のことも素直に話していた。思い通りにならない自分に苛立ち、何度か声を荒げてしまった娘にも忘れてしまったことを、何度も繰り返し聞けるようになった。つまり“隠さない”ことで、前進している様子を表している。「いつか娘のことを忘れてしまうのが怖い」という平の気持ちを、家族がどう認めていくのかが最終回に向けて、ひとつの見どころだ。

それにしても朝顔は妊婦なのに祖父は亡くなり、母の遺骨は見つかり、自宅に戻ると認知症の父がいて……と、大変なことが続いている。これに加えて仕事と育児もあるのだから、疲労で倒れてしまうのではないかとハラハラしている。そこはきっと妻ファーストの桑原くん(風間俊介)がサポートしてくれるだろうと期待。

“死”への恐怖に、思うようにならない体への苛立ち

もう1作は介護を取り上げていると初回放送から話題の『俺の家の話』(TBS系)。実家から遠ざかっていた元プロレスラーの観山寿一(長瀬智也)が、突然倒れて、要介護認定を受けた父・寿三郎(西田敏行)の世話をすることを選ぶ。能楽師・人間国宝の跡継ぎになることをはじめとして、なんとか父の願いを叶えてやろうとする姿がグッとくる。

寿一を中心に濃厚キャタクラーたちの、いくつもの物語が錯綜する『俺の家の話』。その主軸に“介護”があるのだ。

72歳という年齢を考えると、寿三郎は老いることよりも“死”の受け入れに戸惑う。認知症は大幅には進んでおらず、体は思うように動かなくても、脳は平常通りに動いてしまうというアンバランスに悩む。

「自分で広げた風呂敷の畳み方が、分かんなくなっちゃった。要するに、死にたくないんでしょうね……」

「もう最後なんだぞ!」

こんなふうに老人の本音がポロポロと漏れている。この作品は面白さが先行しているけれど、お父さんの気持ちを深堀りすると悔しさが伝わってくるようでならない。

ただ紹介した2作を見て、重たい気持ちになってほしいと思ってこのコラムを書いたわけではない。むしろ家族で視聴をして、これから必ず訪れる家族の老いについて、話すきっかけを作ってほしいと思う。老人介護の問題は事件が明るみになってから、家族は動き出す。これでは遅い。

私も祖父母を亡くしたときに、知らなかった事実や、回らなくなってしまう家事に揉める親族の様子をずっと見てきた。残った財産はどうするつもりなのか、家は残すのか、両親の本音はどうなのか。つい日本の性教育のように、直球トークを避けて、ふんわりとオブラートに包む傾向のある介護問題。寿命が人生100年時代を迎えた令和三年の今、ドラマからライトに学べることがあるはずだ。

そして“老い”は今後、テレビドラマにどう絡んでいくのだろうか。

  • 小林久乃

    エッセイスト、ライター、編集者、クリエイティブディレクター、撮影コーディネーターなど。エンタメやカルチャー分野に強く、ウエブや雑誌媒体にて連載記事を多数持つ。企画、編集、執筆を手がけた単行本は100冊を超え、中には15万部を超えるベストセラーも。静岡県浜松市出身、正々堂々の独身。女性の意識改革をライトに提案したエッセイ『結婚してもしなくてもうるわしきかな人生』(KKベストセラーズ刊)が好評発売中。

  • 写真Rodrigo Reyes Marin/アフロ

FRIDAYの最新情報をGET!

Photo Selection

あなたへのおすすめ記事を写真から

関連記事