鈴木武蔵「いじめられっ子だった僕をサッカーが救ってくれた」 | FRIDAYデジタル

鈴木武蔵「いじめられっ子だった僕をサッカーが救ってくれた」

ベルギー・KベールスホットVA 天然パーマ、肌の色の違いに悩んでいた〝ジャマイカ生まれのサムライ〟が日本代表FWに選ばれるまで

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50m5秒台という俊足に、185㎝という恵まれた体軀。漆黒の肌――。ジャマイカ生まれのストライカー鈴木武蔵(27)をご存じだろうか。’20年8月にJ1『コンサドーレ札幌』からベルギー1部『KベールスホットVA』へ移籍し、不動のレギュラーとして6ゴールを挙げるなど躍動。得点力不足に悩むサッカー日本代表に現れた注目のフォワードである。

代表には人一倍の情熱を燃やす。6月に延期されたW杯予選へ向け、現在は所属チームでの結果に集中している
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一見、怖そうに見えるが、話をすると物腰は柔らかい。優しい声のトーンに驚く人も多いかもしれない。そのギャップは彼の凄絶な人生が影響していた。

「『ムサシ』という名前は母親が『宮本武蔵のようにたくましくなってほしい』とつけてくれました。6歳までジャマイカで育ち、’00年2月に移住。正式に『武蔵』となりましたが、周囲は名前が漢字になったからといって日本人として受け入れてくれたわけではありませんでした。実際に、群馬・太田市の小学校に入学して以来、街の人や同級生からは常に異物を見るような目線を向けられました」

〝フライパン〟〝ハンバーグ〟――。小学校3年生のとき、心ない言葉をクラスメイトから浴びせられた。所属していたサッカー少年団でも「汚いからパス出すな」「なんでこんなヤツがいるんだ」といじめを受けた。どんどん居場所がなくなっていくのがわかったという。

「鏡に映る自分を見るのが嫌だったし、『なんで自分だけ肌の色が違うの?』といつも悩んでいました。『白くなりたい』『周りと同じ色になりたい』と思っていて、おばあちゃんの化粧台の引き出しにあったシッカロール(ベビーパウダー)を全身に塗りたくって、肌を白くしようともしました。でも、シャワーを浴びればみるみるうちに元の色に戻ってしまう。それが本当に悲しかった。何度もやればいずれは白くなるんじゃないかと思ったけど、結局は変わらなかった」

肌の色はどうあがいても変わらない。それがわかると今度は、自分の心に蓋(ふた)をした。

「何を言われても明るく振る舞い、優等生になれば、誰も僕の悪口を言わなくなる。自分の感情は消して、周囲と調和するしか道はないと思い、『明るくて良い子』を演じるようになりました。中学の時には学級委員長に立候補するなど、周りと軋轢(あつれき)を生まないようにすることばかり考えていました」

常に「自分はいったい、何人(なにじん)なんだろう?」というコンプレックスを抱いてきた。今年3月に発売された自伝『ムサシと武蔵』(徳間書店)で告白しているように偏見や葛藤から自分を救ってくれた存在はサッカーだった。

〈サッカーの試合のときだけは、僕の肌の色は関係なくなる。学校生活でうまくいかないことがあっても、走ったり、ボールを追いかけたりしているときだけは、そんなことを忘れて夢中になれる〉

代表戦士としての夢

アイデンティティに苦しみながら、サッカーに自分の居場所を見出しつつあった武蔵。人生の転機となったのが、高校2年生で初選出されたU-16日本代表だった。

「忘れもしない’10年7月17日。新潟で行われた国際ユース大会のスロバキア戦で、初めてブルーの代表ユニフォームに袖(そで)を通しました。その瞬間、僕の中で『日本人として、日本代表としてプレーするんだな』という感情が湧き上がってきた。同時に心の底から『日本人だ』と自分を信じられていなかったことに気づけた。

試合は前半13分、ドリブルシュートを決めることができました。その瞬間にチームメイトが駆け寄ってきてくれて。『肌の色が白くならなくても、日本代表の青いユニフォームを着ることはできる。僕は日本人になれたんだ』と思えた。嬉しかったですね」

それ以降、彼にとって日本代表は自分が「日本人であることを確認できる特別な場所」になったという。アンダー代表でチームメイトだった南野拓実(26)、中島翔哉(26)、室屋成(むろやせい)(26)、植田直通(なおみち)(26)らはフル代表になった現在でも、大切な仲間として切磋琢磨を続けている。

「自分が日本人であることを誇れる大切な場所――日本代表で活躍するため、世界最高峰のプレミアリーグ『リヴァプール』に加入したミッドフィルダーの(南野)拓実の背中は追い続けています。同じフォワードでは、ドイツで活躍する大迫勇也(30)を意識しています。彼は絶対に超えたい。そのためにはやっぱり、ヨーロッパの舞台でゴールという結果を出すこと。今の成績には満足していません。もっとやれるという確信があるので、見ていてください」

大きな野望を持って日本を飛び出した心優しきサムライ・鈴木武蔵。最後に〝日本〟代表での夢について聞いた。

「’22年に開催されるカタールW杯に出場し、ゴールを決めることです。そのために自分の得意とする裏への抜け出しや、動きの中でのプレーをもっと磨いていけたらと思っています」

日本人としての誇りを胸に、これからも走り続ける。

’19年3月に代表初選出。同年12月の中国戦で初得点。ドリブルもポストプレーもこなす万能型として期待される 写真:アフロ
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半年以上が経ち、ベルギーでの生活にも慣れた。1月には夫人と3人の子も移住。5人で生活する
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『FRIDAY』2021年3月19日号より

  • 取材・文安藤隆人

    ノンフィクションライター

  • PHOTOLucas Marinus(1枚目)、アフロ(2枚目)

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