「胃薬を飲んでがん」ステージ4の患者が決意の実名告白

身近な薬の恐ろしい副作用 「胸やけ」で処方された薬を飲み始め、4年半で食道がん、胃がんに アメリカでは回収、裁判も

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19年9月、厚労省の指示を受けて製薬メーカーは『ラニチジン』の出荷を停止。ほぼ全社が製造も中止した 写真:時事通信社

’20年6月、沢井製薬の株主総会で一人の男性が、議長を務めていた同社の澤井光郎社長(当時)にこう問いかけた。

「ジェネリック医薬品のリーディングカンパニーとして貴社は『なによりも患者さんのために』という理念を掲げているが、私は貴社の胃薬『ラニチジン』(現在は販売中止)を服用した後、がんを発症しました。社長として、どうお考えですか」

会場は水を打ったようになり、壇上に注目が集まった。だが――澤井社長は質問者を一顧だにせず、議事を進行した。

「その半年後の12月の臨時株主総会でも同じ質問をしました。社長は澤井健造氏に代わっていましたが、やはり無視されました。『ラニチジン』使用前後の胃カメラの写真などの資料、質問項目を事前に送付してあるのにもかかわらず、です」

そう憤るのは質問者の男性、神戸市在住の大草仁(おおくさめぐむ)氏(77)である。

大草氏が『ラニチジン』を飲み始めたのは’11年のこと。「胸やけ」がして、神戸市内の病院で人間ドックを受診。「逆流性食道炎」と診断されたのがキッカケだった。

同年12月、最寄りのクリニックで沢井製薬の『ラニチジン』を処方された。『ラニチジン』は30年以上も前から処方されている胃薬『ザンタック』の後発薬(ジェネリック薬)であり、国内では10社が製造していたのでとくに何の疑問も抱かずに毎日、飲み続けた。

ところが、なかなか「逆流性食道炎」は改善せず、飲み始めて4年半が経過した’16年5月、真っ黒な便が出た。下された診断は「食道がん」だった。

写真を見てほしい。1枚目は’14年に内視鏡で撮影された大草氏の食道。2枚目はその2年後の写真である。

「逆流性食道炎がまるで溶岩のような形をした下部食道がんに変異していました。主治医も原因がわからず困惑するばかり。その後、胃への転移も認められ、ステージ4で手術不能と診断されました」

失意のどん底で抗がん剤治療を始めた大草氏の目に、衝撃のニュースが飛び込んできたのは’19年秋のこと。

「『胃潰瘍(かいよう)治療薬(ラニチジン塩酸塩)に発がん性物質? 業者が自主回収』という新聞記事を読んでショックを受けると同時に『もしや、私は……』と長年の疑問の答えが示された気がしました。これまでの治療経緯を振り返り、胃カメラの写真や診断書などの資料をひっくり返して検証し、『ラニチジン』を4年半も服用した結果、がんを発症したのではないか、と考えるに至りました」

「一応報告対象扱いになる」

大草氏は沢井製薬と厚生労働省に治療経過や胃カメラの写真などの資料を送付し、両者に見解を問うた。

「沢井製薬は私のケースを当局――厚労省に報告していましたが、『(がん発症との)関連性が0%と言い切れず、しかし何%かは誰にもわからないし、100%でもない。だから一応報告対象扱いになるというロジックによるものです』と非常に否定的でした。

同社が調査した結果、沢井製薬の『ラニチジン』に含まれていたNDMA(発がん性物質)は国際管理基準を下回っていたそうで、『服用された患者さんにがんが発現する割合は、服用されていない患者さんにがんが発現する割合と差はない』と結論付けていました」

沢井製薬は本誌の取材にも、過去3年間の全ロットを分析した結果、NDMAの平均含有量は管理基準を下回っていたとして、「本剤の服用によりがんを発症する可能性は極めて考え難いというのが当社の見解です」と回答している。

だが、そう断言できるだろうか。

『ラニチジン』を含むすべての処方薬、市販薬を直ちに回収するよう命じたアメリカ食品医薬品局(FDA)によれば、NDMAは時間の経過とともに増加するといい、「室温より高温で保管すると増加が加速して、許容量を超える恐れがある」と警告している。

大草氏は沢井製薬の見解に疑問を持ち、厚生労働省に抗議をしたという。

「医薬安全対策課の担当者は『ラニチジンを飲んでも飲まなくても発がん率は変わらない――という検証はできていません。沢井製薬の発言は行き過ぎているので注意します』と私に言いました。

その後、厚労省内で私のケースが審議され、医薬安全対策課の昨年7月の報告書には『’20年6月末時点で、因果関係は明確ではないが、がんに関連する国内副作用症例報告がラニチジン製剤で報告されている』との一文が掲載されています。厚労省も無視できなかったのでしょう」

昨年6月、カリフォルニア州で膀胱がん、腎臓がん、前立腺がんなどの患者40人が「ザンタック(ラニチジンの先発薬)によって誘発された」と集団訴訟を起こした。同様の裁判が全米各地で100件以上、提起されている。大草氏が語気を強める。

「今年も6月に沢井製薬の株主総会があるはずです。元気だったら出席し、再度、社長に問いかけたいと思います。長い道のりかもしれませんが、製薬会社と厚労省が、大掛かりな追跡調査を始める日が来ると信じています。薬害によるがん患者がいないか、掘り起こさねばならない。死人に口なしですましてはいけない」

服用開始から約2年半後の食道(’14年7月)

服用開始から約2年半後の食道

内視鏡で撮影。逆流性食道炎は改善しておらず、医師は『ラニチジン』を飲み続けるよう大草氏に指示。

服薬開始から約4年半後の食道(’16年5月)

服薬開始から約4年半後の食道

食道・胃粘膜接合部に進行型の食道がんが発症。除去できないほど深く、一部が壊死して出血していた。

「FRIDAY」2021年3月19日号より

  • 取材・文吉澤恵理

    薬剤師・医療ジャーナリスト

  • 写真時事通信社(1枚目)

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