なぜクドカン脚本作品には「めんどくさい女」が次々出てくるのか | FRIDAYデジタル

なぜクドカン脚本作品には「めんどくさい女」が次々出てくるのか

男は何かと手のかかる女性が好きなのか?

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宮藤官九郎脚本の『俺の家の話』でヘルパー・志田さくらを演じる戸田恵梨香
宮藤官九郎脚本の『俺の家の話』でヘルパー・志田さくらを演じる戸田恵梨香

ドラマ『俺の家の話』(TBS系)が絶好調に面白い。介護問題を含んだファミリードラマ、ラブストーリー、男同士の友情の話……と、一作品の中にいろいろな要素が含まれている。どこを切り取っても面白いので、毎週金曜夜はもう笑うしかない。

その面白さの要素に、戸田恵梨香演じる志田さくらという登場人物がいる。この女、とても“めんどくさい”。でも見ているとクセになるし、なんだか目を離すことができないし、いないと寂しい。思い返すと宮藤官九郎(以下、クドカン略)の創り上げる脚本には、たびたび“めんどくさい女”が登場してくることを思い出しだ。

血縁であろうと関係なし!男を次々に惑わす、困らす

『俺の家の話』は能楽の人間国宝である観山家の主人、寿三郎(西田敏行)が介護を必要とする体になったことから物語が始まった。長男の寿一(長瀬智也)をはじめ、家族全員それぞれの思いを抱えて動き出している。

ここに急遽、現れたのがさくらだ。初めは介護ヘルパーと自らを紹介して、観山家に出入りしたと思ったら、いつの間にか寿三郎の婚約者に……。その瞬間、子供たちは遺産狙いだとさくらを牽制するようになる。ここまでは2時間サスペンスドラマで聞くような話だろう。でもこの婚約は寿三郎によるフェイクのようなものだった。結婚にさほど本気な様子は見られない。でも肉親には吐露できない悩みを話せる、大事な相手。ここで終わればいいのに、さくらは余分な感情を勃発させる。

まずは彼女、キャラが全く安定していない。基本的には“小悪魔”という表現が最適だと思うけれど、当初は

「介護にまさかはないんです!」
「常に最新の注意で臨んでも、予期せぬことが起きるんです。介護をなめないでください」

と、ヘルパーとしてのプライドを一家に見せていた。

それが一転、長男の寿一が好きだと告白。父親からも次男の踊介(永山絢斗)からもラブコールされておきながら、敢えてまた家族に恋する場当たり的なところが、めんどくさい。最近では何かと言えば寿一の周囲に現れて、家族旅行先にも突然姿を見せて「抱いて」とおねだり。ちなみにこの“抱く”とは山賊抱っこの意味だ。もちろん、と言っていいほど寿一の心は揺れている。

たださくらがいることによって、他の登場人物の動きが非常に良くなっている。彼女がまるでカンフル剤となって観山家の面々が茶の間に仲良く集まっているのを見ると、悪いことばかりでもないようにも思えるのだ。

昔、勤務していた出版社の上司に「本当に気をつけたほうがいい女は、キャラをいくつも持っている女よ!」と言われたことを思い出した。さくら、あんたのことだよ。

この女たち……ガチで友達になりたくない……

さくらだけではなく、クドカン氏の手がける作品には、たびたびめんどくさい女が登場する。過去作を『木更津キャッツアイ』(TBS系・2002年)のモー子あたりまで遡ると大変なことになるので、近年の登場人物を思い出してみよう。

おそらくSNSで視聴者がめんどくさい女に気づいたのが『ゆとりですがなにか』(日本テレビ系・2016年)の茜ちゃんこと宮下茜(安藤サクラ)である。頼りないけど自分のことを好きでいてくれる、まーちんこと坂間正和(岡田将生)と付き合いながら、勢いで上司とホテルに行ってしまう。

結果、一時期彼氏とは別れるものの、彼氏の友達・山路(松坂桃李)には

「別にダメなままでいいんだよ、まーちんは。(中略)
卑屈で、頭が固くて、優柔不断で自分に自信が無くて……それがまーちん!(中略)ダメなまーちんといたーい。でも、それは言えないー。つまんない女だな、私はぁ!!」

確かそんなセリフを言っていた。セリフの内容よりも、茜ちゃんの抑揚のある発声がすごく印象に残っている。周囲を巻き込んで、彼氏を振り回した挙げ句、結局は会社を辞めて結婚した茜ちゃん。物語の中ではちょっとしたトラブルメーカーのポジションだった。

このままだと茜ちゃんはただのうざったい女で終わるけれど、この作品では女性視聴者から「わかる!」という、共感をがっちりキープしていた。そこには安藤サクラというキャスティングが作用している。最初は「は? 岡田将生の彼女がなんで?」と疑問だったものが、女としてのわがままさをモロ出しにしていく様子は、やはり安藤でなければ成立しなかった。あれが佐々木希だったら、説得力はなかったはずだ。

翌年放送の『監獄のお姫さま』(TBS系)は主演の小泉今日子をはじめ、めんどくさいキャラ総決算のような作品。刑務所で出会ったキャラの強い、6人の面々。経済アナリスト、元主婦、暴力団員の妻、薬物中毒の美容師……毎週、めんどいキャラ頂上決戦が繰り広げられていたようなドラマだった。

他のクドカン作品を思い返しても、彼の作品の特徴とも言えるようにめんどくさい女は必ずいる。おそらく彼はそういう女性がタイプなのではないかと思うほど、めんどいキャラを外さない。でもよく考えたら、彼だけではなくこの世の男性は、手がかかる女性を好む。何でもかんでも自分でテキパキできる女性よりも、どうしても目が離せなくなってしまう存在のほうを選ぶ傾向は強い。

さくらのように上記に挙げた登場人物のように“めんどくささ”を追求する。もしかしたら、これがいい男を摑めるカギなのかもしれない。

ただ自分の女友達にしたくないことも忘れてはいけない事実だ。

  • 小林久乃

    エッセイスト、ライター、編集者、クリエイティブディレクター、撮影コーディネーターなど。エンタメやカルチャー分野に強く、ウエブや雑誌媒体にて連載記事を多数持つ。企画、編集、執筆を手がけた単行本は100冊を超え、中には15万部を超えるベストセラーも。静岡県浜松市出身、正々堂々の独身。女性の意識改革をライトに提案したエッセイ『結婚してもしなくてもうるわしきかな人生』(KKベストセラーズ刊)が好評発売中。

  • 写真西村尚己/アフロ

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