韓国の樹木希林?話題の映画『ミナリ』は破天荒な祖母役に注目 | FRIDAYデジタル

韓国の樹木希林?話題の映画『ミナリ』は破天荒な祖母役に注目

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『ムーンライト』などでオスカー常連となったA24と、ブラッド・ピット率いる製作会社プランBがタッグを組んだ作品 (C) 2020 A24 DISTRIBUTION, LLC All Rights Reserved.

韓国映画『パラサイト 半地下の家族』が米国アカデミー賞を席巻してから早1年。今年のアカデミー賞でも“韓国人一家”を描いた米映画が注目されている。

映画のタイトルは『ミナリ』。日本語で野菜のセリ(芹)を意味する。

アメリカの映画会社によって制作されたが、セリフの大半が韓国語であることから、アカデミー賞の前哨戦といわれるゴールデングローブ賞では外国語映画賞を受賞。世界の映画祭で77冠目(!)となった。4月のアカデミー賞に向けても期待が高まっている。

日本では3月19日(金)よりTOHOシネマズシャンテほか全国ロードショー

演出と脚本を手掛けたのは韓国系アメリカ人のリー・アイザック・チョン監督。ハリウッドの実写版『君の名は。』を手掛けることでも知られている。

『ミナリ』は韓国映画ではないが、主要キャストは韓国でおなじみの俳優陣。韓国では自国の映画のように受け止められ、“第2の『パラサイト』”といった声も多い。

現地の韓国人女性も「再び韓国人を描いた作品が世界中から注目され、国民として嬉しい」と声を弾ませる。韓国では3月3日に公開され、3月15日時点で51万人を動員している。

アメリカンドリームを求めて移住した韓国人家族の物語

映画では1980年代、農業で成功することを夢見てアメリカの田舎町に移住してきた韓国人一家を描いている。

「ポン・ジュノ監督の『パラサイト』は衝撃的な作品でしたが、『ミナリ』はそれとはまた違った家族の物語。故郷の韓国を離れても、無理せず自分たちに合った環境を探して、謙虚に生きることの力強さを感じました」と、前出の韓国人女性は言う。

一方で「アメリカンドリームを夢見た移民家族を穏やかに表現してると思いました。ただ、『パラサイト』のような刺激がなく、韓国ではおそらく『パラサイト』を超える人気にはならないと思います。逆に西洋人が好きそうなテーマという印象を受けました」。そう率直に語る女性もーー。

『パラサイト』では職に就くことのできない一家が半地下の住宅に住んでいたが、『ミナリ』に登場する家族は、一家を支える父ジェイコブが「韓国で生きるのがつらかった」からアメリカへの移住を決めたのだ。

実際、70~80年代にかけては渡米する韓国人が少なくなかったという。韓国での生活に見切りをつけ、アメリカンドリームを夢見る韓国人の姿は珍しくなかったのだ。一家の大黒柱であるジェイコブは「毎年3万人の韓国人がアメリカに移住している」という状況に目をつけ、韓国野菜の需要を見込んだのだった。

だがアメリカでの生活も決して楽ではない。1988年のソウルオリンピックを境に、渡米する韓国人は減少していく。

異国の地で理想と現実の間で揺れる移民たち―。

映画の中でも理想を追いかける夫と、厳しい現実を直視する妻が喧嘩を繰り返す。結局、妻の母親を韓国から呼び寄せて子どもたちの世話をしてもらうことになるが、ここで“おばあちゃん”のスンジャ役として登場するのがベテラン女優のユン・ヨジョン(73)だ。

“おばあちゃん”が韓国から持ってきたものとは―

孫たちには理想の“おばあちゃん”像があった。心優しく、孫のためにクッキーを焼いてくれる。そんな“おばあちゃん”ーー。ところが、ユン・ヨジョン演じる“おばあちゃん”は破天荒で毒舌。英語が読めない上、料理もできない。得意なのは花札だけで、孫たちをドン引きさせる。

(C) 2020 A24 DISTRIBUTION, LLC All Rights Reserved.

映画『ミナリ』では、作品の力強さはもとより、破天荒な祖母を演じるユン・ヨジョンの存在感が注目されている。ロサンゼルス映画批評家協会賞の助演女優賞をはじめ、すでに数々の賞を受賞。このほど米アカデミー賞ノミネートも発表され、韓国では助演女優賞受賞への期待が高まっている。

波乱の女優人生を歩んで国民的女優に

ユン・ヨジョンといえば、そのキャリアは長く、韓国で知らない人はいない。誰もが認めるベテラン女優。日本人で例えるなら、樹木希林と森光子(ともに故人・敬称略)を足して二で割ったような存在だ。

デビューしたのは20歳の頃。美人女優というよりは、小柄な体から発するエネルギッシュな演技が独特だった。その存在感が新鮮で、映画やドラマで見る者の目を惹きつけていく。

だが10年もしないうちに歌手のチョ・ヨンナムと結婚。あっさり芸能界を引退して渡米する。『ミナリ』では夜尿症の孫に「アソコが故障したんだね」「ペニスがブロークン」と言って笑うが、アメリカで生活していた経験もあり、英語は堪能だ。

二人の息子を連れて韓国に帰国したのは、結婚してから10年後のこと。芸能界への復帰を果たし、その後、夫とは離婚した。

後にユン・ヨジョンは「生活のためにどんな役でも引き受けた」と語っている。
彼女が離婚した頃の韓国といえば、まさに激動の時代。軍事政権が終わり、民主化が実現。ソウルオリンピックも開催されたが、まだまだ女性が生きづらい社会だった。バツイチの女性への風当たりも強く、端役でも迷わず出演したという。

以来、73歳の現在にいたるまで数え切れないほどのドラマや映画に出演しているが、独特の声はコンプレックスでしかなかったようだ。かつて、美しく澄んだ声の女優がもてはやされていた時代、ユン・ヨジョンのハスキーな声は異質とされていた。それでもオファーが途切れることなく、多くの作品に出演することになったのは、個性的な演技で唯一無二の存在と認められたからだろう。

出演作は日本でもたびたび公開されている。

2月に公開された映画『藁にもすがる獣たち』では認知症の母親役を熱演。この映画ではチョン・ウソンやチョン・ドヨンといったスター俳優らと共演しているが、ユン・ヨジョンのキャリアで顕著なのは大作だけでなく、地味な低予算映画にも率先して出演している点だ。

『藁にもすがる獣たち』絶賛公開中 Copyright © 2020 MegaboxJoongAng PLUS M & B.A. ENTERTAINMENT CORPORATION, ALL RIGHTS RESERVED. ©曽根圭介/講談社

韓国の高齢化社会を描いた『バッカス・レディ』では、なんと60代の売春婦役で主演。その演技も高く評価され、モントリオール・ファンタジア国際映画祭で主演女優賞に輝いている。

バラエティー番組にも積極的に出演。民泊バラエティ「ユンステイ」で視聴者に身近な印象を与え、ますます好感度が高くなった。

「ユン・ヨジョンさんはクールな大人の女性でありながら、知恵もあり、面白い。尊敬できる女優さんというイメージで、嫌いな人はいないんじゃないでしょうか」

韓国人女性がそう言うように“愛されキャラ”であることは間違いない。

韓国の国民的女優となっただけでなく、米国の芸能誌では今年のアカデミー賞「助演女優賞の最有力候補」として名前を挙げている。

『ミナリ』は日本で3月19日(金)から公開される。ユン・ヨジョン演じるウィットに富んだ“おばあちゃん”に出逢えるチャンスだ。

◇◇◇◇◇
『ミナリ』
原題:MINARI
監督:リー・アイザック・チョン
出演:スティーヴン・ユァン、ハン・イェリ、アラン・キム、ネイル・ケイト・チョー、ユン・ヨジョンほか
2020 年/アメリカ/116 分
配給:ギャガ
公式サイト:gaga.ne.jp/minari

2021 年3 月19日(金)よりTOHOシネマズシャンテほか全国ロードショー

  • 取材・文児玉愛子

    韓国コラムニスト。韓流エンタメ誌、ガイドブック等の企画、取材、執筆を行う韓国ウォッチャー。新聞や雑誌、Webサイトで韓国映画を紹介するほか、日韓関係についてのコラムを寄稿。

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