明治神宮の森 “立入禁止地域”に驚きの「密怪生命」を見つけた! | FRIDAYデジタル

明治神宮の森 “立入禁止地域”に驚きの「密怪生命」を見つけた!

俊英写真家・佐藤岳彦が独自の視点で切り撮る。 大都会の中に「野生」があった!

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明治神宮に生きるタヌキ。そのフンから生える美しいカビ。ムシの屍から生える無数のキノコ。ムシの幼虫が描くナスカの地上絵のような食べ跡……。大都会・東京のど真ん中、「明治神宮」。そこには神秘的で奇怪な生き物たちの営みが隠れていた!

2018年度日本写真協会賞新人賞を受賞した俊英写真家・佐藤岳彦が独特の視点で”切り撮った”さまざまな地域のさまざまな生き物の知られざる姿。[東京・明治神宮篇][東南アジア篇][アマゾン篇]と続く第1弾、お楽しみください!

「密怪生命 [東京・明治神宮篇]」 写真家・佐藤岳彦(写真・文)

私たちの身の回りには、いたるところに生命が潜んでいる。何もアマゾンのジャングルまででかける必要はない。コンクリートの塊のような東京でも、個性豊かな生命たちと出会うことができる。中でも蠱惑的なのが、陰に隠れ、見過ごされがちな、密やかで怪しい生命の世界。それを私は「密怪生命」とよんでいる。ただ、漠然と眺めていても、それは姿を現してはくれない。蛇が獲物を探すように這い回り、「蛇の眼」になって静かに迫ってゆくと立ち現れてくる不思議な世界なのだ——-。

第一回目は、大都市・東京の都心に位置する明治神宮の森が舞台。原宿駅のすぐ傍ら、ビルの大海原に浮かぶこの森は、約100年前に人の手によって植えられた人工の森。現在はまるで原生林のような立派な森になっているが、果たしてどんな密怪生命が息づいているのだろうか。

▲緑輝くアオオサムシの屍から、無数の白きキノコを生やすオサムシタケ。

“神域”で見つけた死者と生者が同居する神秘

さっそく明治神宮の森に分け入ってみよう、と言いたいところだが、この森は参道以外の立ち入りが禁じられている。ここに掲載されている写真は、明治神宮の特別な許可を得て林内に入り撮影したものだ。中でも本殿裏の禁足地と呼ばれる場所は、さらにお祓いを受けなければ入ることができない神域である。

そんな禁足地で見つけたのがオサムシタケ。アオオサムシという虫に菌がとりつき、殺め、その体を養分にして生えるキノコで、いわゆる冬虫夏草の仲間。死んでいるものと、生きているものが同居する世界は、神秘的ですらある。また、普段は見えにくい生命のつながりが、ありありとカタチとなっている存在。そんなオサムシタケを前に、生命とは何か、自然とは何か、を考えずにはいられなかった。

▲林内で出会ったタヌキ

▲タヌキのため糞から生えるヒゲカビの一種

臭い、けど近寄りたい! 糞に息づく美

明治神宮の森にはタヌキも暮らしている。森の中を歩けば、彼らの通った跡が「獣道」となって残っており、その道を辿ってゆくと「ため糞」と呼ばれる、タヌキのトイレに出会うことがある。両手で輪を作ったほどの大きさに、複数のタヌキの糞が積もっているのだが、その糞をよく観察すると、彼らの食生活が垣間見えて面白い。木の枝で糞をいじくると、甲虫の固い翅であったり、銀杏の種であったり、季節によって様々な食べ物の残骸が顔を出す。だから、ため糞を見つけると、「最近は何を食べているのか?」とついいじくってしまうのだ。

早春のある日、この日もため糞を見つけるといそいそと近寄って、顔を近づけた。この後いつもなら、辺りに良い枝はないかと物色するのだが、この時はそのまま糞に目が釘づけになった。いや、正確には糞の上に群生する数ミリの黄色い球体に見入ってしまったのだ。瑞々しくも美しい球体は、微かな陽光に透けてきらめいていた。その正体は、哺乳類の糞を養分にして生えるヒゲカビの一種。そんな美しきカビを限りなく近寄ってマクロレンズで切り取る。もちろん糞であるから、臭い。けど、その美に近寄りたい。そんな、糞上のせめぎ合いの中で撮ったのが上の写真だ。

▲倒木の上の変形菌、ホソエノヌカホコリの未熟な子実体。高さは3ミリほど。

倒木にへばりつき、舐めるようして見つけた極小の美

全ては自然のままに。明治神宮の森の管理は、人の手を加えず、自然の摂理に任せるというもの。都市公園であれば片付けられてしまうような林内の倒木や落ち葉も、そのままに放置される。明治神宮の森がつくられて以来、90年以上そのようにして、森は管理され育まれてきた。そんな、自然のままの林内に見られる倒木は、不思議な生命の宝庫。しゃがみこんで、舐めるように見てゆくと、多様な生命が視界に入ってくる。

中でも色、形が多彩な変形菌は実に魅力的である。粘菌とも呼ばれ、名に菌とつくが菌類でも植物でも動物でもない、アメーバの仲間。子実体の大きさは多くの種が数ミリ程度と小さい。未熟な状態では瑞々しく、成熟と共に乾燥し、胞子をつくって子孫を増やす。この森では99種もの種類が確認されており、赤や黄色や白、チュッパチャッパスのような形から、網目模様まで、見つける度にそのイロカタチの妙にうなってしまう。ただ、いかんせん小さいので、探すのにはコツと根気が必要となってくる。写真は、ホソエヌノカホコリの未熟な子実体。大きさはたったの3mmだが、透明感のある柄と赤い胞子嚢が艶やかに存在感を放っていた。

▲まるでナスカの地上絵のようなキクイムシ幼虫の食べ跡。

何かゾクゾクするような出会いはないか? いつものように倒木にへばりついていると、樹肌に奇怪な模様を見つけた。まるでナスカの地上絵のようで、無数の脚を持つゲジゲジのようにも見える。これは、実はキクイムシという小さな甲虫の幼虫の食べた跡。その這った跡が自然と地上絵ならぬ樹上絵を描いてしまうのだ。実際は数センチというスケールなのだが、大きさを言わなければどこか壮大な大地の写真にも見えてくるから面白い。

こうして虫や菌が倒木を食べ、利用することで、木は少しずつ分解され、土へと還ってゆく。豊かになった土壌は新たな植物を育み、森は成長してゆく。見過ごしてしまいそうな小さな生命の一つ一つのつながりが、自然の大きな流れをつくっている。明治神宮の森も、他のあらゆる森も、その無数の積み重ねで成り立っているのだ。

次回は、東南アジア。小さなものから大きなものまで、「密怪生命」の世界は、そこにもかしこにも至るところに存在する。

佐藤 岳彦 写真展「密怪生命」

10月5日~10月10日 オリンパスギャラリー東京

10月26日~11月8日 オリンパスギャラリー大阪

佐藤 岳彦 写真展「密怪生命」

  • 写真・文写真家 佐藤岳彦(さとう・たけひこ)

    1983年、宮城県生まれ。大学院(森林動物学)中退後、写真家の道へ。傍らの自然から熱帯のジャングルまで、日本・世界各地を旅し「生命」を見つめ続けている。写真集に「密怪生命」(講談社)、鎮座百年記念 第二次明治神宮境内総合調査にあたって特別に撮影した「生命の森 明治神宮」(講談社)、「変形菌」(技術評論社)がある。2018年 日本写真協会賞新人賞を受賞。写真集「密怪生命」は講談社より好評発売中

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