絶対王者「帝京」V10への思い 名将・岩出雅之が語る

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副将の竹山晃暉は、俊敏な動きと快足で攻撃の要となっている

ラグビーの大学選手権で10年連続の日本一を狙う帝京大は今季、長野の菅平での夏合宿で明大、早大との練習試合を19―21、14―28とそれぞれ落とした。明大には4月の春季大会でも、14―17と2015年以来となる公式戦黒星を喫している。

もっとも就任23年目の岩出雅之監督は、泰然自若としている。

加盟する関東大学対抗戦Aの開幕を控えた9月3日、都内でメディア向けの懇親会があった。記者団の取材に応じた岩出監督は、最近の連敗については穏やかに「(負けを)嬉しいと思う選手はいないと思う。火がつくでしょう」と即答する。

「負けてニュースになるチームになったことは光栄に思いますけど、しっかりと甘いところを補っていきます。勝つと勢いや自信はつくけど、楽観的になります。敗戦をいい方向に持っていけるような財産にしたいです」

帝京大が初めて大学選手権を制したのは2009年度。トレーニングジムの整備や当時珍しかった栄養指導により、強くて大きな選手をこれでもかと揃えていた。連覇を重ねるうちにスキルや経験値に長けた入学希望者も増やし、戦術も更新してきた。向かうところ敵なしの存在となった。

スポーツ分野以外のメディアで注目されたのは、グラウンド外での規律や部員の誠実さだ。特に上級生が率先して雑用をこなす文化は、「脱体育会系」と称賛される。興味深いのは、その上級生の仕事の数が年々増えている点だろう。例えば配膳をおこなう食事当番は、V5の代から4年生が受け持っている。主将だった中村亮土(現サントリー、日本代表)は当時、こう話していた。

「活動するうえで、成長に繋がらないものはどんどん省いています」

日々の暮らしを律する意識は、今季の秋山大地主将も引き継いでいる。春先に行ったインタビューでは、新しくできたばかりのクラブハウスの管理や清掃の方法を皆で話し合っていると言った。

「環境をよりよく整えていこうと上級生が話し合うのは、帝京大のいいところだと感じます」

裏方も充実する一方だ。医師が定期的にグラウンドへ来て怪我の診断をおこなったり、指導陣から独立した形の心理学カウンセラーが部員の悩みを個別に共有したりと、次々と新たな取り組みがなされている。

大学の教授でもある岩出監督は、学生指導のエキスパート、鋭いラグビーの勝負師、組織力を高めるゼネラルマネージャーなどいくつもの顔を持つ。常にこう強調する。

「(学生には)未来につながるような力をつけながら、いまの大学スポーツもエンジョイして欲しい」

変わり続けてきたからこそ、変わらぬ結果を手に入れてきた帝京大だが、今年の夏場は星勘定に苦しんでいた。帝京大は例年、夏は新たな戦術の落とし込みに注力。岩出監督も「昔のイメージでいうと、合宿は泥臭くくたくたになるようなイメージだと思います。ただ、いまは暑い東京ではできないことをしっかり学習する、セミナーみたいなものと捉えている」 と話す。

「セミナーですから、学習したことがすぐに身につくわけではありません。それをこれから3か月で力をつけ、対抗戦、大学選手権へと上がっていけるようにする」

今季は、防御網の飛び出し方やエリアごとのボールの動かし方をチューンアップ。同時期におこなわれたトレーニングマッチは、それを実践する最初の場だったのだ。折しも数名の主力をけがで欠くなか、選手の意識は試運転の手順の確認に割かれた。

 岩出雅之監督は58年和歌山県生まれ。日本体育大学ラグビー部ではフランカーを務めた。96年から帝京大学ラグビー部を率いる

その影響からか、本来の十八番だった正確なハンドリングや肉弾戦での下働きの精度が狂ったのではないだろうか。特に早大戦では自陣からの脱出方法を誤り、手痛い失点を食らっていた。2年生司令塔の北村将大はこう語る。

「夏合宿ではストラクチャーを意識しすぎて、思い切ったプレーができていなかったです。新しいことを覚えようとするのも大事なのですけど、そのなかでもタフさ、柔軟性がなくてはいけないと感じました」

思えば、夏から大差で勝利していた頃の選手も「僕たちのなかでは隙だらけ」と反省していた。帝京大にとっての夏とは、成長痛の伴う時期なのだろう。

加えて今季の明大、早大は、体制の刷新などで蓄えてきた力を最大化。上昇気流に乗っていた。春季大会の頃に話を戻せば、明大は帝京大戦の約2か月前から海外チームとの試合を組むなど、必勝態勢とも取れる準備をしてきた。岩出監督も「それぞれが努力されたプロセスが表面化していると思います」と敬意を表したものだ。

相対的な力関係に変化が見られるように映るとしたら、近年の大会形式の変化もチェックせねばならないだろう。

帝京大はV5時から、日本選手権でのトップリーグ勢撃破を目標に練習強度を上げていた。V6達成の2014年度にはその舞台でトップリーグ10位だったNECを破り、組み合わせ上、トップリーグ王者とぶつかるようになってからも、学生たちは「大学日本一」ではなく「日本一」を目指して日々を過ごしていた。

ところが2017年度、日本のスーパーラグビー参戦に伴う日程調整のために日本選手権への学生出場枠がなくなった。これにより帝京大は、目標のスケールダウンを強いられ、モチベーションを保つ難しさを感じるようになった。ライバル校たちが長らく思い描いてきた日本一奪還に近づく傍ら、王者は成長意欲の醸成に苦しんでいるのだ。この構図は、夏場のゲームに少なからぬ影響を与えたのではないか。

「日本代表で活躍する最近の卒業生」の話題に触れた際、岩出監督は日本選手権出場の価値に触れ、次のように思いを語った。

「『大学選手権で勝てばトップリーグチームと対戦する』ということが、我々がNECさんに勝たせてもらったこと、OBがトップリーグや代表で活躍していることに繋がっている。日本選手権があると、選手たちが『トップリーグレベルの基準を持とう』という意識を持ちやすい。それがなくなって2年目に入り、今それを切実に感じています」

いま生じているジレンマには、自主的にトップリーグクラブとの練習試合をおこなうだけでは対処できないという。岩出監督は、「消防訓練と本当の火事は違う」と説明した。

「学生に勝ちたいからトップリーグのチームと試合をするのと、トップリーグのチームに勝ちたいからトップリーグのチームと試合をするのとではちょっと違う。公式戦では(相手が格上のトップリーガーでも)負けたくないし、みっともないプレーもしたくない(と思う)。これって結構、大事なんです。そこに挑戦しながら自分の可能性を感じたり、やる気が湧いてきて本当の努力をするようになる。改めて、日本選手権は大きかった」

もちろん、「(日本選手権への出場権が)なくなったという現実は消せない」と岩出監督。V10の期待がかかる今季は、あくまで「セミナー」を再徹底した先での優勝を狙う。早大や明大がフィジカル面で自信をつけてきたことにも「レベルの高い争いができる」と期待感を口にする。「打倒トップリーグ」という指針を失っても、自分たちで楽しみを生み出すという新たなベクトルを作ろうとしている。

「(連覇は)先輩たちが積み上げたものです。今年もしっかりと学生がまとまって、彼らが今年の優勝を目指す。結果としてそれが10連覇になります」

9月16日に開幕した対抗戦では、成蹊大、青山学大にそれぞれ113-7、141―7と快勝した。上位候補とぶつかる10月下旬以降の戦いに向け、絶対王者はどんな準備をしているのだろうか。

2018年1月7日、帝京は明治を21対20で破り、大学日本選手権9連覇を達成した

取材・文:向風見也(スポーツライター)

写真:アフロ

Photo Gallary3

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