政見放送の「視聴率分析」でわかった千葉県知事選の裏側

今までのやり方では、有権者に届かない!

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3期務めた森田健作千葉県知事だが、今回の知事選には立候補していない

千葉県知事選の政見放送が話題を呼んでいる。

過去最多の8人が立候補し、個性的過ぎる政見放送のオンパレードとなり、「ネタ祭り状態」「放送事故」「カオス」などと形容されているのである。

しかし奇妙な放送がどう見られたかを分析すると、面白がってばかりではいられないことがわかる。エンタメ化が過ぎる政見放送の危うさを考えてみた。

接触率が急伸

ふつう政見放送といえば、候補者のバストショットが続くだけで、テレビ的には退屈な出来上がりだ。

ところが近年、奇抜なパフォーマンスで話題を呼ぶ放送が散見される。そして今回の千葉県知事選は、最初の候補者から個性的過ぎで、なんと接触率が急伸するという珍事が起こった。

NHK政見放送の初日(3月9日)は、「千葉県全体を夢と魔法の国にする党」代表でユーチューバーの河合ゆうすけ氏(40)が登場した。とにかく抱腹絶倒の内容だった。

「千葉県全体をエンターテインメント都市にしたい」
「九十九里浜もディズニーシーみたいにします」
「これからゴミは“星のかけら”という言葉に替えます」
「ヤンキーも“オラフ”と呼びます」
「幕張駅は“幕張メッセここじゃないよ”駅にします」

最後のオチも決まった河合候補のプレゼンは、東芝視聴データ「TimeOn Analytics」によれば、5分強の間に0.2%以上接触率を上昇させた。比率にして3割以上の急伸という空前の珍事だ。

登場順で明暗

2番手は幾つかの有名病院での勤務医経験を持つ無所属の加藤けんいちろう氏(71)

話す内容は、トップバッターに負けず劣らず噴飯ものだった。

「千葉のバイデンになる」
「夢は当選して、小池百合子氏と結婚する」
「(1都3県知事会で)こそっとプロポーズしようと考えています」

確かに年齢・風貌からすると、米国のバイデン大統領に似てなくはないが、なんと公の電波を使っての求婚だ。やはり前代未聞の妄言だ。

ただし残念ながら加藤候補は、ずっと手元の原稿を見たまま。構成も話術も河合氏ほど傑出してなく、接触率は登場直後に急落し、その後も右肩下がりとなった。ユーチューバーとして話芸に秀でた河合氏の直後は、残念な登場順だったようだ。

不運といえば、真っ当に政策を開陳した3候補が最もとばっちりを受けた。
3番手のかなみつ理恵氏(57)・4番手のくまがい俊人氏(43)・二日目ラストの関まさゆき氏(41)だ。

共産推薦かなみつ候補のプレゼンは、奇想天外な2人の後となり、視聴者の気分とミスマッチになってしまった。放送中に1割ほど視聴者を失っている。

初日最後に登場したのは、千葉市長を3期務めたくまがい候補。順番が回ってきた時点で、河合候補のピークより0.2%低い。しかも「ネタ祭り」の流れの中で、さらに1割視聴者を失った。

二日目ラストの関まさゆき氏も、弁護士でかつ県議会議員を3期務め、今回は自民の推薦で立候補した。ところがやはりユーチューバーの平塚正幸氏(39)や、ごとうてるき氏(38)のエキセントリックなプレゼンの後となり、2割強の視聴者を失っている。

流入流出でみる明暗

全国256万台のインターネット接続テレビの視聴状況を調べるインテージ「Media Gauge」で、今回の政見放送での流入流出の状況を調べてもらった。番組途中で見始めた人や見るのをやめた人の割合である。

これで見ると、初日トップの河合氏が、ユニークなパフォーマンスで多くの視聴者を集めたことがわかる。

接触率0.9%前後を分母とした中での流入だ。実数にして1万人ほどを集めた計算で、SNSなどの口コミが短時間にこれくらいの数を動かす威力があるとわかる。

2番手の加藤候補は、登場と同時に千人ほどに逃げられた。見た目の地味さと、朴訥とした話し方は致命的だったようだ。

しかも同氏のプレゼンは、23時またぎとなった。若干の流入もあったが、それ以上に他の番組に流出してしまった。話の内容は噴飯ものだったが、それを食い止めるほどの魅力とはならなかった。

3番手のかなみつ候補にも、不運が伴った。

政党の支持者により、一定程度の流入が起こっていた。ところが裏にニュース番組が3つあるためか、流入より流出がかなり上回ってしまった

そして最後のくまがい候補は4番手という巡り合わせの悪さ

登場までに視聴者がかなり減ってしまっていた上に、シンプルにバストショットが4人続き、さすがに視聴者にとって食傷ぎみのようだ。出入りは激しくないものの、流出が流入をほぼ上回り続け、接触率は右肩下がりとなってしまった。

男女年齢差はなし

23時をまたぎ、一人5分ほど4人が続けて話す政見放送では、男女年層に関係なく似たような反応が起こっていた。

強いて言えば、T層(男女13~19歳)や1層(男女20~34歳男)は視聴者数が少なく、途中の流入流出も大きくない。

ところが2層(男女35~49歳)以上では視聴者数は一定数あり、トップの河合氏で数字を上げ、その後下げていく状況が全層に共通していた。

そして驚くべきは、4層(男女65歳以上)で上下動が最も大きいことだ。SNSを含む口コミで、高齢者も間違いなく途中から見始めている。そして候補者のプレゼンの仕方を見て、多くの人が途中で脱落している。

もし視聴データが投票行動に反映したら、選挙結果に多少の異変が起こるかも知れない。

人口比でボリュームゾーンとなる高齢者も、面白過ぎるプレゼンにビビッドな反応をしているからだ。ただしテレビ的パフォーマンスと実際の投票は違うと峻別しているなら、その限りではないだろう。

いずれにしても留意すべきは、政治を専門としている候補者の政見放送だ。

今回明らかになったように、とにかく目立つことに賭けてくるユーチューバーなどは、過激さを増しテレビで大きな影響を持ち始めている。

しかもこうした候補者が出ているネット動画は、視聴数でテレビ以上に大差となっている。

河合候補は「この放送に著作権はない」と、ユーチューブやSNSにアップすることを勧めていた。結果として、視聴数だけでなくネット上の動画数も膨大になっているのである。

もはや真面目な政策論だけでは、有権者に届かない。

表面的な美辞麗句に、視聴者は退屈しているからだ。立候補者はこうした状況を正しく認識し、本来の議論が反映する選挙戦を、視聴者の目線に合わせて作り上げなければならない。

新しい時代には新しいやり方が必須となりつつある。

  • 鈴木祐司(すずきゆうじ)

    メディア・アナリスト。1958年愛知県出身。NHKを経て、2014年より次世代メディア研究所代表。デジタル化が進む中で、メディアがどう変貌するかを取材・分析。著作には「放送十五講」(2011年、共著)、「メディアの将来を探る」(2014年、共著)。

  • 写真共同通信社

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