全財産9万円の20代女性が受けた「生活保護水際作戦」の実態

横浜市が会見、謝罪した「不適切な窓口対応」の音声データに非難の声が

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3月9日、横浜市は横浜市役所で緊急の会見を開き、ある女性に「謝罪」をした。テレビニュース、新聞ではそれほど大きく報道されなかったこの件。自治体と一般女性のあいだに「なにがあったのか」その背景を追った。

音声データで明らかになった横浜市の悪質な「水際作戦」に、支援団体から抗議の声が上がった。しかしこれは「横浜だけの問題ではない」という

「謝罪された」のは、仕事と家を失った20代の女性。実家とは事情があって連絡を取れず、頼れる親族はいない。ネットカフェやカプセルホテルを転々としていた。全財産は9万円。数日後には携帯電話の支払いなど引き落としがある。

お金を節約するために、ついには公園で寝た。

2月22日、彼女は、生活保護の申請をするため、横浜市神奈川区の福祉事務所に行く。

「こちらははじめてですか?」という相談窓口の担当者の問いかけに、Aさん(仮名)が「はい、はじめてです」と答える。

彼女は窓口でのやりとりを録音していた。その音声データには、生活保護の窓口で行われている「水際作戦」の一部始終が記録されていたのだ。

相談係:受付表に「お住まいなし」と書いてあるんですけど?

Aさん:今現在、仕事がなくて、住所がなくて、カプセルとかネットカフェとか…。

相談係:おうちのない状態だと、ホームレスの方の施設があって、そちらに入ってもらう。そちらは女性の方なので女性相談になる。

これが、最初のやりとりだ。

まず、家がない状態の人が生活保護を申請する場合「施設入所が前提」であると説明している。これは、まったくの虚偽だ。また「女性は女性相談」というが、そんなルールはない。男性であろうと女性であろうと、生活保護は同じように申請できる。

新型コロナによる経済の停滞は1年を超えた。サービス業などを中心に、失業したり、生活に困る人が増えた。

そんななか、支援団体の取り組みもあり、生活保護に対する意識は高まった。昨年末から、厚生労働省は「生活保護は権利」ということを明確に伝え始めた。

菅義偉首相の「生活保護がある」発言が波紋を呼んだのは今年1月。

生活に困った時は、生活保護を受けて暮らしを立て直す、という当たり前のことが、徐々に浸透していったようにも見えていた。

「横浜市の対応は『水際作戦』の典型例です。厚労省の通達があっても、実際の現場では、今でもこういう虚偽の情報提供や誤った対応が横行しています」(新型コロナ災害緊急アクション・瀬戸大作さん)

厚生労働省は「生活保護は権利。ためらわずに申請を」と案内しているが、実際の現場では…。人員不足もその一因で、誠実なケースワーカーの過重労働には同情の声も

音声データに残された虚偽と拒否の記録

Aさんはこの日、生活保護の申請用紙を記入して持参していた。SNSで調べ、支援団体に問い合わせ、準備していったのだ。しかし、

相談係:申請の紙は、お申し込みの時にお渡しするので、前もってお渡しするということはしていないんです。

そう言って、窓口の相談係はその用紙を受け取らない。これも「水際作戦」だ。

「申請書は、役所のフォーマットでなくても有効なんです。どんな用紙でも『申請の意思』が確認できればいいんです」(つくろい東京ファンド・小林美穂子さん)

Aさんは繰り返し「生活保護を受けたい」という「申請の意思」を伝えるが、途中、窓口で待たされたりしつつ、申請は受け付けられない。

相談係:おうちがないのだから、申し込みをしたとしてもおうちがない状態のまんまだと、住むところがない状態だから却下になる可能性が出てきちゃう。

といった発言が続き、誤った説明がなされ、結局、Aさんは申請を断念した。

厚生労働省は「保護の開始の申請等の意思が示された者に対しては、その申請権を侵害しないことはもとより、侵害していると疑われるような行為も元に慎むべきである」と通知をしている。今回の横浜市神奈川区福祉事務所の対応は、悪質な「水際作戦」だった。

3月に入って、この件の抗議を受けた横浜市役所は、申請者に謝罪、再発防止を心がけるという謝罪文をHPに掲載した。

急増する「生活困窮者」。各地の申請窓口を知る支援団体のメンバーからは、「現場の危機感」が語られた

「とにかく追い返そう」という役所の姿勢

「Aさんは、公園で寝るところまで困窮していました。『アパートに入って普通の暮らしがしたい』という彼女に対して『とにかく追い返そう』という努力がにじむやりとりです。こういう水際作戦が増えているように感じます。命がかかっているということ、ここで保護をしなければ、この人が危険にさらされるという想像力が感じられません」(小林さん)

大きな非難を浴びた「最終的には生活保護がある」という菅首相のメッセージは、ある意味正しい。困っている人は、躊躇なく生活保護を申請して暮らしを立て直す。役所は、そういう人に正しく対応をする。しかし、そんな当たり前のことが実現できていない。

「これは、横浜市だけの問題ではありません。全国で、同じようなことが起きているんです。また、申請にあたっては、扶養照会という別のハードルもあります。扶養照会についても、運用の見直しが進んでいますが、まだ十分ではありません」(つくろい東京ファンド・稲葉剛さん)

今、急ぎ必要なのは、公園ではなく「家」で寝られること。お金がなくて自殺をしたり、餓死する人を出さないこと。そのために、生活保護がセーフティネットとしてきちんと機能しなければならない。菅首相の言う通り、「最終的には生活保護」が、困っている人の「命」を守る砦なのだ。

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