過去に公開銃殺も…金正恩夫人の出身女学校で「わいせつ撮影」疑惑
6年前の15年、北朝鮮で凄惨な公開銃殺が行われた――。
平壌郊外の美林(ミリム)で処刑されたのは、13年に解散させられたとされる「銀河水(ウナス)管弦楽団」のメンバーたちだ。あまりに悲惨な光景に、立ち合いを強要された女性歌手は失禁してしまったという。『デイリーNKジャパン』編集長の高英起氏が語る。
「『銀河水管弦楽団』が解散させられた理由は、わいせつ映像を撮影したからだと言われています。複数の女性団員と男性幹部が、みだらな行為をしたというのです。北朝鮮では、こうした映像の撮影や視聴は人民の意識を乱す行為としてかたく禁じられている。公開処刑の凄惨さからして、金正恩氏の怒りは相当激しかったのでしょう」
わいせつ行為も芸術表現?
銀河水管弦楽団は、金正恩氏の夫人・李雪主(リ・ソルジュ)氏が歌手を務めていたことでも知られる。今、北朝鮮では李氏の出身団体で撮影されたとされる映像が、再び大きな問題になりつつある。李氏の母校で、有名な音楽家や歌手を多数輩出した名門・金星学院に関するスキャンダルだ。高氏が続ける。
「北朝鮮から流出した、『コンピューターに入力してはならない電車ファイル目録』という内部文書があります。視聴が禁止された、映像や音楽を列挙したモノです。その中に『金星学院の教員たちと学生たちが2018年3・8節を迎えて行なった非組織的で異色的な公演を録画した編集物』という記載がある。『3・8節』とは、国際女性デーのことです。
内容は2通り考えられます。一つは解散させられた『銀河水管弦楽団』のように、国際女性デーに合わせ『教員たちと学生たち』のみだらな行為を芸術表現の一環として撮影したというモノ。もう一つは、ヒップホップなど海外の影響を受けたダンスや音楽の録画画像です。北朝鮮では外国の敵性芸術を『異色的』と表現しますから。いずれにしても禁じられた行為で、当事者は重い罪に問われるでしょう」
北朝鮮で歌手などの芸能人は、国のイメージを良くするエリートだ。エリートゆえに厳罰に処せば、人民を統制するための効果は大きい。指導者の夫人の母校だからといって、容赦されることはない。
「1月に行われた労働党党大会で、金正恩氏が徹底を強調した新しい法律があります。昨年末に採用された『反動的思想・文化排撃法』です。同法では、外国、特に韓流コンテンツの視聴、流布を禁じただけでなく、北朝鮮が制作したコンテンツにも規制をもうけている。今回、金星学院の編集物が問題視されたのも、新法が大きく影響しています。
北朝鮮で、韓国の作品や外国の影響を受けたわいせつ映像が浸透しているのは周知の事実です。正恩氏は、その流れをなんとか防ごうと躍起なのでしょう。国家は、決して軍事力や政治的圧力だけで倒れるわけではありません。東ヨーロッパの旧社会主義諸国の例を見てもわかる通り、外国の文化が流入し、徐々に国民の意識が変わっていくことが遠因です。
北朝鮮でも都合の悪い自国作品が、ジワジワと人民の間に広がっている。規制が厳しくなっているのは、正恩氏の危機感が強いことの表れでしょう」
もはや恐怖政治や法律では、海外からの文化流入は止められないだろう。北朝鮮の人々の意識は、確実に変わり始めている。
- 撮影:KNS/KCNA/AFP/アフロ