コミック1話無料配信 『夫のちんぽが入らない』著者インタビュー

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『夫のちんぽが入らない』という小説をご存じだろうか。昨年1月に発売され、書店で口にするのもはばかられるその衝撃的なタイトルにもかかわらず、発売即13万部を突破した話題作だ。

Yahoo!検索大賞2017・小説部門で堂々の1位。今年の上半期中間発表でも上位3タイトルに入っており、2年連続受賞も見えてきた。漫画化され、ヤングマガジンでの連載も開始、2019年にはNETFLIX&FODで実写版ドラマが世界同時配信される。

さらに、2作目のエッセイ「ここは、おしまいの地」が第34回講談社エッセイ賞を受賞するなど、勢いの止まらないこの小説の作者・こだまさんは田舎暮らしのフツーの主婦だ。内容の壮絶さからはかけはなれた楚々とした雰囲気のこだまさんに、文庫版発売(9/14)のタイミングで話を聞いた。

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9月14日に待望の文庫化。異例の、全面を覆う帯。コメントを寄稿した人たちの顔ぶれも豪華だ

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『夫のちんぽが入らない』夫婦の“愛”が読む人の感動を呼ぶ理由

実は私たち、“入らない”夫婦なんです――日本の最果ての田舎町に暮らす主婦の衝撃の告白から始まる私小説『夫のちんぽが入らない』。書店で手に取るには勇気を要するタイトルでありながら、単行本は13万部を売り上げるヒットを記録した。出版界やネットを席巻してから、一年半余り。漫画連載が始まり、来年には映像化が決定するなど、余波は引くどころかますます高まっている。

「何しろこのタイトルですから、ちゃんと書店に並べていただけるのか? というところから始まったんですよね……」

文庫版発売に合わせて上京した著者のこだまさんが、おっとりと語り出した。年齢は40代とのことだが、ほっそりとして清楚な、どこか少女のような可憐さをたたえた女性である。

「わいせつなだけの内容ではないんです、夫婦の問題とか、仕事のこととか、とにかくいろいろと人生に関わるお話なんです、ということを皆さんにお伝えしなくちゃと。でも正直、自分が暮らしている田舎の書店には、並んでほしくないと思っていました。そうすれば夫や両親が手に取らないだろうから、ありがたいなと(笑)。東京のように、いろんな状況にある人を許してくれそうな大都市だけで売られればいいという気持ちでした」

こだまさんは、家族や周囲の人に出版の事実を明らかにしていない覆面作家である。何といっても『夫の〜』に綴ったのは、大学入学時に出会って付き合い始めた、どこにでもいる平凡なカップルが直面したセックス不全という、あまりにもプライベートな問題。タイトルにはずばり、“ちんぽ”三文字がある。物語の元となったのは、こだまさんがネットで知り合った仲間たちと作った同人誌に掲載された、同タイトルのエッセイだった。

「普段自分では絶対に使わない言葉だったので、恥ずかしさがあまりなかったんです。最初に世の中に出したときも、どうせ100人くらいしか読まないんだからいいだろう、という考えで(笑)」

厳格な家庭、とくに気性の激しい母の監督下で育ち、「誰かを傷つけることを恐れる、無言の子どもになった」 というこだまさん。あらゆることに自信を失いがちな少女期を過ごした。

「いつも『自分が底辺』『自分が全部悪い』と思う方向にいってましたね……。読書家というわけではないですが、中学時代に太宰治の『人間失格』を読んで好きになったこともあって、気の弱い人が世の中を恨むとか、自分の生い立ちをひたすら悔やんでいるような私小説を読みがちでした(笑)」

母の束縛から逃避するための大学進学。そこで、夫と運命の出会いを果たした。文章を書き始めたのは、結婚後の20代後半。当時はストレスから教師を退職した直後で、半ば引きこもり状態にあった。

「その頃、まずブログを始めたんです。子どもの頃から、人に見せるようなものではないけれど日記だけはずっと書いていたんですね。ネットに公開しはじめたら読んでくれる人が現れたので、そのことに力をもらって書き続けました。同人誌を出そうと決めたのは40代に入る直前でしたが、何か今までとは違うことをしたいというだけで、それでお金をもらうとか身を立てようということは一切考えていなかった。だから、編集者の方から本にしようというお話が来たこと自体が、今でも不思議です」

夜だけうまくいかない夫との、20年にわたる奇妙な夫婦生活は、「ほぼ実話です」 と笑顔で語るにはあまりある壮絶な歴史である。お互いに夢だった教職についたものの、プライベートでは“入らない”現実に困惑し続ける日々。そのうち、こだまさんは仕事での挫折をきっかけに出会い系サイトにのめり込み、何人もの男性たちと関係を持つようになる。そして、なぜか夫以外のものは“入る”事実に気づかされるのだ。

田舎暮らしのフツーの主婦ゆえ、顔出しはNG。講談社エッセイ賞の授賞式にも仮面をかぶって出席した

「あの頃のことは、『何でこんなことをしていたんだろう?』と、書いていても自分のことではないような気持ちになりましたね。たぶん、仕事のストレスで精神がめちゃくちゃになって、自傷行為に近い状態だったのかな、と……。思えば、会った男の人たちも、半数くらいは病んでいたような気がするし、私と同じように、日常から逃げようとしていたんだと思います」

さらに、どうやら夫も風俗に通ってストレスを発散しているらしいことが明らかになる。そう、ふたりとも、よそでは“入る”のだ。この皮肉。この絶望。それでも、ふたりは夫婦で居続け、閉塞的な田舎町で暮らし続ける。なぜ? 本を読んだ人なら誰でも抱くはずのこの疑問に、こだまさんはこう答えた。

「もともと、子どもがほしいと思ったことがなかったし、田舎生まれの特性なのかもしれませんが、ここから離れたら自分も自分の人生もなくなってしまうんじゃないかという気持ちがありました。夫とも、服を着ている時間は友達のような関係なので、何も問題はなかった。だから、すべてを捨てて新しい自分に、というのは、やっぱり選択肢にはありませんでした。普通に子どもがほしかったりしたら、悩んだんでしょうけど」

普通であること。それへのこだわりこそが、長い間、こだまさんを呪縛していたものの正体だった。

「世の中の規範から外れることはしたくないという人間だったので、夫婦ならセックスをするのが普通だ、結婚したら子どもを産むのが普通だという気持ちが、すごく強くて。そこからずいぶん離れたところに私はいるんだなぁ、と思い込んでいたんですね。たぶん、見てきた世界があまりにも小さすぎたから……もし都会に生まれていたら、そんなことは気にしなくていいんだって、最初から思っていたかもしれません。のちに病んで自ら道を外れてしまうのですが」

普通でなくとも、自分たちらしく――やがてふたりは手探りで、ある解決に辿り着く。不器用ながらも感動的なその成り行きは、ぜひ本で読んでいただきたいのだが、こだまさんが夫を思い、夫がこだまさんを思う気持ちは、出会ったときから少しも変わっていないのかもしれない。それは“愛”と呼ぶしかない、いたわりと尊重。

「性的なことで満足させてあげられないという引け目もあって、夫には、それ以外は何でもしてあげようという気持ちは強いかもしれません。でも、どうなんでしょうね……。愛という言葉は、ふたりの間ではぜんぜん使ったことがないんです。『愛してる』なんて考えたこともなく、一緒にいるのが普通。本にも書いたんですが、私たち、兄弟みたいだなぁって。だから、遠く離れているときも、つい『心配してるんじゃないかな』と思ったりするんです」

《人に見せていない部分の、育ちや背景を全部ひっくるめて、その人の現在があるのだから、それがわかっただけでも、私は生きてきた意味があったと思うのです》

痛ましいからこそ、滑稽だからこそ、血を流すように記された一節一節が胸を打つ。願いを込めたこだまさんの言葉は、本人の予想に反して、愛や性に悩む多くの人に届いた。

「本を出すまでは、こんな現象は私だけのことなんだと思っていました。でも実際には、口にしないだけで、入らないことに悩んでいたり、入らないわけでなくても夫婦で性的な関係がないことを気に病んでいたり……そんな人たちが感想をくださるほどたくさん、普通にいるんだということに、すごくびっくりしましたね」

書き、それを読んでもらうことで「少しだけ自分を好きになり、強くなれた気がする」 というこだまさん。この東京滞在が終われば町に帰り、また静かな日常に戻っていく。

「まだ誰にもばれてはいない……と思います。夫も家族も何も言ってこないし。でも、周囲のネット仲間からは『本当は気づいているけど、黙っててくれてるんだぞ』と言われました(笑)。タイトルがタイトルだから、とっくに気づいているんだけど、遠くから見守ってくれているんじゃないかって」

もしそうなら、それはやっぱり“愛”と呼ぶべきものなのだ。

こだま 2014年に同人誌『なし水』に寄稿した短編が話題を呼び、大幅加筆した処女作『夫のちんぽが入らない』を刊行。今年、夫婦生活以外の日常を綴った第2作の随筆集『ここは、おしまいの地』で、第34回講談社エッセイ賞を受賞する。現在、『Quick Japan』でコラムを連載するほか、新作の小説に挑戦中。

こだまさんのツイッターはコチラ

取材・文/大谷道子

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