開幕からルーキー3人が躍動中! TLサントリーの新人育成術

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サントリーが翻弄された神戸製鋼のスタンド・オフ、元ニュージーランド代表のダン・カーター

公式会見での冒頭の一言は、いつも変わらない。

やや早口による「はい、皆さんお疲れ様です」 。サントリーラグビー部の沢木敬介監督だ。

「久々に悔しさを思い出せた。本気で、次は必ず勝つ。絶対にチャンピオンになる。僕だけじゃなく、選手たちも悔しいと思っています。……練習します」

9月14日、東京・秩父宮ラグビー場。サントリーは3連覇を狙う国内最高峰のトップリーグ第3節で、今季初黒星を喫した。元ニュージーランド代表の英雄、ダン・カーターを擁する神戸製鋼に、20-36で破れたのだ。

試合出場登録23名中、アジア以外の国から来た選手の数は、神戸製鋼が9で、スターティングメンバーへのエントリーは6。特にボールを動かすバックスの先発メンバーには、神戸製鋼がニュージーランド代表112キャップ(代表戦出場数)のカーター、オーストラリア代表116キャップのアダム・アシュリークーパーら4人の海外実力者を並べた。一方、サントリーは日本人の若者だけを登録した。

明治大学から今年サントリーに入社した梶村。突進力には定評がある

なかでもセンターの梶村祐介とウイングの尾崎晟也はこの春大学を卒業したばかりの新人。フォワードのプロップとして出た堀越康介を含めると、この日のサントリーはルーキーを3名も登場させていた。

もちろん現場は、これを敗戦の言い訳にはしない。ただ、いまのサントリーが若い日本人選手をなるべく国際的な選手たちと同じ土俵で戦わせているのは確かだ。

神戸製鋼戦に出場した3名は開幕節から3戦連続出場中で、堀越と梶村は最近のパフォーマンスが買われて9月24日からの日本代表候補合宿にも召集されている。代表関連の活動への参加は、堀越にとっては帝京大主将だった昨春以来、梶村にとっては報徳学園高3年だった2013年以来のことだ。

サントリーでの新人活躍の秘訣は、もしかしたら一般社会での人材活用術にも転用できるかもしれない。普段からビジネスパーソンやサッカーの指導者が書いた本を読むという沢木監督も、あくまで別な話題についてではあるがこう話している。

「マネジメントって、(どの分野も)結局どこか似通っていると思うんですよ。で、サッカーにもビジネスにも、ラグビーに応用できることってたくさんある」

最初に身もふたもない話を挙げれば、サントリーには世代有数の実力者が集まっている。大学ラグビーの試合をご覧になるファンの方は、「いい選手がサントリーなど一部のチームに集まっているのでは」とお感じになっているのではないか。ラグビー界にはプロ野球のドラフトのような仕組みはない。新戦力の確保には、各クラブの土壌やセレクターの眼力、学生のニーズへの対応力などに頼るほかない。

サントリーでは昨季まで、OBの大久保尚哉・採用担当が社員採用を前提に各大学の才能を見定めてきた。例えば2014年春に観た帝京大のゲームで、数的不利な状況から相手をタッチラインの外に押し出す巧妙な守りのできる1年生ウイングを発見。それが尾崎だった。

尾崎のような強いチームの注目選手は当然他社からもマークされるが、サントリーは府中市内の充実した練習施設や優勝争いにからむ実力から獲得合戦を優位に進める。さらに最近では、当該選手と指揮官との人間関係という後押しも功を奏しているようだ。

2016年就任の沢木監督は2013、14年、20歳以下日本代表(U20)のヘッドコーチを務めていた。現在のサントリーの若手を学生時代から指導しており、前年度入社組では5名中4名、今年度入社組では4名中3名が当時の教え子なのだ。

辛口ながら核心を突いた指導に心を掴まれたのか。入部の理由を聞かれた選手たちは揃って指揮官の存在を持ち出す。その1人が、高校時代から沢木監督に惹かれてきた梶村だ。

「僕はそれまで怒ってもらえる選手ではなかったのですが、沢木さんに初めて本気で怒ってもらえて嬉しかったんです。自分で勝手に決めていた『これぐらいでいいだろう』を『それじゃ世界では通用しない』と言ってくれた」

突破力が長所の梶村にとって、沢木と出会ったU20時代は成長の基盤を作った季節と言える。明大入りの直前に2014年の活動に参加したが、けがで途中離脱。「1人だけ劣っていた。これでは大学に行っても通用しない」 と、日々の食生活から見直して身体を作った。さらに練習を見学していたある時はメモ帳とペンを持っていて、「沢木さんにメモを取った方がいいと言われて」 とその理由を明かしたものだ。

U20時代からファンダメンタル(心技体の基礎)を高める」 「と謳っていた沢木監督は、サントリーの若手への評価をこう語る。

「U20の時にラグビーに対する考え方を変えられた選手が、サントリーに入ってきている。(トップリーグは)学生時代とは時間の使い方、プレーの質、強度も違うけど、もともと(各選手に)能力があるから慣れればいいところが出てくる」

サントリーは昨シーズン、パナソニックを破りトップリーグ連覇を達成。オーストラリアのスター選手マット・ギタウや日本代表の松島幸太郎などタレントが豊富

選手が入社後に急成長するのも特徴的だ。なかでも変貌ぶりが際立ったのは、昨季入社の松井千士である。

同志社大時代から7人制日本代表に入っていた細身の俊足ウイングは、入社前の3月から苦手だったウェイトトレーニングに着手。77キロだった体重を約3か月で82キロに増やした。昨季は故障するまで5戦5トライ奪取と結果を出し、体調の戻った今季は7人制日本代表復帰も叶えた。本人はこう語る。

「フィジカルに自信がついた。ここからもう一段階レベルを上げようと思ったら(ウェイトトレーニングを)好きだとか嫌いだとかも言っていられないので。プレッシャーがあるなかでやっているから、成長できている。ここでは本当に軽いミスをするというか、集中していない選手が見つかるとガツンとカツを入れられます」

2年目で元明大主将の桶谷宗汰は、同じフランカーを務める西川征克が31歳で日本代表デビューを果たしたのを受け「自分が成長しているのと同じ分、皆も成長している。成長を加速させないと(試合に)出続けられない」 。内部競争の激しさも、進化を後押しする。

個別対応も奏功する。堀越はこれまでスクラム最前列中央のフッカーを主戦場としてきたが、社会人になると同じ最前列でも左側のプロップに転向。フッカーより業務の量が少ない位置に移ったことで、相手の懐をえぐる突進とタックルに専念しやすくなった。

沢木監督はトレーニングはミスが起こるような設計にする。ただ、そのなかでも少しずつ成功を積み重ねていけるのが一番」 「と、トップリーグでの逆転優勝に向けて繊細かつ厳しいコーチングを継続中。その一方で新任の宮本啓介・現採用担当と連携を図り、来季以降の新人獲得へもアンテナを張る。基準はぶれない。

「『いい』って言われている選手がいても、その『いい』の基準がコーチによって、チームによって違う。サントリーで機能するかを見ないといけないのです。メンタルも含めて。タフな人間じゃないと、サントリーのラグビーは務まらない」

今春は早稲田大学3年の齋藤直人、中野将伍という世代有数のタレントを練習に参加させた。少なくとも自身の在任中は、向上心のある名手をくまなく探してゆく。

取材・文:向風見也

撮影:アフロ

Photo Gallary3

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