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「コロナ変異ウイルス 正しく知れば怖くない」と専門家が語るワケ

加熱報道や政治的歪曲へ「冷静な判断」を〜峰宗太郎医師の緊急メッセージ

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新型コロナウイルス感染症(COVID-19、以下「新型コロナ」)に関する話題で今いちばんホットなのは、いうまでもなく「変異ウイルス」と「ワクチン」。変異ウイルスは、そんなに恐ろしいものなのか。ワクチンは効かないのか。

米国国立研究機関の博士研究員で、病理学・ウイルス学・免疫学を専門に研究をしている医師の峰宗太郎先生に、専門家が知る「真実」を聞いた。

東京オリンピックの開幕が迫るなか、変異ウイルスへの恐怖、ワクチンへの期待が入り混じる。今こそ「本当のこと」を知りたい。写真は、キーパーソンともいえる国立国際医療研究センター国際感染症センター長の大曲貴夫氏と東京都の小池百合子知事 写真:Pasya/アフロ

ウイルスは変異してあたりまえ

ウイルスの変異は、流行が続いていれば常に起こっているんです。まずね、これが大前提です。何度もウイルスがコピーされて増殖していくうちにコピーミスが出るからです。だから「変異」自体は特別なことじゃない。いわば「よくあること」で、それ自体はそれほど騒ぐものではないんです。

とはいえ、ウイルスが変異してやっかいなこともあります。気にすべきポイントは大きく3つ。ひとつ目は「伝播性(でんぱせい)が上がる」。人から人にうつりやすくなることです(感染力と書いているメディアもみますね)。

2つ目は「病毒性が上がる」。感染すると、症状が重くなってしまうようなことです。

3つ目は、「免疫逃避」。免疫が効かなくなることです。なかでもこれがいちばんやっかいで、ワクチンが効かなくなったり、再感染(2回感染する)が起こり得る。従来型のウイルスに感染した後に変異したウイルスに感染することがあり得るんですね。

今、流行っているうち、イギリスから見つかったもの(B.1.1.7)は、伝播性と病毒性が上がったと考えられています。どのくらい上がったかは正確な数値を述べられる根拠がまだありません(モデルレベルではありますが)。一方でワクチン(ファイザー・ビオンテック社のもの)は極めてよく効いています。感染者の8割近くがイギリス型となった、現在のイスラエルで実証済みです。

一方、いわゆる南アフリカ型(B.1.351)、ブラジル型(P.1)とイギリス型で追加で見つかったもの、フィリピンなどのものはどれも、E484Kといって、ウイルスのスパイクタンパク質の484番目のアミノ酸がE(グルタミン酸)からK(リシン)に変わってしまった変異です。これがあると、ワクチンでできた抗体が効きにくくなることがわかってきました。しかしこれも、まったく効かなくなるわけではありません。

確かに伝播性が上がるとか、ワクチンが効かなくなると聞けば怖い感じがしますが、たとえば、100m先にいる人にまでうつるようになるといった極端な変化が起こることにはなっていません。だから変異ウイルスは個々人のレベルでは「それほど恐れなくていい」と思っています。研究者や、国などを管理する立場のレベルでは「大きな」変化を伴う「変異」ですが、一般の方が何かを特別に気にする話ではありません。なぜなら今まで同様の予防策で感染を防ぐことができるからです。

変異「株」ではなく変異「体」の意味

言葉の問題でいうと、変異株のことは英語でmutated strain(ミューテイテッド・ストレイン) といいます。ミュータントが 「変異」。ストレイン(株)というのはウイルス学的に、性質が大きく変わったときに使われます。例えば今まではACE2というレセプター(受容体)にくっついていたのが、他の分子にくっつくようになった場合などですね。それくらい大きな変異なら、確実にストレイン(株)が変わった、すなわち「変異株」だといえます。

しかし今、世間で騒がれているのは「変異”株”」というほどの変化ではないように思います。ウイルスの専門家たちはこれらの変異ウイルスを variant(バリアント)「変異”体”(へんいたい)」と呼んでいます。

テレビで、コロナの患者さんを診ている医師が「さっきブラジル型を診た。これからイギリス型の患者を診るので、全部着替える」とコメント、視聴者は「変異ウイルスは怖い」とたいへん恐れていると聞きました。

確かに、変異ウイルスを持つ患者さんがいる場合、多重感染させないことは大事です。でも本来は、患者(感染者)に対してひとり一人防護服(PPE)を変えるのは基本で、ことさらに強調することではありません。ミスリーディングになりかねない報道ですね。まぁ運用方法はそれぞれの施設でしっかりルールを定めることは重要です。

変異ウイルスの「なにが問題なのか」

では、変異ウイルスが広がること「そのもの」で何が困るのか、考えてみたいと思います。

ウイルス学の基礎的なところやモデリングを研究している人、病院のベッド数の空きを意識しなければいけない国にとっては、変異ウイルスの感染拡大は重要でしょう。でもそれは研究上、あるいは施策を決める立場上重要なのであって、私たち個人の予防策は変わりません。変異ウイルスであろうが、非変異ウイルスだろうが、まずはかからない、感染しないことが何より重要

そしてその原則さえ守っていれば、変異ウイルスであるか否かは気にするだけ無駄ではないでしょうかね。

感染しなければ、変異も何も関係ありません。

3密を避ける、手を洗う、マスクをする、距離を適切にとるといった基本的な予防をして、ハイリスクな行動を避ける。そしてワクチンが打てるようになったら打てばいいんです。変異ウイルスが広がっているから、非変異ウイルスとは別に、特別に何かをしなければいけないということはないのです。基本の予防策がどこまでも重要なのです。

とはいえ、流行が収束するまでまだまだ不安があることは確か。情報は錯綜していますね。これまで「国の機関などの公的な情報をまずは信じましょう」と言ってきましたが、公的な情報だからといって妄信するのも、今はだめなのですね。

イギリスなどのように政治的な背景で情報の強度が変わることはままあります。こうなるとなおさらに「複数の情報源」をしっかり精査し、比較検討(クロスチェック)していくしかない。ひとり(1つの機関、1つの国)だけが突飛なことを言っていないか、最低限、科学的な常識を持っている人同士の議論としての妥当な結論なのか、妥当なラインを見極めながら情報を追っていくことが大切なんですね。

「エビデンスレベル」を、知っていますか

「専門家」の「僕はこう考える」「私はこう治療している」なんてレベルの話は安易に信じてはいけません。なんらかの受賞歴、経歴、業績、肩書きなども、その人の「言うこと」を信じる根拠には全くならないのは当然ですね。

「エビデンスレベル」という、ある意味一つの情報のとらえ方の指針となりうる考え方があります。

医療や医学の領域において、研究に関する情報の、ある意味で「信頼性の高さ」のレベルを現したものですが、そこでは、専門家の意見は動物実験の次、程度の評価を受けると考えられており、信頼性は、じつはかなり下のほうです。

専門家の意見の次が症例報告やケースシリーズといった設計なしの研究。こういう症例がいっぱいありましたといったような報告ですね。次がケースコントロール研究、コホート研究といった観察研究です。簡単にいうと観察して比べてみましたというもの。

そしてランダム化比較試験(RCT)、メタアナリシス・システマティックレビューと続きます。ワクチンの治験で行われたようなRCTや、されにそれらのRCTを集めて研究を統合してどういうエビデンスがあるかを冷静に判断しようというものです。

峰医師が作成した「エビデンスレベル」の図。研究のデザインとしては、基本的に上にいくほど情報としての信頼度が上がる。いわゆる「専門家の意見」は、信頼度としてはけっこう低いのだ

専門家に意見を聞くにしても、ちゃんと論文を読める人に聞くのは前提として、「この論文ではこういうことがいわれています」と説明することが大事です。薬やワクチンの人への効果について聞くのであれば、RCT以上の質のいい論文を紹介していることは重要になってきます。

ワクチン接種が進めば活動がぐっと自由に

ワクチンは優先順位の高い人、高齢者や持病のある方から打っていきますね。すると、まずは重症化するリスクの高い人が守られるようになります。つまり、誤解を恐れずにいえば、感染しても「単なる風邪のような状態」になる。

ワクチンが十分にいきわたれば、仮に新規感染者数が1日4000人になったとしても、感染者の症状は「風邪並み」なので入院の必要はなく、病院はガラガラということも。医療逼迫の危機がなくなれば状況はかなり明るくなります。国民の8割がワクチンを打って集団免疫がつけばより安心ですが、その前に社会の「防衛力」が上がれば、確実に状況は変わってきます。なにより、経済的活動の自由度が上がりますよね。

誰からワクチンを打てばいいのか

ワクチンを誰に優先的に打つかは、いくつか考え方があります。人同士の接触が多く経済的活動の活発な若い世代から打っていけば、流行は早く収束します。一方、高齢者を優先して打てば、収束は遅くなるけれども、重症者や死者の総数がより少なく抑えられる。このふたつをモデリングした論文がハーバード大などから出ているんですよね。

結論は上記の通り「重症化リスクの高い人を優先して接種」したほうが、亡くなる人の総数が少ないという結果でした。世界のほとんどの国も日本も、こちらの政策をとったということになりますよね。

経済活動をフルにフリーにするのには、段階的に感染状況を見て判断していく必要があるでしょう。しかし私個人としては、今年の末くらいにはなんとかなるんじゃないかと漠然と思っています。

先日、2回目のワクチン接種をしてきました。翌日は風邪のひきはじめのような感じでかなりだるくて、1日ゆっくり休んでいました。自宅作業の日だったのでよかったのですが、出勤するとなるとキツかったかもしれません。でもその次の日には回復していました。ワクチンの副反応は、ある程度出ますので、職場では接種日をずらすなどすることも重要かもしれませんね。

アメリカでは、ワクチン接種をしてしっかりと免疫がついた人同士は、屋内でマスクを外して会ってもよいという指針がCDCから出ました。このように、ワクチンを接種した人が増えれば、どんどん行動の自由度が増していくでしょうね。

私ももちろん、流行が収まるまではマスクや手洗いと言った予防策は続けます。収束まであと少しと思える状況になってきています。とにかく感染しないように基本の予防策の継続はしっかりとって、ワクチンを待ち、メンタルにも気を使って乗り切りましょう。

アメリカ、メリーランド州の国立研究機関で博士研究員を務める峰宗太郎先生。この地下にある自室から、SNSを駆使して「正しい情報」を発信している

峰宗太郎:医師(病理専門医)、薬剤師、医学博士。京都大学薬学部、名古屋大学医学部、東京大学大学院医学系研究科卒。国立国際医療研究センター病院、国立感染症研究所等を経て、米国国立研究機関博士研究員。専門は病理学・ウイルス学・免疫学で、ワクチンの情報、医療リテラシー問題にも明るい。愛称は「ばぶ先生」

  • 図版峰「ばぶ」宗太郎(こびナビ)取材・文和久井香菜子写真Pasya/アフロ

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