「異動」で躍動 ラグビー代表入りを狙うサントリー中野将伍の素顔 | FRIDAYデジタル

「異動」で躍動 ラグビー代表入りを狙うサントリー中野将伍の素顔

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トップリーグ・トヨタ自動車戦で後半、4点差に迫るトライを奪った中野将伍。後ろから追走するのはトヨタの豪州代表主将、FLフーパー(写真:共同通信)
トップリーグ・トヨタ自動車戦で後半、4点差に迫るトライを奪った中野将伍。後ろから追走するのはトヨタの豪州代表主将、FLフーパー(写真:共同通信)

日本代表が初めて8強入りしたラグビーワールドカップ(W杯)の日本大会閉幕から、1年以上が経った。2023年のフランス大会に向け、新たに代表入りを目指す1人が中野将伍だ。早大で大学日本一となった大型バックスは今季、サントリーに加入。本職と違うポジションでのプレーや海外の大物との居残り練習を通し、さらに大きな存在になろうとしている。

デカくて、強くて、速い

約1年前の2020年4月にサントリーのラグビー部に入った中野将伍は、早大時代からストイックだった。

大学1年時からひとつ屋根の下で暮らした、2020年度寮長の柴田徹は言う。

「トレーニングをひと一倍やるのはもちろん、練習は自分の特性に合ったものを自分で考えてやっていました。ウェイトトレーニングでも他の皆がどれだけ重りを挙げられるかを意識していたなか、将伍はベンチプレスをする時に(肩から腕などに)ゴムバンドを巻き付けて抵抗を生み出すことも。それ以外にもひねったり、飛んだりと、ラグビーのプレーに近い動作も(トレーニングに)採り入れていた。おそらく、どこからか情報を集めていたのだと思います」

身長186センチ、体重98キロと堂々とした体格で、50メートル走のタイムは10代の時点で「6秒台前半」。東筑高校2年の冬から飛び級の格好で20歳以下日本代表候補入りと才能を評価されていたが、近しい人物が驚くのは努力し続けられる才能である。

強化指定選手だけが入れる寮で中野と共に暮らしてきたなか、柴田が見つけた中野の「突っ込みどころ」は1980~90年代に流行った『ドラゴンボール』のキャラクターTシャツを着て歩いていたことを含めごくわずかだったという。

「さらに際立っていたのは食事面です。彼を慕う後輩の吉村紘と一緒に鶏の胸肉を大量に買ってきて、夜な夜な電子レンジで蒸して塩や胡椒を少しだけかけて食べていましたね。近くの喫茶店でも将伍特性の高たんぱく低脂質メニューがありました」

体育会学生の多くが大学を出るや競技から離れるなか、中野は大学卒業後も世代有数のトップランナーとして楕円球を追う。日本代表を目指す。

もっともいまは、希望部署への配属が叶わなかったようにも映る。本業はバックスライン中央のセンターだが、2021年2月からのトップリーグでは大外のウイングとしてプレーすることが多い。センターに入るケースは、勝負のついた試合中盤以降がほとんどだ。

「ふたつのポジションで練習している感じです。どちらで出たとしても自分らしく前に出て勢いづけ、チャンスを作るのが自分の役割です」

本人が続ける。本音では「センターは(立ち位置の都合上)ボールを触る回数も多い」と本職を希望も、配置転換されたからこそ得られた知見も示す。

「ウイングはどういう時にボールが欲しいのか、センターがボールを持って行った方がいいのはどんな時かについて、新しく感じているものもあります」

構造上パスの受け手となりやすいウイングの心を理解することで、パスの出し手にあたるセンターへ戻ってからのプレーに幅をもたらせそう。飲食店経営を体験した酒造メーカー社員のように、深い想像力のもと動けるかもしれない。

中野(前列左から2人目)は大学4年時の2020年1月、11シーズンぶりの大学日本一に輝いた。左から4人目がサントリーの同僚、SH斎藤直人(写真:共同通信)
中野(前列左から2人目)は大学4年時の2020年1月、11シーズンぶりの大学日本一に輝いた。左から4人目がサントリーの同僚、SH斎藤直人(写真:共同通信)

熾烈な定位置争いで成長できるか

サントリーは、2003年度のリーグ創設以来5度優勝の強豪だ。多くのタレントを擁する。早大前主将の齋藤も、日本代表の流大と正スクラムハーフの座を争う。

力と技巧が兼備されたいセンターの先発枠は2枠あるが、主将で日本代表の中村亮土、オーストラリア代表のサム・ケレビといったW杯日本大会に出場した選手が並ぶ。それぞれ29,27歳と選手として脂がのり、攻守で好判断を重ねる。

さらに、日本大会の直前まで日本代表の選考レースに残っていた梶村祐介は25歳と若い万能型。32歳の村田大志も守備範囲の広さで信頼される。中野が配置転換されている理由は、中野の本職とする位置に実力者がすでに複数いることも関係している。ただ本職でないポジションで出場できているのは、潜在能力に対する期待の大きさの表れだろう。

「センターもウイングもプレーできる、チームにとって貴重な存在です。パワフルなキャリー(前進)ができる選手なのでウイングで起用しておいて(途中から)センターでも…と考えています」

ミルトン・ヘイグ監督にこう見られるなか、自身は己の強みを見つめ直している。

「盗めるところのある選手から多くを盗む。普段の練習では、ボールを持った時の突破力、フィジカル面という強みでは絶対に負けない意識でやっています」

力強さをアピールしながら養うのが、オフロードパスの技術だ。

タックラーに捕まりながら球をつなぐオフロードパスは、決まれば好機が広がる。日本大会に出た日本代表も反復練習で身に付けたその技術を、中野も意欲的に学ぶ。

この領域の名手はケレビ。自身2季目となる今度のトップリーグでも、複数名に囲まれダンクシュートの要領でパスしたことがある。常にファンを驚かせる。

中野は全体練習が終えると、このケレビに師事する。中野は熾烈な部内競争を、定位置確保への障壁ではなく成長への助け舟にしているのだ。

同僚につい、「選手」とつけて語る。

「毎日5~10分は、サム・ケレビ選手と1対1になって練習をしています。まずは(オフロードパスのためにはまずハードキャリー(タックラーに1対1で勝つこと)が大事な点に加えて、ディフェンスの来るタイミング、高さ、いる位置によってどんなオフロードの種類が効果的なのかも聞いています。ケレビ選手は、フィジカルが強くオフロードパスがうまい。自分もオフロードパスを強みにしたいので、毎日、吸収できるように教えてもらっています」

2月26日、2年後に迫るW杯フランス大会の日程が決まった。日本代表は2戦目でイングランド代表、4戦目でアルゼンチン代表と、北半球と南半球の強豪とぶつかる。

2大会連続での8強以上が期待されるなか、6月に予定されるブリティッシュ&アイリッシュライオンズ戦などのテストマッチ(代表戦)、および事前合宿の機会で下地を作りたい。新戦力も試されそうで、ルーキーながら5試合中4試合に先発し、残り1試合も途中出場している中野のようなニューフェースにもチャンスはある。

日本代表のセンターには中村や梶村の他、日本大会でリーダー格だったラファエレ ティモシー(神戸製鋼)、大学選手権で初の日本一となったばかりの天理大から近鉄へ入るシオサイア・フィフィタ、さらにこれから代表資格を得る海外出身者など、有力候補が数多くいる。

中野が初の代表入りへ近づくには、自ら「今後も上げて行きたい」と課題に挙げるタックルの精度を高めたり、売りにする攻撃面でより際立つインパクトを残したりと、いくつかのプラスアルファが求められる。本人はこうだ。

「もちろん日本代表に入ってW杯に出たい気持ちはあります。まずはトップリーグで試合に出て、チームの欠かせない存在として活躍し続ける。それがシーズン後の代表活動にもつながってくる。そう思って毎週、準備しています」

強者の群れで努力し続ける才能を発揮している中野は、チーム事情による「異動」をプラスに転じる。いずれは日本代表にとっての「欠かせない存在」となる。(一部文中敬称略)

  • 取材・文向風見也

    スポーツライター 1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年よりスポーツライターとして活躍。主にラグビーについての取材を行なっている。著書に『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー 闘う狼たちの記録』(双葉社)がある

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