SB中村晃 打撃スタイルを変え、スラッガーに回帰したわけ

安打製造機と呼ばれた男、リスク覚悟でプロ11年目の挑戦

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三振の数は増えたが「気にしてない。納得できるスイングをして打席を終えることを常に心がけています」

「このままだと先がないと感じた。自分が落ち目になることがわかっているなら、過去を全部捨ててでも、新しいスタイルを作り上げようと思ったんです」

過去4年で3度日本一に輝いた福岡ソフトバンクホークス不動のレギュラー。’14年のシーズンに176安打を放ち、年間最多安打のタイトルを獲得した。

’13年から’15年にかけて、3年連続打率3割を達成した球界きっての安打製造機、中村晃(あきら)(28)は、10年かけて磨き上げた技術を「捨てる」という――。

「空振りが嫌い」な小学生

中村の技量を裏打ちする数字がある。

メジャー由来で、昨今、日本球界でも注目を集めている指数「BB/K」である。三振1回に対する四球の比率で、選球眼の良さやミートの巧さを測ることができる。中村は「BB/K」ランキングで常に首位争いを演じているが、’16年に「1.87」という凄まじい数字を叩きだしている。いかにプロの好打者であっても、ほとんどは四球より三振のほうが多い。そのため「1」を上回る打者はなかなか現れないのだ。ちなみにこの年の2位は楽天の銀次(30)で「1.24」。昨年のセ・パの首位打者がそれぞれ、「0.81」(DeNA・宮﨑敏郎)と「0.74」(西武・秋山翔吾)だったから、中村のミート技術がいかに優れているか、一目瞭然である。そして――あの特徴的な一本足打法も、中村のバッティングに貢献しているという。一本足打法の元祖、王貞治球団会長が解説する。

「僕より粘り強いんですよ。一本足の形を作ってから、右足をすっと下ろすのではなく、地面に着きそうになってから、さらにスーッと投手のほうへ踏み出す。そうやって粘れるから、彼は非常にボールの見極めが上手い」

ターゲットを確実に仕留める中村を、チームメイトは「スナイパー」と呼ぶ。その原点は小学生時代にあった。当時から中村は「空振りが嫌い」だったという。

「バットにボールを当てるのに苦労したことはなかったですね。素振りより打つほうが好きだから、バッティングセンターに通っていました。マシンのボールが出てくる穴に打球を当てて遊んだりしてるなかで、さらにバットコントロールが上達していったんだと思います」

名門・帝京高では1年生から4番を任され、甲子園にも3度出場。高校通算60発はあの松井秀喜氏と同数だ。同世代の大阪桐蔭の中田翔(日本ハム)と、「東の中村、西の中田」と並び称された。

スラッガーとして鳴らしたが、プロ入り後もミート中心のスタイルを磨いた。

「僕は身長が175cmしかない。長打力を売りにする選手じゃないと、自分でわかっていました。とはいえ、プロ入り後、数試合は二軍の試合でバットを長く持って打っていたんですが……すぐに無謀だと気づきました(笑)。それから一握り以上、バットを短く持ってやっていました」

長打を捨て、磨き上げたミート技術がワールドクラスだと証明されたのが’15年に開催された国際大会『プレミア12』だった。侍ジャパンに招集された中村は打率.611という驚異的数字を残している。

しかし――昨年夏のことだ。中村は突如として、バットを目一杯長く持って打席に入るようになった。スラッガーへの回帰の理由を、中村はこう説明する。

「’15年まで3年連続で打率3割を打ち、’16年には当時、一番こだわっていた出塁率4割を達成しました。だけど……僕はメチャクチャ足が速いわけじゃない。もうすぐ30歳になります。まず衰えるのは脚力です。僕が単打を打って一塁に立っていても、相手にとって脅威にならなくなるのです」

プロ入り後、ほぼ同じモデルを使っていたバットも新しくした。

「チームメイトのバットを借りていろいろ試していく中で、川島(慶三)さんのバットが一番しっくりきた。従来の僕のバットより15g重い900g。先っぽが太く、手元は細いのでヘッドが利く。思いっきり振り回さなくても、ボールが飛んでいくような感覚でした。ギータ(柳田悠岐)さんや松田(宣浩)さんのバットも試しましたが、軽すぎました。スイングスピードが相当速くないと飛ばないはずです。あの人たちはモノが違います」

“三冠王”松中信彦を指導した島袋裕二トレーナーと契約。オフにはヤフオクドーム前にある砂浜でタイヤ押しやダッシュを繰り返し、肉体改造に取り組んだ。

「初めて長打力が欲しいなと思ったのは2年前かな。ただ、当時は打率も落としたくなかった。そんな中途半端な考えでやっていたから、成績はついてこなかった(打率.287、7本塁打)。でも、今年は根本的に違う野球をやれている。スイングも打球傾向もまったく違うから、相手投手の配球も変わりましたね」

中村は9月2日の楽天戦で2戦連発となる13号3ランを放ち、勝利に貢献。シーズン2桁本塁打はプロ11年目で初だ。

「リスクは覚悟の上でした。でも、何もせず後悔するのは嫌だった。ずっと同じスタイルというのもつまらんでしょ?」

失敗すれば選手寿命を縮めたかもしれない賭けに、中村は見事勝利した。

スラッガー仕様に替えたバットを見つめる中村。全体練習の3時間前には球場に現れ、休日もグラウンドで身体を動かす。練習の虫だ

「右足を上げてタイミングを取り、着地してもまだバットが出てこない」形が中村の理想

本誌未掲載カット

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取材・文:田尻耕太郎

撮影:繁昌良司

Photo Gallary6

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