自分を抑えてきた人たちに幸せを…あるセックスワーカーの告白
「ゲイ向けのセックスワークを始めたのは3年前。みんなに『大変な仕事だね』って言われるけど、僕にとってはなにも大変じゃない。最高の仕事です」
そう語るのは上田和洋さん(仮名)32歳。ゲイ向けのセックスワークと、昨年からはレズ風俗の事務の仕事もしている。
「あんまりいないんじゃないですか、ゲイとレズの両方でセックスワークに関わるって」
上田さんは、少し誇らしげにこう言う。もともと、彼がセックスワーカーになったのは「お金に困った」からだ。

「最初は、次の仕事が見つかったらすぐに辞めるつもりでした。SEとして働いていて、メンタルを病んで仕事を続けられなくなって、つなぎのつもりでセックスワークを始めたんです。
もともとサービス精神が旺盛な性格ではありましたが、こんなに楽しいなんて。お金をもらえて、人には喜んでもらえて、『かわいいね』なんて褒められる。今は、続けられる限りやりたいと思っています。
SE時代はテストエンジニアという、システムのバグを探す仕事をしていました。忙しかった。いくら頑張ったところで、なんのために生きているのか、なんのために働いているのかまったくわからなかったんです。で、体を壊してしまった。
今の仕事は、お客さんから直接『ありがとう』って言われるので、とても充実感があります」
高齢のお客さんは「これでもう死んでもいい」と
セックスワークはサービス業です。笑顔で次の日から気持ちよく生きられるようにサポートする仕事です。性行為目的で来る方にはそれをメインにしますし、お話ししたいんだなあと思うお客さんとは、お話をたくさんします。
お客さんには結婚されている方や高齢の方もいらっしゃる。とりあえず周囲に言われるまま結婚して、時間とお金は妻と子どもに費やしてきた。『でも妻が死んで、子どもも手が離れたから、残りの人生は好きなことをやろうと思う』なんて言われると、満足して笑って帰ってもらいたいって本気で思いますよ。
高齢のお客さんに『こんなに楽しいことがあるなんて、もう死んでもいい』って言われたときは『死なないでください、ここで死なれたら、俺、なんて通報すればいいんですか』って言って笑いあったり」
田舎の町で、いつも罪悪感をもっていた
今でこそ、LGBTという言葉や性の多様性への理解が浸透してきたが、かつては、かなりタブー視されていた。自分自身、とてもしんどかったと上田さんは言う。
「僕が生まれた町のことを考えると、容易に想像がつくんです。男は男らしく、女は女らしくが当たり前。男は大学を出たら就職して、嫁さんと可愛い子どもに恵まれ、上司に乾杯の挨拶を頼んで結婚式を挙げる。子どもは少なくとも3人、長男が家を継ぎ、次男が支える。
そんな環境で僕は、サッカーや戦隊ごっこなんて男子の遊びは苦痛でしかなかった。だからといって女子に混ざって遊んでいると『変態』『女好き』と言われます。乙女座生まれというだけで『オカマ』と呼ばれるんです。
性教育もほとんど受けたことがなく、授業で『こんな小さな卵子から君たちは大きくなりました』と教わったくらいで。そんなふわふわした性知識しか持っていなかったので、なぜ自分が男が好きなのか考えもしませんでした。
僕ね、中学生のころまで、エロ本はジョーク品で、全世界の男は建前上、興奮したフリをしているのだと思っていました。男性は大人になると女性を好きになるので、自分も大人になったら女性を好きになると思っていました。
自分はみんなと違うと気づいたのは中学三年生のとき。『どうやら、みんな本気でおっぱいが好きだぞ?』『ちんちんが好きなの自分だけだぞ?』と気づきました。『男が好きなんてバレたら生きていけない、墓場まで持っていくべき感情なのだ』と、いつも罪悪感に苛まれていました」
そんな気持ちを打開してくれるものに出会ったのは、高校一年生のとき。
「本屋で見つけたボーイズラブ(BL)コミックです。朗らかなタッチの表紙に、頬を赤らめた男同士が手を繋いでいました。一緒にいた友人から『それ、男同士だよ』と伝えられ、そんなものがこの世にあるのか! と心底驚きました」
今の仕事の、お客さんのバックボーンを自分の経験に照らすと、その思いは他人事ではない。
自分を押し殺して生きてきたお客さんに、笑顔を
丁寧な接客で順調に固定客がつき、生活費に貯金ができるくらいまで稼げるようになったところに、コロナ禍がやってきた。
「仕事の出張で上京するときに依頼してくる方が多かったんですが、コロナで出張がなくなってしまって。生活費も出ないような金額しか稼げなくて困っていたら、知り合いが『レズっ娘クラブ』という老舗店のスタッフに誘ってくれたんです。意外とホワイトで、副業もOK。裏方の事務仕事をしています。やってみたらレズ風俗って男性向けのものとまったくニーズが違うので衝撃でした。
エッチでしか満たされないものってあると思うんですよ。ゲイ風俗の場合、射精という目的がハッキリしています。でもレズ風俗って、性的なサービスをつけないお客さんも多いんです。一緒にカラオケや映画に行ったりして、本当に普通のデートを望まれる。何気ない会話のやりとりを求めているんです。お金も使っているんだし、男だったらエロい話になるところですけど。
でも、いいんです。営業は、レズビアン志向のある女性だけが対象じゃないですし。僕自身も、セックスよりデートがしたいこともありますし」

ゲイに対して否定的な感情を持つ男性は多いが、女性で、レズビアンに対して嫌悪感を抱く人は案外少ない、とも言われる。このお店が出した本『すべての女性にはレズ風俗が必要なのかもしれない。』(WAVE出版 )には、そういう例が多く紹介されている。
「ひとくくりに風俗と言っても、男性向け、女性向けでこんなに違う。そのなかで、お客さんによって求めるものも異なってくる。僕は男性が好きですが、自分が男性であることに違和感はありません。LGBTって一口に言っても、多種多様です。まとめられるわけないんですよ」
一度、死んだ命だから
「セックスワークは、続けられる限りはやるつもりです。ただ、誰かが『セックスワークに就きたい』と相談してきても、勧めはしません。僕は、たまたま面接に行ったお店がすごくいいところだったから、運がよかった。今は『最高!』と思ってます。でもね、50歳になってもできる仕事ではないですし、社会的には不安定で保障もありません。普通に会社員やってたほうが、よっぽどまともに生きられる確率は高いぞとは思います」
という上田さん。じつは1月に、心筋梗塞で死にかかった。
「心肺停止までいったので、一度は死んだ命です(笑)。入院中は、マッチョな看護師さんにときめいたりして、乗り切りました。先月退院して、リハビリしながらゆっくりと仕事を増やしています」
「ホモくん」という名前で、SNSを中心に発信をしている上田さん。イベントなども積極的に開いていきたいという。「生きるか死ぬか」だった病を経て、今、伝えたいことがたくさんあるのだと言う。
取材・文:和久井香菜子