初の医学生主将 慶応義塾・古田京が熱く語った「日本一と将来」

ラグビーを始めたのは5歳のとき。慶応高校時代には花園で3回戦まで進んでいる。初めに、断っておいたほうが良さそうだ。

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「ラグビーをやっているのに医学部のことを言われるのはあまり好きではないのですが……」

古田京(ふるた きょう)は、慶応義塾大学(慶大)ラグビー部の4年生。119年の歴史を持つ古豪で初めてとなる、医学部在籍のキャプテンだ。

メディアでは特別な背景が注目されがちだが、当の本人はこの枠組みに一定の距離を置く。もっとも身長177センチ、体重84キロの凛々しい21歳は、絶妙なバランス感覚の持ち主でもある。本意ではない扱われ方からも、すでに前向きな要素を見つけているようだ。

「あまり好きではないのですが……」 の続きをこうまとめる。

「……そのことで自分だけではなくチームが注目されて、予期しないモチベーションが生まれているのを感じています。練習場にカメラが入ったりして、緊張感もある。とにかく、チームを見てくださるのはありがたいことだな、と感じています」

5歳で楕円球に触れた。川崎市を拠点とする麻生ラグビースクールで、パスとキックの面白さ、さらに「皆で勝つ楽しさ」に気づいた。中学受験の時はラグビーの強い私立を目指し、慶應普通部を選んだ。

内部進学をした慶応高校では成績優秀。タフな6年制の医学部へ進むことにした。大学の体育会ラグビー部には入らないことにしたのだが、高校生活最後の冬、翻意する。

この年は県大会で9連覇中だった桐蔭学園高校を倒し、全国大会に出場。2015年元日の3回戦に駒を進めた。後半ロスタイムに一時勝ち越しも再逆転を許す、劇的な終戦を迎えた。14―19。大阪の近鉄花園ラグビー場・第1グラウンドでは、ノーサイドの瞬間に雪が舞った。

「観ている方にとってはドラマチックで、やっている方にとっては地獄、という」

医学部とラグビー部まさに文武両道の日々を送る

決勝トライを挙げた竹山晃暉ら、相手の奈良・御所実業高校の主力数名は帝京大学(帝京大)でプレーする予定だった。一緒に高校日本代表にも選ばれたライバルとの再戦を期し、古田は医学部と部活動の両立を決めた。

大学でレギュラーになったのは2年目のことだ。当時は東急電鉄の日吉駅から徒歩13分という下田学生寮からJR信濃町駅前にある慶応病院内のキャンパスへ通い、終業するや寮の目の前の練習場に向かっていた。学業と競技生活を両立しているのは日吉や藤沢で学ぶ他学部の学生も同じだが、古田にかかる負荷は周りのそれより重そうであった。医学部の2年生は解剖実習で忙しく、ラグビーで古田が務めるスタンドオフのポジションは、勝敗を左右する司令塔だ。

この年の11月23日、東京・秩父宮ラグビー場スタンド下の通路に茫然自失の古田がいた。伝統の早稲田大学戦の後半38分に決まれば3点のペナルティーゴールを外し、23-25と2点差で敗れたのだ。しかし上級生たちからは、「気にするな」「たまたま最後に外しただけだ」と励まされた。世代最高クラスの判断力とスキルを磨いた裏で、人の温かみに触れた。

「金澤篤ヘッドコーチや当時の4年生が優しい言葉をかけてくれたのでシーズンを乗り越えられたと、建前ではなく本音で思っています」

100名超の部員を束ねるキャプテンとして、周りを巻き込むよう意識する。自分1人でチームを引っ張るより、皆で主体的にチームを作ろう。そう意識づけたことで、かえって自分が話しやすくなったという。

「春は意識して色んなリーダーに話を振るようにしていましたけど、いまは周りが喋って話を進めてくれるようになった。だから自分も逆に(部員に話をさせようと)意識しないで、言いたいことをぱっと言えるようになりました。これを感じたのは夏合宿の途中ぐらいからです」

かしこまった形で訓示する時は、「状況によって違いますけど、いつも同じことを言おうとしています」 。自らの話を、ドラマの『水戸黄門』で印籠が出るシーンのようにパターン化。メッセージの定着を図る。

「またこの話かと言われるくらい同じことを言っていかないと、皆には浸透しないと思って」

ミッションは大学選手権9連覇中の帝京大などを破り、1999年度以来の大学日本一となることだ。

「いまずっと伝えているのは、すごいことをする『らしい』行動、練習をしようということ。帝京大を倒すこともそうだし、慶大が日本一になるのも19シーズンぶりのすごいこと。だからそれ『らしい』ことをしようと、心持ちの面で意識しています」

ここでの「らしい」とは、きっと「ふさわしい」と同義だろう。

5年時は臨床実習、6年時は国家試験を控える。だから4年生のうちは文武両道を志すより、とことん武を追求する。多くの関係者からは国内最高峰トップリーグへの挑戦も期待されたが、トップレベルの舞台でラグビーをするのは今季限りと決めている。

現在、帝京大が9連覇中の大学選手権で19年ぶりの日本一を目指す

普通部からの同級生で日本代表入りを狙う辻雄康と丹治辰碩のハードワークを近くで見て、自分には学生王者以上の目標がイメージできないと感じたのだろう。ラグビーを真剣に愛するが故、ラグビーを辞める決断を下したのだ。

「日本を背負って世界と戦うことより、慶大で勝ちたいということを見るようになった。確かにトップリーグはかっこいい。でも、トップを目指してやっていないと周りに失礼だし、やる意味がない僕はと思うので。丹治と辻は2019、23年(ワールドカップ開催年)を見据えて自分でトレーニングをしているし、もちろん慶大でも全力でやっている。そこでの(自身と2人との)違いは少しあるのかな、と正直、思います」

裏を返せば、2018年の大学ラグビーシーズンにすべてを賭ける。9月15日からは加盟する関東大学対抗戦Aに挑み、竹山を擁する帝京大と10月21日に、ライバルの早大と11月23日にそれぞれぶつかる。このバトルで8チーム中5位以内に入り、12月から本格化する大学選手権への出場権を得たい。

「去年も一昨年も本気で日本一になろうと思っていい準備をしてきましたけど、今年はこれまでと違う緊張感があります。もしあまりよくない試合内容だったらどうしようとか、考えてもしょうがないことも考えてしまいますね。そういうところには、最後の年への思いがあるのかな、と感じます。(今後の課題は)80分間、やり通すということ。いまもほとんどの時間で比較的高い意識でのプレーができるんですけど、それを疲れやプレッシャーがあるなかでも意識できるかどうか。日々、鍛錬するしかないと思います。特に練習は試合よりもハードに設定してもらっています。それを自分たちがどうクリアしていくか、ですね」

いずれは白衣をまとうのだろうが、いまは黄色と黒のジャージィがよく似合う。

古田が全力で挑むシーズンが始まる。

取材・文:向風見也(スポーツライター)

撮影:松本かおり

Photo Gallary3

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