『ぎぼむす』20%越えのフィナーレが見えた!新しいヒットの法則 | FRIDAYデジタル

『ぎぼむす』20%越えのフィナーレが見えた!新しいヒットの法則

綾瀬はるか主演『義母と娘のブルース』が、“右肩上り”に視聴率を上げ続けている。初回11.5%から、2話と4話で少し数字を落としたが、他は全て上昇だ。直近では16年秋クールの新垣結衣主演『逃げるは恥だが役に立つ』とほぼ同じ軌跡をたどっている。

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実はほぼ“右肩上り”を続けるドラマは、過去30年のドラマを振り返っても数多くない。どんなタイプが右肩上りとなるのか。視聴率の推移をもとに分析すると、過去の右肩上りのドラマは、王道な上り方をしている“右肩上り”A型、初回視聴率が高い“右肩上り”B型の2パターンに分類される。そんな右肩上りのドラマのなかで『ぎぼむす』は、新たなヒットのパターンと言える、後半爆発型の“右肩上り”C型という新しいパターンでのヒットであることが見えてきた。

主要な視聴率”右肩上り”ドラマの視聴率推移グラフ

“ザ・王道”な上り方をした “右肩上り”A型

過去の“右肩上り”で最も華麗な曲線を描いたのは、堺雅人主演の『半沢直樹』(TBS・13年夏)。そもそも初回から19.4%と好調なスタート。そして7話で足踏みしたが、一度も下落することなく上昇を続けた。しかも最終回は42.2%と、ドラマの歴代2位を記録した。ほぼパーフェクトな“右肩上り”だった。

『半沢直樹』に近いのは、松嶋菜々子『家政婦のミタ』(日テレ・11年秋)だ。こちらも初回から19.5%と高い。そして2話と4話で少し下げたが、他9話は全て前話を上回わった。最終回の40.0%は歴代4位と、こちらも金字塔を打ち立てた。

このA型の特徴は、“ロケットスタート”と“大記録のラスト”だ。古くは高部知子主演『積木くずし~親と子の200日戦争~』(TBS・83年冬)が初回24.0%・最終回45.3%(歴代1位)を記録している。

ただ、このA型の右肩上りは、最近はほとんど見られない。HDDレコーダーの普及に加え、「TVer」や「Hulu」といった無料・有料の動画配信サービスも一般的になり、ドラマは自分が見たいものを見たい時間に見るものになってしまった。こうしたタイムシフト視聴が増えた現代では、リアルタイムで計測する視聴率において、こうした数字は今後は実現しないだろう。

前評判が勝負の“右肩上り”B型

A型ほどの“右肩上り”ではないものの、やや小粒の“右肩上り”もある。例えば鈴木保奈美と織田裕二がW主演した『東京ラブストーリー』(フジテレビ・91年冬)。初回20.7%、3~4話で少し数字を落としたが、他は上げ続けて最終回は32.2%と大台に乗せた。ただ、数字だけ見るとA型に及ばない。それでも今月中旬に関東ローカルとして7回目の再放送が行われるほど、話題性の高いドラマとなった。

次は仲間由紀恵主演の『ごくせん』(日本テレビ・02年春・05年冬・08年春)。第2シリーズは26.5%で始まり、途中2回ほど微減があったが、他は全て前話を上回った。最終回は32.5%と上々の記録だった。右肩上がりの傾きがやや緩やかだったが、3シリーズも放送されたほどの大ヒットだった。

B型もA型と同じく、途中に谷間はありつつも、放送を重ねるごとに視聴率が上がっている。A型と大きく異なるのは、初回と最終回の視聴率の差がB型と比べて小さいことである。A型は「半沢直樹」で最終回の視聴率が初回の2.2倍と、2倍前後の視聴率である。それに対して、B型は『東京ラブストーリー』で1.6倍、『ごくせん』に至っては1.2倍と、A型に比べて初回と最終回の差が小さい傾向になっている。初回に高い視聴率を獲得し、じわじわと視聴者を増やしていくのが、B型の特徴だ。

新しい視聴率の上り方 “右肩上り”C型

A型やB型には当てはまらないが、10%ほどで始まり、2倍の20%前後まで成長するドラマもある。阿部サダヲと芦田愛菜がW主演した『マルモのおきて』(フジテレビ・11年春)は、初回が11.6%、途中2回ほど数字を下げたが、基本右肩上がりで最終回は23.9%となった。

新垣結衣主演『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS・16年秋)の軌跡は、『マルモのおきて』に酷似している。初回も最終回も数字的には少し下だが、両者の毎回の差は1~3%程度だ。

その『逃げ恥』の軌跡により近いのが、綾瀬はるか主演の『義母と娘のブルース』(TBS・18年夏)。初回は『ぎぼむす』が1.3%上回った。しかし2~5話は『逃げ恥』が上。6~7話で『ぎぼむす』が再逆転。8話でまた抜かれたが、『ぎぼむす』は9話で再々逆転した。いずれも僅差のシーソーゲームだった。軌跡がほぼ重なる両ドラマ。『逃げ恥』の最終回の視聴率は20.8%。これに対して、『ぎぼむす』の最終回がどうなるのか、大いに注目されている。

これらC型の推移の特徴は、最終話付近になって視聴率が急伸することである。視聴率の推移としては、微増しているB型と近い推移をたどる。B型と違うのは、中盤以降に、視聴率が急伸する回が存在することである。そして、最終回で視聴率は急伸し、初回視聴率の2倍程度、A型と同じ程度まで視聴率が伸びているのである。じわじわと視聴率を上げつつ、最終回で一気に視聴率を上げるのが、新しいC型の特徴だ。

“右肩上り”ヒットの新パターン

順当に視聴率が増え続けるA型やB型は、時代の潮流に乗った物語、激しいストーリー、そして眩し過ぎるドラマが多かった。例えば『半沢直樹』は、その後TBSが得意とする“大見得ドラマ”につながる。『ルーズヴェルト・ゲーム』『下町ロケット』『小さな巨人』など、小さく弱い者が大きく強い者に立ち向かうパターンだ。“男社会の戦う男”“不撓不屈の男”たちを、極端な顔芸や大きな演技で魅せるドラマである。

一方、『家政婦のミタ』は、日テレが得意とする“あり得ないほど極端な”キャラクターのドラマだ。安達祐実が12歳で主演した『家なき子』(94年春)以来、『ごくせん』(02年春・05年冬・08年春)・『女王の教室』(05年夏)・『ハケンの品格』(07年冬)・『家政婦のミタ』(11年秋)など、極端なキャラクターが視聴者の生理にハマった時、大ヒットが生まれている。こうした中から、“右肩上り”が出ている。

『東京ラブストーリー』や『ビューティフルライフ』は、フジテレビが一時代を築いたトレンディドラマの大ヒット。人気のアイドルが恋愛物語にシンクロした時、数々のヒット作が生まれてきた。『ひとつ屋根の下』(93年春)・『ロングバケーション』(96年春)・『ラブジェネレーション』(97年秋)・『やまとなでしこ』(00年秋)・『プライド』(04年冬)などだ。その中に何本か、“右肩上り”ヒットが出ている。

こうした各局の得意パターンと比べ、『マルモのおきて』・『逃げ恥』・『ぎぼむす』は、全く違う新しい流れを作ろうとしている。共通するのは“新しい家族”。伝統的な家族構成や成り立ちと異なり、現代的な事情の中で誕生する家族の人間ドラマだ。

『マルモのおきて』は、30代の独身サラリーマンが、死んだ親友の幼い双子を引き取り育てる家族だった。『逃げ恥』は契約結婚で始まるカップル。そして『ぎぼむす』は、余命いくばくもない父が娘をキャリアウーマンに託すパターンだった。

『ぎぼむす』のロケ現場で。綾瀬はるか(左)、上白石萌歌(右)

新“右肩上り”のメカニズム

2011年3月に起こった東日本大震災以降、人と人との“絆”が見直されている。こうした風潮を受け、LGBTも含め新たな家族のあり方がドラマで多く描か始めている。ところがテーマは家族とやや地味なため、初回は爆発的には見られない。その中から、視聴者の感情にフィットした物語が、話題が話題を呼ぶ形で、“右肩上り”の軌跡が出来てくる。

『ぎぼむす』でも、多くの人に見てもらうための工夫は、序盤から幾つも見られた。家庭に持ち込まれたビジネス論理・公衆の面前での土下座や落書きによる腹芸・教師や理不尽なPTAを相手にした言葉の格闘技など、斬新な設定・奇抜なシーン・スリリングな展開のオンパレードだった。

それでも前半は、4話までで0.7%しか視聴率は上がっていない。ところが義母と娘、さらに大樹や麦田の感情が動き出した中後半は、5%も数字が跳ね上がった。

一方、『逃げ恥』も2~6話までの視聴率の伸びは、各話1%未満とほとんど上がっていない。新垣結衣と星野源の衝撃的なキスが出てきた『逃げ恥』第6話。神回と言われたが、これを経て二人の感情が契約の範囲をオーバーランし始めたことをきっかけに、ラストに向け視聴率は7%も急伸した。やはり良く似た構造になっているように見える。

普通でない親子三人の前半から、普通でない義母と娘の二人の生活を経て、麦田という普通でない男が参戦した『ぎぼむす』。さらに新しい家族関係が成立するのか、はたまた別の決着がまっているのか。

物語の展開も気になるが、“右肩上り”の軌跡が完成させれるのか否かも、大いに気になる。未知数の多い最終回に期待したい。

  • メディア・アナリスト 鈴木祐司

    1958年愛知県出身。NHKを経て、2014年より次世代メディア研究所代表。デジタル化が進む中で、メディアがどう変貌するかを取材・分析。著作には「放送十五講」(2011年、共著)、「メディアの将来を探る」(2014年、共著)。

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