日本人12連覇!実は本家より役立っている「イグノーベル賞」研究 | FRIDAYデジタル

日本人12連覇!実は本家より役立っている「イグノーベル賞」研究

今朝発表された「イグノーベル賞」で今年も日本人科学者が受賞した。驚異の12連覇だ。

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受賞したのは長野県の昭和伊南総合病院の堀内朗医師(57歳)。堀内氏は、座った状態で自分自身で肛門に内視鏡を挿入し、検査できることを調べ、その経験を論文にまとめた。

寝転がった状態よりも、排便姿勢に近い、座位での挿入のほうが不快感が少ないのではないか、という興味から自ら実験を繰り返したという。医師でありながら、患者の気持ちを体験するという、まさに一人二役の“偉業”によって、医学教育賞を受賞した。

授賞式では自分で肛門に内視鏡を入れる様子を、イラストを交えて紹介した(授賞式のYouTube動画より)


「痛さとか恥ずかしさを越える強い探究心の賜物だと思います。患者の身になって考えるのは医者の基本のはずですが、なかなかできることではありません。自らカテーテルを腕に刺し、心臓まで通す実験をしてノーベル賞を取ったヴェルナー・フォルスマンを思い出しました」(科学ジャーナリスト・緑慎也氏)

10月1日から順次発表される本家・ノーベル賞が「人類のために最も偉大な貢献をした人」に贈られるのに対し、イグノーベル賞は「人々を笑わせ、そして考えさせてくれる」ことを基準に選ばれる。いわばノーベル賞のパロディともいえる科学賞なのだが、その独創性と研究のトガり具合から、本家に負けず劣らずの話題を呼び、世界的に注目されるようになった。

しかも、今年で日本人は12連覇。はっきり言って、こちらのほうが「日本のお家芸」なのだ。

「選択と集中が叫ばれる中でも、日本の科研費には広く浅く配分する種目がある。そのおかげで、必ずしもすぐ役立つとか金になるテーマでなくとも、研究者の自由でユニークなアイデアが採択される余地が残されています。それが日本からの受賞者が多い背景にあると考えられます」(緑氏)

イグノーベル委員会のマーク・エイブラハムズ委員長も、
「日本とイギリス(同様に輩出した受賞者が多い)には、変わった人間を排除しない国民性があり、それがハッピーな国を生んでいます。世界に誇るべき文化だと思います」
と評している。

しかもイグノーベル賞研究は実社会で役立っているケースも多い。12年連続、過去に24回も受賞している日本人科学者たちによる輝かしき功績の一部を紹介しよう。

昨年は“性器”の大発見が受賞

2017年に生物学賞を受賞したのは、吉澤和徳氏(北海道大学准教授)、上村佳孝(慶應義塾大学准教授)らである。研究テーマは「雄と雌で生殖器の形状が逆転している昆虫『トリカヘチャタテ』の存在を明らかにした」ことだ。

簡単に言ってしまえば、このトリカヘチャタテは、メスがペニスを持ち、オスが膣を持つ、生殖器が雌雄逆転した昆虫だ。交尾の際は、メスがオスを押さえつけ、40~70時間も行為に及ぶという。まさに“性器”の大発見である。

受賞時、吉澤氏らが
「世界中の辞書には、男性の生殖器は男性のものと書かれていますが、私たちの発見によってすべて時代遅れになりました」
と語った。この研究成果は、単なる科学の領域を越え、ジェンダー論といった社会学にも影響を与える貴重な発見なのだ。

2012年に音響賞を受賞したのは、栗原一貴氏(産業技術総合研究所研究員)と塚田浩二氏(科学技術振興機構研究員)の2人だ。自分の話した言葉を少し遅らせて聞かせることで、その人のおしゃべりを妨害することができる「スピーチジャマー」を発明した。

「早口の人がゆっくりしゃべる練習をしたり、会議でしゃべりつづける迷惑な人を無理やり黙らせたりするのに使えるのがスピーチジャマーです。

 栗原氏には他にもユニークな研究成果が多数あります。たとえば自分が希望したと相手に知られることなく隣の席を予約できる消極的な人のための食事会の座席システムとか、動画の字幕のありなし、台詞のありなしでメリハリを付けて高速再生するシステム『CinemaGazer』などです。

 CinemaGazerを使うと、内容の理解を損なうことなく動画を高速で鑑賞でき、溜まった動画リストを消化するのに便利です」(緑氏)

「たまごっち」や「カラオケ」も

1996年に発売されるやいなや、社会現象にもなった『たまごっち』。その開発者も、実は1997年にイグノーベル賞の経済学賞を受賞している。理由は「仮想ペットを飼育するために数百万人の人々に膨大な労働時間を使わせた功績」という、少し皮肉に富んだもの。しかし、当時はまだ珍しかったヴァーチャルペットを開発し、多くの人々の心を掴んだ功績は、紛れもなく称賛されるべきことだ。

同じおもちゃでいえば、2002年に犬型翻訳機『バウリンガル』が、「ヒトとイヌに平和と調和をもたらした」として、平和賞を受賞している。バウリンガルは、イヌの首にマイクを取り付け、鳴き声を分析することで、「いっしょにあそんでよ」「すねちゃうよ」など、イヌの気持ちを日本語で表示してくれるユニークな装置だった。

日本人なら誰もが知っている「カラオケ」も、2004年の平和賞に選ばれている。カラオケでは、自分が歌うためには、他人の歌を聞くという苦痛も我慢しなくてはいけない。それによって「人々に互いに寛容になることを教えた」という理屈だ。

他にも、発明家として有名なドクター中松氏が2005年に栄養学賞を受賞するなど、個性的な科学者たちが名を連ねている。

紹介した研究内容を見てお気づきの人もいるかもしれないが、イグノーベル賞に分野の壁は存在しない。「昆虫学賞」「北極科学賞」「公共衛生賞」など、本家にはない部門が柔軟に追加されていく。科学技術の応用範囲が多岐にわたる現代では、こちらのほうが時代を映した選考が出来ているともいえる。

ちなみにイグノーベル賞は副賞として、2017年までは10兆ジンバブエドルが贈られてきた。だが、ジンバブエドルはハイパーインフレにより、2015年に公式通貨としては廃止。当時のレートで換算すれば、日本円にして約0.03円程度にしかならない。賞金が1億円超であるノーベル賞と比べれば、天と地ほどの差である。

しかし、賞金と名誉は別物。実入りは少ないが、注いだ情熱、築き上げた実績は、本家にも引けを取らない。彼らのようなユニークな科学者たちがいてこそ、日本の科学技術は最先端でいられるのだ。

※所属は全て受賞時のもの

「イグノーベル賞」歴代日本人受賞者一覧

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