世界一の「マネジメント」が激突するトップリーグという現場

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トヨタ自動車を率いるジェイクホワイト監督。南アフリカ代表監督として2007年のW杯で優勝している

8月31日から、日本最高峰のラグビートップリーグが開幕する。世界的な名選手の多さが同リーグの売りとされてきたが、最近ではチームを率いる首脳陣にも大物が並ぶ。熟練の指導者の働きぶりは当該のチームを強くすると同時に、本稿読者の学業や仕事にもいい刺激を与えてくれそうだ。

まず今シーズンから日本で手腕を発揮する神戸製鋼のウェイン・スミス総監督を紹介したい。

1998年からニュージーランド代表のコーチ陣に入閣。2007年のワールドカップフランス大会は8強に終わるも、自国開催だった11年のニュージーランド大会、一時離脱後に再加入して臨んだ15年のイングランド大会と、アシスタントコーチとして2連覇を達成している。

今季の神戸製鋼には、元ニュージーランド代表のダン・カーターが加わった。テストマッチ(代表戦)歴代最多得点を挙げたスターの来日は話題をさらったが、その実現のひきがねとなったのがスミスの存在だったと言われる。スミスの繊細な分析力と献身ぶりは、多くの戦友を虜にする。

こちらも元ニュージーランド代表で神戸製鋼の共同主将、アンドリュー・エリスはこう笑った。

「彼からはよく、夜遅くにメールが来ます。ちょうど観ていた映像で気になる部分があったのか、それについて僕に『どう思う?』と聞いてくるんです!」

低迷していたニュージーランド代表を復活させるなか、スミスはその集団の戦う意味を根本から見直していた。エリスによれば、神戸製鋼でも「最初はまず、会社のスチールワーカーとしての歴史を教えてくれました」とのことだ。

歴史的背景から組織の存在意義を探る発想は、優れたコーチにとっての共通項なのか。愛知県豊田市のトヨタ自動車で2シーズン目を迎えるジェイク・ホワイト監督も、「カイゼン」という同社の合言葉を多用。試合が終われば選手たちと輪になり、社歌を熱唱する。

ホワイトが栄華を極めたのは、スミスが悔し涙を流した2007年のフランス大会だ。母国南アフリカの代表監督として、大型選手の突進力を活かす伝統芸を徹底。優勝を果たした。

フランスのモンペリエの指揮を経て招かれたトヨタ自動車でも、同部に合った南アフリカ風のプレースタイルを提唱。新人の姫野和樹を主将にして関係者の耳目を集めながら、7季ぶりの4強入りを果たした。

チームへの帰属意識を喚起させながら独自の戦い方を打ち出すのは、2012~15年の日本代表ヘッドコーチとして「忍者ボディと侍の目を持つ」と訴えてきたエディー・ジョーンズとも似ている。それもそのはず。南アフリカ代表を預かっていた2007年、ホワイトはジョーンズを右腕に従えていた。

外部の目利きを活かして成功したホワイトは、この国でもアンテナを広げている。

出場枠の限られた外国人獲得だけに集中せず、日本の学生選手の調査にも積極的に関わる。「いかにいい日本人を並べるかが鍵です」と、トップリーグの特徴と攻略法を見抜いたからだ。

昨季、採用担当者とともに東京の明治大学・八幡山グラウンドを訪れた際は、当時1年生だった山沢京平のボディバランスに注目。「いますぐ獲れないのか。いたらすぐに使う」 と興奮気味だった。

トップリーグ初優勝が期待される今季に向け、大学選手権9連覇を達成した帝京大学の主力を3名獲得。同じく帝京大学出身の姫野の主将抜擢については、こんな見方も示していたものだ。

「去年の姫野の活躍によって、大学生は『トヨタ自動車なら若い選手もすぐに活躍できる』と思ってもらえるのではないのでしょうか」

スミスやホワイトより先に来日していた名指導者と言えば、ロビー・ディーンズだ。かつてニュージーランド・カンタベリー州のクルセイダーズでヘッドコーチとなり、国際リーグのスーパーラグビーで5回も優勝した。以後オーストラリア代表で初のニュージーランド人監督となり、2014年からは群馬県太田市のパナソニックを率いてトップリーグを2度制している。

「スーパーラグビーを見ても、お金やタレントだけを持ったチームが勝ってきたわけではない。発足当初こそニュージーランドの首都チームがたくさんの選手を抱えて優勝していましたが、その後は都市部から離れたチームがコミュニティーを形成し、強くなっています」

パナソニックには元オーストラリア代表のベリック・バーンズ、早くから日本人スーパーラグビープレイヤーとなった田中史朗や堀江翔太ら、各国を代表する名手が揃う。それでもディーンズは「ラグビーはチームゲーム」と強調する。対話を重んじ、個の成長を組織力アップに繋げてきた。

「コーチ陣が、もし俺がロビーさんだったらブチ切れるな…というぐらいの勢いで意見を言っても、ロビーさんは怒らないんですよ」

こう証言したのは、OBで元日本代表の相馬朋和ヘッドコーチだ。上司として一家言を持ちながらも、部下の発言意欲は削がずに「チーム」の共通見解を練る。それがディーンズという器なのである。当の本人も、選手との個人面談や全体ミーティング時の意識についてこう語っていた。

「コーチの仕事は、選手が自分たちで考え、答えを見つけるのを手伝うことです」

このディーンズ率いるパナソニックを2シーズン続けて日本選手権決勝(昨季はトップリーグプレーオフ決勝を兼ねた)ファイナルで破っているのが、日本人の沢木敬介監督を擁するサントリーだ。

沢木は2015年、日本代表のコーチングコーディネーターとしてイングランド大会での歴史的3勝を経験。特に過去優勝2回の南アフリカ代表を破った際は、劇的なトライに繋がったサインプレーを提案している。当時のジョーンズヘッドコーチの反対を押し切って、である。

芯の強さは、自らもプレーしていたサントリーでも健在だ。「インターナショナルスタンダード」を題目に掲げ、イングランド大会時の日本代表首脳陣を相次ぎ臨時コーチに招へい。選手たちによれば、「試合の数日前に出場者の個人面談があり、その週の個々のフォーカスポイントをペーパー化して伝えてくれる」。それぞれの仕事を明確化し、練習中もかすかな弛緩を見逃さない。

この緊張感の根っこには、緻密さがある。同部所属で日本代表の真壁伸弥は、沢木体制初年度に指揮官のある「仕掛け」を見た。

「自分から濃い話をする時は対面式で、皆でアイデアを出し合う時は円状になって集まる。そういう場を作ったのが、沢木さんでした。それで選手がしっかりとラグビーについて考えるようになり、夏合宿ごろには食事前に選手が集まってパソコンを見るといったことを皆自然とできるようになっていきました」

現役時代のサラリーマン経験も活きていそうなこの動きについて、沢木本人も「ミーティングのストラクチャーは変えました。(席の)配置は全部、気にしてやっています」。9位だったチームに着任するや、目下、トップリーグ2連覇中。オフには必ずスーパーラグビーのクラブを現地視察し、アップデートを怠らない。3連覇を目指す今季も、一戦必勝を目指すなかでチームと人を成長させるだろう。開幕直前にこう語った。

「(現在のチームの成熟度は)70パーセントくらいじゃないですか。100パーセントになるのは、ファイナルの時です。それまで、(選手に)気持ちよくは、やらせないです」

トップリーグのクラブを支えているのは、日本という比較的治安がよい国の一流企業ばかり。まして2019年には、日本でワールドカップがある。これらの要素が折り重なったためか、少なくとも今季までは世界中の指導者が極東の市場に熱視線を送っていた。

おかげでこの国にはキャリア組の指導者が数多く集まり、あることを再認識させてくれた。闇雲に戦力かき集めるより、それぞれに見合ったチーム文化を作るほうがよいという真実だ。

今季のトップリーグでは、他にも強豪国の名コーチや作戦に芯を通す日本人コーチが勢ぞろいだ。グラウンドに行けば、「マネジメント力合戦」という視点でラグビーを楽しめるだろう。

取材・文:向風見也(スポーツライター) 写真:AFP/アフロ

 

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