本当に子供向けの放送ですか…⁉Eテレ『昔話法廷』の革新性

天海祐希、佐藤浩市……大物が教育番組へ参戦

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Eテレ『昔話法廷〜桃太郎裁判〜』の回で弁護人役を演じた天海祐希(写真は2017年)

教育番組の放送を主軸とするEテレは、ときどき私たちの想像の範疇を超えた番組を提供してくるときがある。例えば『香川照之の昆虫すごいぜ!』では、歌舞伎役者の香川照之に、昆虫の着ぐるみを着せて、ひたすら彼の昆虫愛と知識を披露する番組を放送していた。

最近では『植物に学ぶ生存戦略』で、擬人化した植物の生態を山田孝之が真剣に話すという、不定期番組が放送されている。毎回、何種類かの植物を取り上げて、あるかどうか不明な植物の生存戦略と人間の生き方になぞらえつつ、山田が語る……という番組である。放送中はSNSのトレンドに上がってくるほど、不可思議な魅力に大人たちが取り憑かれている。

そんなEテレ放送の番組で紹介したいのが『昔話法廷』だ。

これは教育番組なのか、それとも大人のたしなみか

『昔話法廷』がどんな番組なのか、簡単に説明しよう。

私たちは幼少期から、さまざまな童話や物語を読んできた。両親に読み聞かせをしてもらったこともあるだろう。ほとんどの話が、主人公に対しての悪役が登場。争ったすえに、正義の味方である主人公が勝って、めでたし、めでたしがパターンだ。

ただ平和そうな話の中にも、白雪姫に毒りんごを食べさせて“殺そう”とした王妃や、竜宮城から出て行こうとする浦島太郎を殺そうとした乙姫など、殺人が絡んでいる。この出来事を現代版の殺人事件として裁判にかけるのが『昔話法廷』だ。つまりお話の中では、ヒーロー&ヒロインとして悪人を退治しようとしていたことや、逆に悪人が仕掛けてきた殺人行為を、令和の今、裁判にかけてその罪の重さを問う。

放送時間は平日の午前中。そう、私たちが小学生の頃、夏休みに楽しみにしていたさまざまな教育番組が放送される時間帯だ。記憶を振り返ると化学の実験や人形劇など、ハートウォーミングな内容が放送されていた。小学校では唯一、授業で視聴が許されていた放送局である。このスタンスは一定化されているので『昔話法廷』は、子どもたちへ裁判とはどんなものか教える教育番組だ。そこにブレはない。

ただこの番組に「?」を添えるのが、1話完結の裁判風景を演じている大物俳優たちだ。

赤ずきんちゃんは心神喪失状態だった……?

魔女を殺して金品を奪った罪に問われている『ヘンゼルとグレーテル』の検察官は小西真奈美。裁判員に松本穂香。盗賊たちの家を襲撃した罪に問われている『ブレーメンの音楽隊』のロバ。検察官に林遣都、弁護人に木村多江。最終話となった『桃太郎』裁判は、脚本家・森下佳子に天海祐希&佐藤浩市と、まるで大河か朝ドラを収録するような面々が揃っていた。

今、各作品で引っ張りだこの人気者たちが真剣に裁判シーンを演じている。時には、被告人が人物ではなくロバや猿、スズメであることも。それでも一流の役者たちは、笑いを取りに行くのではなく真剣な芝居を続けている番組を見ていると、最初は「え、嘘でしょ?(笑)」と、大人の真面目っぷりを笑っているのに、最終的には演技力に圧倒されて、普通の傍聴人になってしまう。それだけ説得力のある番組なのだ。

ちなみに私が好きだったのは『赤ずきん』。赤ずきんは本来の物語上だと、おばあさんと自分を食べたオオカミをこらしめるために、お腹に石を詰めて成敗をする。これが刑法第199条の殺人罪にあたるという裁判だ。弁護人はこのとき、被告人の赤ずきんが心神喪失状態にあり、精神鑑定も受けたという。

ここで笑ってはいけない。検察側の証人には、オオカミの母親も出廷。息子のお腹に詰められた石も証拠品として提出されていたという本格的な裁判風景には……さすがに吹いてしまった。そして朝から大変なものを見てしまった気分に陥ってしまう。

加えておくとこの裁判には、検察官は吉田羊、弁護人に竹中直人が出演していた。もう民放の月9のキャスティングである。現在、番組は地上波で放送はされていないが、アーカイブをすべて番組ホームページから見ることができる。

文章にすると『昔話法廷』は、まるで大人の社会科教室のような難しさを思わせるが、あくまでも子供向け教育番組である。童話の世界を信じていた子どもに現実を絡めるのは、酷な気もする。でも「裁判とは何か?」ということが確実に勉強できる。

番組内では最終的な判決は放送されない。事件を理解して、判決を下すのはあなただ。

  • 小林久乃

    エッセイスト、ライター、編集者、クリエイティブディレクター、撮影コーディネーターなど。エンタメやカルチャー分野に強く、ウエブや雑誌媒体にて連載記事を多数持つ。企画、編集、執筆を手がけた単行本は100冊を超え、中には15万部を超えるベストセラーも。静岡県浜松市出身、正々堂々の独身。女性の意識改革をライトに提案したエッセイ『結婚してもしなくてもうるわしきかな人生』(KKベストセラーズ刊)が好評発売中。

  • 写真Backgrid/アフロ

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