日体大学生が告発! 箱根駅伝ランナーを潰した監督の仰天パワハラ
なぜ日本のスポーツ指導者は“人間のクズ”ばかりなのか
「もう、あの人の顔を見ることさえ耐えられないんです。監督がいる以上、このチームで走り続けることはできません。本当はもう一度、箱根駅伝を走りたかった。できたら実業団で陸上を続けたかった。でも、今では走ること自体が嫌いになってしまいました……」
本誌記者の前に現れた小林聡君(仮名)は、そう怒りと悔しさを滲(にじ)ませた。
日大アメフト部の「危険タックル」事件やボクシング連盟、体操協会など、パワハラ事件が続々と判明している。そんな中、今回本誌の取材で発覚したのは、70年連続で箱根駅伝出場中の名門校・日本体育大学陸上競技部駅伝ブロック監督・渡辺正昭氏(55)のパワハラ行為だ。
渡辺氏は’15年に日体大の駅伝監督に就任後、毎年チームを箱根へと導いている実力者。とくに今年は総合4位へと大躍進を果たした指導者だ。
そんな渡辺監督のパワハラを告発した小林君は、今夏まで同大駅伝ブロックに所属していた現役学生。陸上競技部時代には箱根駅伝にも出走したエリートランナーだ。将来を嘱望されていた彼が、箱根への思いを諦めなければならなかった理由はなんだったのか。
「渡辺監督の就任当初、前任監督との指導方針の違いにチームが動揺していました。ですが、監督は『俺の考えについてこられないヤツはいらない』という態度でした。何より選手たちのストレスになっていたのが”言葉の暴力”です。ウチは毎日、朝5時から練習が始まるんですが、その瞬間から地獄が始まる。走行中の列が少しでも乱れると、ペースを崩した選手を『もう練習に来なくていい。部も辞めて、大学からいなくなれ!』と罵倒するんです。それで練習参加を許されず、”干される”ヤツもいる。たったそれだけで、本当に箱根への道が断たれるんです。そんな極限の緊張が365日、4年間続くんです」(小林君)
渡辺監督の暴言は、指導者以前に人格を疑うようなものもあったという。
彼の”指導方針”では、怪我をした選手は練習場の雑草抜きをすることになっていた。渡辺監督は故障中の選手に向かって、「アイツ障害者じゃないか」と、身体障害者を揶揄(やゆ)する言葉を吐いたという。
それだけではない。渡辺監督は練習についていけなくなった学生に逆上し、伴走車から「ひき殺すぞ!」と面罵。その直後、選手にとって命である脚を蹴る体罰を行っていた(4枚目がその証拠写真)。さらに練習中、脱水症状になった同級生をかばった別の選手に対しても「余計なことするな!」と蹴りを入れ、大腿部に怪我を負わせている(3枚目写真)。
「僕が部を辞めた日もそうでした。走行中、集団から遅れた同期がいたので、『頑張れ』と背中を押したんです。すると、監督から『お前ら、何してるんだ。もう練習から離れろ!』と恫喝(どうかつ)された。練習がキツいのなら我慢できる。でも、監督の言葉は人として間違っています。あの瞬間、気持ちの糸が切れました。『じゃあ、辞めます』とその場でグラウンドを後にし、監督からはマネージャー経由で『出て行くんだったら、荷物をまとめて寮から消えてくれ』と伝えられました」(同前)
実は、渡辺監督には”前科”がある。’13年、日体大の監督就任前に指導していた豊川工業高校(愛知)でも体罰問題を起こし、懲戒処分を受けていたのだ。
さらに日体大監督に就任した’15年には、チームの絶対的エースだった山中秀仁(ひでと)(24)と対立。確執は解消されないまま、山中は4年時に部を去っている。当時、山中は自身のツイッターに、
〈監督のやり方について理解できなくてついて行く事ができませんでした〉
と、綴(つづ)っていた。現在、山中は『Honda陸上競技部』に所属、現役選手として活動を続けている。
前出の小林君の他に、本誌にパワハラを告発した人物がもう一人いる。高校時代から渡辺監督の指導を受け、日体大に進学した佐藤剛志君(仮名)だ。彼もまた、長年にわたる監督のパワハラに耐えかね、今夏、陸上部を退部している。
「渡辺監督は、高校で指導していた頃から何も変わっていません。大学に入ってから走り込みが原因で疲労骨折した時には、『ざまぁみろ!』と怒鳴られました。怪我をした選手に、『ざまぁみろ』はないでしょう。そんな暴言は日常茶飯事で、『お前はチームのがん細胞だ』と罵(ののし)られたこともあります」(佐藤君)
佐藤君は、いくら暴言を吐かれても、「箱根を走りたい。学費を出してくれている親を裏切りたくない」と我慢を重ねてきた。ところが、渡辺監督はそんな彼を練習にすら参加させなかったという。
「陸上部を辞める前、『もう僕を走らせる気はないんですか』と直談判しました。すると、『最初からお前を走らせる気なんてない。練習も大会も出るな』と平気な顔で言うんです。目の前が真っ暗になりました。これまで、監督のせいで、部員が辞めていっている。それなのに監督は知らん顔を決め込んでいるんです」
本誌は9月上旬、長野県内で合宿を張っていた渡辺監督に直撃した。
――渡辺監督。先生のパワハラについて、学生から告発を受けているのですが。
「へぇ〜……。いえ、まったくございません。練習とか、いろんな指導はしてますけど。叱咤激励も含めてね、はい」
――学生が嘘をついていると? 暴行の写真や診断書も確認しているのですが。
「いやでも、(パワハラは)ないですから」
――箱根を夢見た学生にとって退部というのはよほどの理由があってのことでは。
「いや、僕は絶対に4年間、辞めさせずにやろうという方針でやっています。ただ、いろいろな事情があるでしょ。だから、そういう場合はしょうがないもんね」
――選手に「辞めろ」と言ったことは?
「う〜ん、そうですね。都合が悪くて辞めていくっていう時には、みんな自分のいいように言うからね。誰かを悪者にしなきゃやってられないんじゃないかな」
渡辺監督はそう語り、パワハラを認めようとしなかった。後日、本誌が日体大に質問状を送ったところ、
「渡辺監督によるパワーハラスメントについては(本誌直撃後の)9月3日付にて陸上競技部部長より報告があった。今回のことが事実だとするならば、あってはならない事であり誠に遺憾である」
との回答が返ってきた。
なぜ日本スポーツ界の指導者は、クズばかりなのか。競技を問わずパワハラが明るみに出ているこの状況を、スポーツライターの小林信也氏はこう指摘する。
「これまで日本のスポーツ指導者は、パワハラを当たり前のようにしてきた。社会や企業が認識を改めても、スポーツ界だけは治外法権のようになっていたんです。それがここにきて、スポーツ界でも許容されなくなっている。世の中の流れが変わったんです。だからこそ、指導者も変わっていかなくてはならない」
いきすぎた勝利至上主義の結果、教え子を恐怖に陥れ、夢すらも奪ってしまう。このままでは東京五輪を前に、日本スポーツ界は破綻しかねない。その”病巣”はあまりに深く、底なし沼のようだ。
写真:アフロスポーツ(1枚目 山中秀仁)、日刊スポーツ/アフロ(2枚目 渡辺監督)
撮影:足立百合(5、6枚目)