まるでSF…!「脳に電極を埋め込む」脳神経外科の最先端医療 | FRIDAYデジタル

まるでSF…!「脳に電極を埋め込む」脳神経外科の最先端医療

世界のトップドクター・中冨浩文教授が語る「脳の科学と神秘」

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「脳」の仕事を選んだ理由

「大学3年のとき、授業で脳外科の手術を見学したんです。

初めて生きているヒトの脳を見て『きれいだなあ』と。美しくて神秘的で。これをやりたい、脳外科に進もう、と、そのとき思ったんですよ」

どれほど科学が進んでも「ヒトの脳は美しくて神秘的」という脳神経外科の中冨浩文教授。術数3600の執刀経験を生かして「VR法」を開発したトップドクターの「思い」は
どれほど科学が進んでも「ヒトの脳は美しくて神秘的」という脳神経外科の中冨浩文教授。術数3600の執刀経験を生かして「VR法」を開発したトップドクターの「思い」は

手術の執刀数、3600例。世界のトップドクターに挙げられる日本人脳神経外科医で、杏林大学医学部の中冨浩文教授がこの道を選んだ瞬間だ。

「脳って、こうやって頭蓋骨に守られてますよね。本当に大切な臓器なんです。そしてこの神経の1本1本にそれぞれの役割があって、全身を司っている。僕は、おそらくだれよりたくさんの生きた脳を見ていると思うんです。それでも、脳の美しさや神秘性、神々しさのようなものを常に感じます」

医学×コンピュータの世界は、想像を超える速さで進化している。イーロン・マスク氏の「脳に電極を埋め込んで、念で車を動かす」実験は、まるでSFのようにも聞こえるが…。

「あれは、かなり現実味のある未来です。わたしが今、実際に手がけている聴力の治療は、患者さんの脳に8ミリくらいの電極を埋め込んで聴力を取り戻す『聴覚インプラント』ですから」

脳のなかで、聴力を司る部分、聴こえを伝える神経がどれなのかは、すで解明している。そこに、ごく小さな電極を埋め込むのが「聴覚インプラント」で、2004年の初手術から現在まで6症例を経験した。電極を一時的に貼り付けて聴覚や顔の機能を守る聴神経腫瘍の手術は400症例を扱っているという。

「脳に腫瘍ができている患者さんの腫瘍を取り除く手術はかなり以前からあります。ただ、腫瘍を取り除くときに周囲の神経を傷つけてしまい、耳が聞こえなくなったり、顔の神経を傷つけて表情が動かなくなるというような後遺症も多かったんです。

でも今は、CTやMRI、血管撮影、PETなど、術前にいろいろな検査ができるようになりました。だから、それらを利用してVRを使った『VR法』を開発しました」

「VR法」では、患者のあらゆるデータをコンピュータを使って立体画像に落とし込み、実際の手術の動きと同じようにシミュレーションできる。執刀医は、あらかじめ患部の状態をしっかり「予習」することで、実際の執刀時にあわてず、より正確な手術ができる、というわけだ。同じ患者さんの脳を、VRで何度も何度も見て、準備するのだ。

長時間の手術を「神の手」ではなく準備と執念で

「脳の手術では、例えば3センチ四方くらい患部に、10時間とか、もっとかかることもあります。その小さな小さな部分にたくさんの神経が通り、そのひとつひとつが全部、大事なんです。どの機能も、傷つけたり損なうわけにはいきません」

長い手術は、朝9時に始めて深夜に及ぶこともあるという中冨教授。とんでもない集中力と体力が必要だ。

「上手な手術はどうすればできますか?って聞かれることがあります。神の手ではない、とぼくは思っています。手術を成功させるのは、執着心。ここの、この脳を、どこまでも丁寧に正確に細心の注意をもって扱っていくこと。神経ひとつだって、傷つけちゃいけない。正確に執念深くやるんです。

『ドクターX』で大門未知子が、『私、失敗しないので』って言いますよね。彼女は、じつは事前にものすごく準備をしている、っていうエピソードが後半に出てくるんです。天性の勘とかセンスもあるけれど、なにより細心の準備と現場での執念が、患者さんの命を守るんです」

母校・東大在学中は、アメフトをやっていた。

「体力はね、自信があるんですよ」

とはにかむ。

脳の科学は驚くスピードで進んでいる。イーロン・マスク氏の試みは「脳のどの部分が、体のどの部分に働きかけるか」を利用して、「念=意識」で身体を動かすという「科学」だ。かつて、脳は「再生しない臓器」とされていた。しかし今、中冨教授の手がける「聴力再生」をはじめ「脳の再生」は不可能ではなくなったという。

「でもね、人間の感情とか自我とか魂と脳の関係って、わかっていないんですよ。身体と脳の関係はほとんど解明されているのに。脳については、こんなに研究が進んでもわからないことが多いんです。

脳って、つやつやして『きれい』なんです。年配の患者さんでも若い患者さんでも、脳は美しい。陽にも当たらないし、誰の目にも触れないように大切に守られていますから。

いくつもの脳を見てきましたが、脳の神秘性、脳に対する畏敬は、今も変わりません。できれば死ぬまで、脳外科医でいたいです」

科学が進み、コンピューターが「万能」のように語られることも多い。最新の技術はほとんどSFのようだ。そんななか、最先端の医療を担うトップドクター、中冨教授の口から、こんな言葉が出るとは。

「最近、いちばん辛かったのは、深夜1時過ぎに手術が終わって教授室に戻ろうとしたら、エレベーターが止まっていたんです。節電、かな」

…え?

「階段でね、8階まで上がりました」

がんばれ。ドクター中冨。

手術のシミュレートをする「VR法」の画像。脳の患部を立体的に見せ、実際の手術手順に沿って展開していく
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脳の模型。「本物の脳は、豆腐のようなやわらかさ」なのだという
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脳の模型やVR画像を駆使して熱心に説明する姿勢に誠実さがにじむ中冨教授
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中冨浩文:1967年、福岡県生まれ。東京大学医学部、東京大学医学系研究科大学院脳神経医学卒、医学博士。現在は、国立研究開発法人・理化学研究所「脳神経科学研究センター」チームリーダー。杏林大学医学部脳神経外科教授。杏林大学医学部付属病院で、治療・手術を行っている。

  • VR画像提供中冨浩文教授

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