「カメ止め」世界一ホットな夫婦監督に聞いた創作と2人のヒミツ
興行収入16億円突破「カメラを止めるな!」&アニメ映画賞受賞「こんぷれっくす×コンプレックス」で大忙しの監督夫婦に直撃インタビュー!
社会現象を巻き起こしている映画「カメラを止めるな!」。9月6日に動員120万人を突破し、今や上田慎一郎監督はテレビに、ラジオにと引っ張りだこだ。
そんな中、上田監督の妻である、ふくだみゆき監督のFlashアニメ映画「こんぷれっくす×コンプレックス」の上映が始まった。この作品は今年、第72回「毎日映画コンクール」アニメーション映画賞を受賞している。この賞、近年では「君の名は。」(新海誠監督)、「かぐや姫の物語」(高畑勲監督)、「おおかみこどもの雨と雪」(細田守監督)といった、超ヒット作、大作、傑作が受賞している歴史ある賞なのだ。
夫は社会現象的ヒット! 妻は、それに先駆け歴史あるアニメ映画賞を受賞!!という、“いま世界で一番ホットな夫婦(めおと)監督”である上田&ふくだ両監督に「FRIDAYデジタル」がインタビューを行った。まずは出会いから伺ったのだが、なかなかビックリの展開となります。
――2人の出会いから教えてください。
〔ふくだ〕:私は、金沢学院大学を卒業した2010年3月に、実写映画を学びたくて上京しました。上田とは、2010年10月9日に開催された「Short Film Festa Nippon 2010」の授賞式の会場で初めて会いました。私が短編映画コンペ部門にノミネートされていた映画祭です(「chocolate」福田美由紀名義)。会ってすぐに、上田が主催していた映画製作団体「PANPOKOPINA」に参加しました。
――そして2014年12月にご結婚。
〔ふくだ〕:「PANPOKOPINA」に参加したあと、上田のブログに書かれていた「あの日あの時『琵琶湖イカダ漂流事件』」という記事を読みました(上田監督が高校2年生の夏に友人たちと一緒にイカダで琵琶湖横断を試み、救助隊が出動し、NHKで行方不明が報道され、警察沙汰の騒ぎになった顛末が記載されている)。
それを読んだときに「私はこの人と結婚しよう」と思いました。そのときは、まだ付き合っていなかったのですが、上田に「上田のDNAが欲しい」ということを伝えました。上田からは「それはセックスがしたいということ?」と聞かれたんですが、「いや、しなくてもいいのです。スポイトでいいので、私が30歳くらいになったら、遺伝子をください」と言いました。それが、2人の関係の最初だと思います。
――な、なるほど。交際はいつから?
〔ふくだ〕:2011年4月からです。私は“団体のトップとかと付き合う女”が好きではなかったのですが、ちょうどそのとき、「PANPOKOPINA」が活動を休止していました。活動休止中で、上田が団体のトップではなくなり、私が告白したんです。
――では上田監督。「ふくだ監督論」をお聞かせください。
〔上 田〕:「こんぷれっくす×コンプレックス」は、ワキ毛フェチの女の子の話なのですが、ワキ毛を題材にしたふくだの作品は、「失恋」に続いて2作目なんです。「耳かきランデブー」という作品では、“耳かき”フェチの女の子が登場します。ふくだはフェチな女の子を描くことが多いのですが、それを日本映画特有のシリアスな感じにならずに、ポップで明るいエンターテインメントに仕上げるのは、素質ですかね。エンターテインメントに仕上げるという部分は、僕のチカラが大きいのですが(笑)
――「こんぷれっくす×コンプレックス」の制作で、上田監督が助言したことは?
〔上 田〕:映画制作では、お互いに、企画、プロット、脚本などの段階から協力して、「こうした方がいいんじゃない」とアドバイスし合っています。フェチの女の子や、思春期の女の子に特有の「男の子のこういうところが気持ち悪い」だったり、「男の子のこういうところにキュンとする」という気持ちは僕には分からないことなので、「こんぷれっくす×コンプレックス」では、そういった女の子の気持ちを、面白おかしく作品の中に包みこんでいく作業で助言をしました。
男のワキ毛が好きな主人公の「ゆいちゃん」が、DVDで観た俳優のワキ毛などに点数を付けていく場面があるのですが、「点数を付けてみたら?」と助言したのは僕だったと思います。
――ふくだ監督の「上田監督論」をお願いします。
〔ふくだ〕:上田のよさを一番出せるのはコメディなのかなと思います。上田の作品では、主人公よりも周りの人間たちの方がキャラが濃くて、主人公が振り回されていくという作風が多いですね。上田自身も言っていますが、「ダメな人やポンコツな人を描きたい」という気持ちがあるのでしょう。女性に振り回される男性もよく登場しますが、上田は、少年漫画に登場する“幼馴染みのじゃじゃ馬ヒロイン”が好きなのだと思います。
――「カメラを止めるな!」の魅力は?
〔ふくだ〕:上田は、王道ができる人で、ベタをきちんと面白く作れる人です。作風としては私のほうがクセが強いです。インディーズ映画は、クセが強かったり、作家性があったりする方が良いとされがちですし、実際に、インディーズ映画の魅力のひとつでもあるのですが、一方では、クセの強さはインディーズ映画が世に拡がりにくい要因にもなっています。上田は、インディーズ監督にしては珍しく、メジャーっぽい作品を作れる監督で、王道やベタを気持ちよく作れます。「カメラを止めるな!」でも、王道なところがみなさんに愛してもらえている要因のひとつかなと思っています。
〔上 田〕:メリットは、仕事仲間としてすぐに相談できること、やりとりが早いこと、遠慮がないから率直な意見を言い合えることかな。例えば、「こういう場所に女の子はピアスを付けて行かないよ」とか、「女の子はこういう状況で、こういうファッションはしないよ」など、すぐに教えてもらえます。僕よりもふくだの方がぜんぜんセンスがいいので、自分の作品の衣装などはすべてふくだに任せています。デメリットは……、すぐに思い浮かばないですね。
〔ふくだ〕:すぐシナリオを読んでもらえたり、相談したいことをすぐに相談できるのはメリットだと思います。お互いに、お互いの作品に参加することがほとんどなので、準備を一緒にしたり、仕事の割り振りがすぐにできたりします。
私は編集は上田にほぼ丸投げみたいなところがあります。上田もデザイン的なことを私に丸投げしてくるときがあります。得意分野、不得意分野で棲み分けている感じです。結婚前に3年間の同棲時代があったのですが、そのころからそういう感じでした。デメリットとしては、上田に“オン・オフ”がないので、それでイヤだなと思うことはあります。逆に私が完全オフでいるときに仕事の話とかを振られてくると、腹が立つときがあります(笑)
――「こんぷれっくす×コンプレックス」は、第72回毎日映画コンクールにてアニメーション映画賞を受賞し、1月に授賞式がありました。過去には日本を代表する作品の数々が受賞している賞(※本記事 文末参照)で、インディーズ映画では史上初の快挙となりました。受賞を知ったときの心境を教えてください。
〔上 田〕:すごいなと思いました。自主制作アニメでは史上初ということだったし、面白い作品を作れば、大きな壁もぶち破ることができるんだなと改めて実感できました。
〔ふくだ〕:私はもちろんこの作品が大好きですし、力もあると思っているのですが、ワキ毛のアニメを、よくぞ「2017年ナンバーワンだ」と言っていただいたなと(笑) でも、メジャーと同じ舞台で評価されるとは思っていなかったので嬉しかったです。
――受賞してから変わったことは?
〔ふくだ〕:インディーズの仲間たちからは「すごいね」と言ってもらえたのですが、世間的にはぜんぜん話題にならなかったですし、メディアでもあまり取り上げてもらえませんでした。仕事がちょっとだけ来たということはあるのですが、私の中では何も変わらなかったです。
――上田監督は「カメラを止めるな!」の大ヒットで変わったことは?
〔上 田〕:生活的には、こんなに忙しくなったことは今までなかったです。僕自身はそんなに変わったことはないのですが、周りの僕に対する扱いが変わりました。街で声を掛けられることも今まではなかったことです。まだ「カメラを止めるな!」が公開されてから2ヵ月半くらいしか経っていないのですが、取材を受けたり、テレビに出たり、ラジオに出たりなど、1本の映画に対してこんなに多くしゃべることはなかなかないので、自分の映画をこんなにたくさんの角度から見つめ直したことはすごく貴重な経験だなと思います。
――ふくだ監督から見て、上田監督は変わりましたか?
〔ふくだ〕:本人が変わったことはほとんどないです。ただ、しゃべりはこなれてきました(笑)
――お互いに、クリエーターとして「注文」したいことは?
〔ふくだ〕:上田には、ずっとコメディをやっていてほしいなと思います。ヘンにかっこ付けず、映画が好きなまま、自分の好きな映画を作ってほしいなと思います。
〔上 田〕:ふくだは、時々、心が折れるときがあります。「ここはもっと面白くなるな」というところを、「これでいいか」みたいに終わらせてしまうところがあって、そういうときに「諦めるなと」と思います。ただ、そういうところがあるからこそ、ああいう作品を作ることができるのかもしれませんので、何ともいえないところですね。
あとは、もちろん子育ては一緒にしていくのですが、母親であると同時に、ずっと作品を作り続けていくクリエーターであり続けてほしいなと思います。
――人生のパートナーとしての「注文」は?
〔上 田〕:う~ん、思い浮かばないな。
〔ふくだ〕:(上田監督に向かって)妻として、親として、完璧ですか!?(笑)
〔上 田〕:パーフェクトだったりしたら逆にイヤだと思います。不完全なところも含めて、特に注文はないです(笑)
――ふくだ監督から上田監督に「注文」は?
〔ふくだ〕:もうちょっと、ちゃんと生きて欲しいです。
〔上 田〕:ちゃんと生きてるやん(笑)
〔ふくだ〕:もうちょっと大人としての日常生活が送れるようになってほしいなと思います。映画のことを考えていると電車も乗り間違えるし、忘れ物も多いし、イタリアにノートパソコンを忘れて来たり、フランスに眼鏡を忘れて来たり。そういうひとりの大人として欠けている部分があるので。
〔上 田〕:私生活や衣食住を犠牲にした部分を、クリエイティブに持ってきているわけよ!
〔ふくだ〕:そうは言うけど、人の親になったのだから、息子の前ではもう少しちゃんとできるようになってほしいなと思います(笑)
〔上 田〕:いや、そういうバランスが取れるようになってしまったら、「カメ止め」みたいな映画は撮れないのよ!
*** *** *** ***
お互いがクリエーターとして尊敬し合い、夫婦として愛しみ合っていることが伝わってきた2人。
ふくだ監督の晴れ舞台となった舞台挨拶では、上田監督が、ふくだ監督の毎日映画コンクールでのアニメーション映画賞受賞の快挙を改めて報告。会場中から大きな拍手と歓声が沸き起こった。
ふくだ監督は「受賞したとき、『私の方が先に売れるな』と思ったのですよ。気付いたら、(上田監督が)すごく売れていて!」と笑いを誘い、さらに会場を盛り上げた。上田監督は「『次は俺の番や』と言っていましたから」とふり返っていたが、ふくだ監督は「ちょっと悔しいですけど」と思わず本音をポロリ。上田監督は、そんなふくだ監督に「がんばろう!」と優しく声を掛けていた。
上田監督は「今が忙しさのピークです」といい、ふくだ監督は2017年3月に誕生した長男の子育てに邁進中。現在のところ、2人とも身動きが取れない状態かもしれないが、インタビューでは、2人の映画への愛が随所でにじみ出ていた。2人とも、きっと次なる作品、またその次の作品で、私たちを楽しませ続けてくれるだろう。
取材・文・撮影(特写・「こんぷれっくす~」舞台挨拶):竹内みちまろ
上田慎一郎 監督作品 一部
2011年長編映画「お米とおっぱい」
2011年短編映画「恋する小説家」
2014年短編映画「彼女の告白ランキング」
2014年短編映画「Last Wrdding Dress」
2015年短編映画「猫まんま」(オムニバス映画4/猫)
2015年短編映画「テイク8」
2016年短編映画「ナポリタン」
2017年短編映画「ナニカの断片」
(オムニバス映画「サングラス」「炊飯器」「ガゼルがパインツ」)
2017年長編映画「カメラを止めるな!」
ふくだみゆき 監督作品 一部
2013年「マシュマロ×ぺいん」デビュー作
2017年映画「耳かきランデブー」
2017年アニメ映画「こんぷれっくす×コンプレックス」
⇒〈ワキ毛×青春〉短編Flashアニメ「こんぷれっくす×コンプレックス」公式サイト
毎日映画コンクール
今年で72回目の歴史を誇る映画賞。アニメ部門の賞として「アニメーション映画賞」(以下、アニメ賞)と「大藤信郎賞」(以下、大藤賞)のふたつがある。
2017年(第72回)、「こんぷれっくす×コンプレックス」はアニメ賞受賞。大藤賞は「夜明け告げるルーのうた」だった。前年(第71回)はアニメ賞 「君の名は。」、大藤賞「この世界の片隅に」が受賞した。
さらに21世紀に入ってからの抜粋でも以下のような大作、傑作、ヒット作が目白押しだ――。「かぐや姫の物語」(14年 第69回アニメ賞)/「おおかみこどもの雨と雪」(12年 第67回アニメ賞)/「カラフル」(10年 第65回アニメ賞)/「サマーウォーズ」(09年 第64回アニメ賞)/「スカイ・クロラ The Sky Crawlers」(08年 第63回アニメ賞)/「崖の上のポニョ」(同 大藤賞)/「河童のクゥと夏休み」(07年 第62回アニメ賞)/「時をかける少女」(06年 第61回アニメ賞)/「鉄コン筋クリート」(同 大藤賞)/「劇場版 鋼の錬金術師 シャンバラを征く者」(05年 第60回アニメ賞)/「マインド・ゲーム」(04年 第59回大藤賞)/「東京ゴッドファーザーズ」(03年 第58回アニメ賞)/「クレヨンしんちゃん/嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦」(02年 第57回アニメ賞)/「千と千尋の神隠し」(01年 第56回アニメ賞)等々。
「こんぷれっくす×コンプレックス」の受賞が、如何に歴史的な偉業か分かるだろう。
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